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未知なる世界の歩き方  作者: リース
2章 地下帝国パンデラ編
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第35話 地下帝国パンデラ

ミサキとリーナは、魔族の都市・パンデラへと足を踏み出した。


「本当に凄い……!地下なのにこんなに明るいなんて……!」


リーナが目を丸くする。


「見れば見るほど現代にそっくりの景色だな……」


ミサキも息をのむ。


魔族の街は、日本の地下街を彷彿とさせる景色だった。


天井の明かりが街を照らし、多種多様の店が並び、壁には巨大な映像広告が映し出されている。


道端では魔族が大きな箱型の魔導具を操作して飲み物を買い、ベンチでは魔族の少女たちが小さな板状の魔導具を操作しながら楽しそうにおしゃべりし、黄金の人形が歩いて移動しているのも見えた。


リーナは呆然と立ち尽くしながら、壁の映像広告を指出す。


「ミサキさん……あれは一体なんなんでしょうか?次から次へと色々なものが映ります……!」


「ああ……あれはテレビだよ。簡単に言うと喋って動く絵を映す道具なんだ」


「そんな事ができるんですか……!?凄い……!」


「まさか異世界でテレビを見ることになるとは思わなかったな……」


今度はミサキが近くを歩く黄金の人形を指差した。


「あの黄金の人形みたいなのも気になるな……あれも魔族……って訳でもないよな?」


「あれは、多分ゴーレムだと思いますけど、術師らしき人が近くに居ませんね……」


「術師が近くに居ないとゴーレムは動かせないのか?」


「それが普通なんですが……この街ではそんな常識も覆されてるのかもしれません……」


まるで魔法と最先端技術が融合したかのような、未知の世界。


二人にとって、この街の光景は想像もできないものだった。


リーナは震える手でミサキの袖をつかんだ。


「……私、夢を見てるんじゃないですよね?」


「ああ……これが現実みたいだ」


魔族の都市・パンデラ――そこは、リーナにとっても、そしてミサキにとっても、未知の未来都市だった。


***


ミサキとリーナは、未来都市のようなパンデラの街を歩き、この街の総合ギルドの前に来た所で、お互いに顔を見合わせた。


「本当なら、この街をもっとゆっくり散策したいんだけど……」


ミサキがため息混じりに言うと、リーナも苦笑しながら頷いた。


「うん。でも、今はそれどころじゃないですよね。

お金も荷物も失っちゃったし……まずは仕事を探さないと」


「何もない状態で生きていくのは流石にキツいし……お金を稼がなきゃ」


ミサキは腕を組んで考え込み、総合ギルドに張られてる求人情報を見る。


色々な所の求人情報があり、職には困らなさそうだ。


「私、料理は得意だから、レストランとかで働けるかも」


リーナはミサキの提案に目を輝かせた。


「それはいいですね!ミサキさんの料理はすごく美味しいですし、きっとすぐに採用されますよ!」


「そう言ってもらえると心強いよ」


一方、リーナは自分のスキルを考える。


リーナはミサキほど特技が多い訳では無かったが、回復魔法には自信があった。


「じゃあ、私は治療院とかで働けないかな。

回復魔法なら、魔族の人たちにも役立てるかもしれないですし」


「それなら、ちょうどいいんじゃないかな?魔族でもケガをする事はあるだろうし」


二人はそれぞれ仕事を探すことに決め、手分けして街へ向かうことにした。


「お互い、良い職場だといいな」


「はい!頑張りましょう!」


こうして、ミサキはレストランへ、リーナは治療院へと向かい、魔族の都市での新たな生活を始めることとなった。


***


ミサキは魔族の都市パンデラにあるレストラン「バーガー・ヘル」の中に入る。


店内はモダンでありながらも温かみのある雰囲気で、落ち着いたジャズのような音楽が流れており、席には魔族たちが楽しそうに食事をしている。


「いらっしゃいませ、おひとり様ですね」


女性の魔族が笑顔で迎えてくれる。


「いえ、ギルドの求人を見てきました、ここで働かせてください」


「わかりました、少しお待ちください。店長さーん!」


店員は店の奥に声をかける。


すると、店の奥にいた店主らしき男性がミサキに気づき、近づいてきた。


彼は短い角を持ち、エプロンをつけた屈強な体格の魔族だった。


店主は腕を組み、ニヤリと笑った。


「なるほど、手伝いは何時でも大歓迎だ!じゃあ、まずは簡単な仕事からやってもらおうか」


こうして、ミサキは働かせてもらえることになり、最初に与えられた仕事は芋の皮むきだった。


厨房の一角に案内されると、大量の芋が並べられた作業台を前に、ミサキは包丁を手に取る。


「よし、やるか」


ミサキは芋を手に取り、手際よく包丁を動かし始めた。


シュルッ、シュルッ――。


芋の皮が、まるでリボンのように滑らかにむかれていく。


ミサキの手元は正確で速く、何より無駄がない。


高速で、かつ魔法のようにむけていく芋に、厨房のスタッフが驚きの声を上げる。


「すごい手際だな……!」


店主も目を見開き、感心したように頷いた。


「ほほう、お嬢さん、なかなかの腕前だな」


「料理は趣味なもので」


ミサキはさらに作業を進めていった。


昼時が近づくにつれて、レストランに次々と客が入ってくる。


「テーブル7番に絶品ハンバーガー1つ!10番に絶品ハンバーガーとフライドポテトを1つ!」


店員のオーダーのコールが厨房に飛び交う中、ミサキは素早くかつ正確に包丁を動かしていた。


そして、昼のピークタイムがようやく過ぎ去り、客足も一段落した頃、ミサキはようやく包丁を置き、息を吐くように背伸びをした。


「ふぅ……やっと一息つけるな……」


「おう、お疲れさん!」


そして、厨房のスタッフと一緒に賄いの時間となった。


「よし、今日はうちの名物を食べてもらおうか」


店主が取り出したのは、柔らかそうなバンズと、それに挟まれた黒々としたハンバーグ、トロトロのチーズのハンバーガーだった。


料理からは美味しそうな香りが漂ってくる。


「これがここの名物、絶品ハンバーガーさ。うちの自慢の一品だ」


ミサキはさっそく手に取り、大きくかぶりついた。


「……っ!うまっ!」


肉の旨味が濃厚で、ソースの味と絶妙に絡み合っている。


チーズもトロトロで濃厚、非常に深い味わいだった。


「うまい……今まで食べたハンバーガーの中で一番美味いかもしれない……!」


「ははっ、そう言ってもらえると嬉しいな!」


スタッフたちと笑い合いながら、ミサキは新しい環境に少しずつ馴染んでいくのを感じていた。


***


ミサキはふと、店内を片付けている黄金のゴーレムに目を向ける。


無機質なその姿が、どこか気になっていた。


「そういえば、街中でよく見かける黄金のゴーレムって何なんですか?」


「ああ、あれか」


店主は手を止めて頷いた。


「あれは魔王様が動かしてるゴーレムだよ。今の魔族はとにかく人数が少ないからな。

どうしても人手が足りないって所は魔王様に頼んで使わせてもらうって訳さ」


「そんなに人数が少ないんですか?」


「ああ、100年前の戦争でな。好戦的で支配的だった魔族たちは滅びた。

今残ってるのは、平和に暮らしたいと願った少しの魔族だけだ」


ミサキは改めて街の様子を思い返す。


現代的な都市ではあるが、人の姿は少なく、代わりに黄金のゴーレムが働いている所をよく目にする。


「それでも作業の効率化が進んで、だいぶゴーレム無しでも回るようになったほうさ。

100年前の時なんて、今の10倍はゴーレムが居たんじゃないかな?」


「10倍!?そんなに!?」


「アッハッハ!あの頃は魔族の人数より魔王様のゴーレムの方が多かったぐらいさ!」


人間とほぼ同じ作業ができるゴーレムを、それほどまでに大量に動かせる魔王様とは、一体どれほどの存在なのだろうか……


「そうだ、店主さん、異世界に行く魔法……って知ってますか?」


ふと、思い出したかのようにミサキは聞く。


突然の質問に店主は目を細め、少し黙ってからゆっくりと首を振った。


「異世界?……いや、少なくとも俺の知ってる限りでは、そんな魔法は聞いたことがないな。

魔王様は何かご存じですか?」


店主は黄金のゴーレムにも尋ねてみるが、首を横に振るだけだ。


「そう……ですか……」


ミサキは思わず顔を伏せた。


これほどの技術を持つ国でさえ、何も知らないなんて。


元の世界に帰る方法なんて、本当に存在するのだろうか?


そんな不安が頭をよぎる。


「まぁ世界は広い。ここに無くても、きっとどこか他の国にはそんな魔法があるかもしれないさ」


落ち込むミサキに店主が励ます。


「そ……そうですよね……」


ミサキはなんとか気を持ち直す。


「じゃあ、この島の外に出るにはどうしたらいいんですか?」


店主は大きく息をつきながら答えた。


「この島から外に出る方法はたった1つ。1年に1度だけ来る貿易船に乗る事だ」


「貿易船?」


「ああ。人間が魔族に手を出さない限り、魔族はここから外に出ない。それが百年前の戦争の後に結ばれた契約だ」


「そんな決まりが……」


「だから、外の世界と物資をやり取りするのは、決められた貿易船だけ。けどな……」


店主は申し訳なさそうに言った。


「貿易船は、つい先日来たばかりだ」


「えっ……じゃあ、次に来るのは?」


「1年後だ」


「……そんな」


ミサキは唖然とした。


「悪いな。だが、ここで生きる手段さえあれば、暮らしていくのは難しくないさ」


「そう……だな……」


しばらくはこの街で生きていくしかない、ミサキはそう決意せざるをえなかった。

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