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未知なる世界の歩き方  作者: リース
2章 地下帝国パンデラ編
34/161

第34話 滅びたはずの存在

暗闇の中に、一筋の光が差し込む。


ミサキは、どこかふわふわとした感覚の中で目を覚ました。


そこは、見渡す限り何もない、真っ白な空間だった。


「ここは……?確か私は、海の中に飛び込んで……」


――その時。


すぐ目の前に、黒髪の少女が立っていた。


「おまえは……?」


少女は静かに微笑む。


自分と同じような黄色味の肌に、漆黒の髪。


彼女はどこか儚げな雰囲気をまとっていた。


「あなたは、ここで死んじゃいけない」


穏やかな声だったが、どこか強い意志を感じる。


「私が助けてあげる。でも、そのためには……」


彼女の瞳が、ペンダントへと向けられる。


ミサキの胸元にあるマジックペンダントが、淡い光を放っていた。


「このペンダントの魔力と引き換えに」


「……!」


ミサキはペンダントを握りしめた。


これは、現代世界に帰るための大事なもの……


でも


(死んでしまったら、意味がない)


意を決して頷くと、少女は満足そうに微笑んだ。


「ありがとう」


その瞬間、視界が光に包まれた。


ガバッ!!


ミサキは勢いよく目を覚ました。


「……っ!?」


荒い呼吸を整えながら、周囲を見渡す。


そこは、見知らぬ部屋だった。


(ここは……どこだ……?)


「ミサキさん……!」


すぐ隣のベッドで、リーナが目を覚ましていた。


彼女の表情は安堵と驚きが入り混じっている。


「よかった……!本当に……!」


「リーナ……私たち、一体……?」


「私達、大嵐の海に放り出されて……気が付いたらここに……」


「……!」


ふと夢の事を思い出す。


彼女がきっと私達を助けてくれたんだろう。


しかし、その代償は……


ミサキは自分の胸元に手を伸ばし、マジックペンダントを取り出した。


しかし


「……ヒビが入ってる」


光沢を失い、割れ目が走るペンダント。


もはや魔力を感じることもできない。


(また……1からやりなおしか)


肩を落とすミサキ。


しかし不運はそれだけでは無かった。


「そういえば……荷物は……!?」


「それが……全部なくなってしまったの。リュックも、装備も……」


「……!!」


命あってこそとは言え、今まで集めた全てを失ってしまった。


武器も、鎧も、お金も、冒険道具も、全部……


すると


コン、コン


部屋のドアがノックされた。


「目が覚めたようですね」


入ってきたのは、角の生えた女性だった。


長い銀髪に、深紅の瞳、黒い肌。


「……あなたが、助けてくれたんですか?」


「ええ。海の上で倒れていた君たちを見つけて、ここまで運びました」


「あ、ありがとうございます……あの、1つ質問していいですか?」


「はい、何でしょうか?」


リーナはおずおずと、バツの悪そうな顔をしながら、ゆっくりと口を開けた。


「貴方……もしかして……魔族ですか……?」


リーナの声には驚きが滲んでいた。


「黒い肌に角……本で見た魔族の特徴と同じです……」


目の前に立つ銀髪の角を持つ女性は、微笑を浮かべながら、静かに答える。


「はい。私の名はアースラ。魔族です」


その答えに、部屋の空気が一気に張り詰める。


魔族は100年前の戦いで滅びたはず。


「ありえない……魔族は、100年前に滅んだはずじゃ……?」


リーナは困惑しながら、アースラと名乗る女性を見つめる。


しかし、彼女はゆっくりと首を横に振った。


「確かに、100年前の戦いで大勢の魔族が滅びました。

けれど、それは"好戦的で支配的な魔族"だけ。すべての魔族が消えたわけじゃない」


「……どういうことですか?」


「魔族の大半は戦争によって滅びたのは事実。

だけど、争いを好まない者たちは生き延び、こうして地下に隠れ、細々と暮らしているの」


ミサキは、アースラの言葉を飲み込むようにじっと考えていた。


滅びたと思われていた魔族が、まだ生きていた。しかも、地上ではなく地下に。


「……信じられません」


リーナは混乱した様子だったが、アースラは穏やかに笑った。


「信じられないのも無理はないわ。でも、私達はずっと、こうやって隠れ住んでたの。

私達がこうやって過ごせるのも、魔王様のおかげ」


「魔王だって!?」


ミサキとリーナが同時に身を乗り出す。


魔王、100年前に勇者に滅ぼされた存在。まさか、その魔王も生きていると言うのか。


「ふふっ、大丈夫よ。魔王と言っても100年前に倒されたあの魔王じゃないわ。

新しい魔王様は優しくて、穏健派で、私達の事をいつも思ってらっしゃいます」


「そうなんだ……よかった」


もし、あの人類の敵である魔王まで生きていたと思ったら……しかし、どうやら杞憂だったようだ。


「あの、アースラさん、私達、お金も荷物も全部失ってしまったんです。どうしたらいいですか……?」


「それなら心配いらないわ。ここで働けばいいのよ。大丈夫、みんな優しいわ」


「そういえば……ここはどんな街なんだ……?」


ミサキは部屋の扉をそっと開けた。


ミサキとリーナの目に飛び込んできたのは、信じがたい光景だった。


「……なっ!?」


「嘘……!」


そこは、地下とは思えないほど広大で整った空間だった。


まるで都市をまるごと建物の中に作り込んだかのような場所。


天井からは魔法の明かりと天窓からの光が、まるで昼間のように建物を照らす。


通路の両側にはずらりと店が並び、色とりどりの看板が飾られていた。


さらに、壁には魔導具で構成された大きな映像広告が設置されており、動く文字や商品の映像が流れている。


歩いている魔族は何やら小さな板状の魔導具で話をしていて、魔族たちと一緒に黄金の人形のような存在がちらほら建物を歩いていた。


「これが地下だって……!?」


「すごい……こんな場所があるなんて……!」


アースラはクスクスと笑う。


「ふふっ、最初は驚くでしょうね。でもそれもこれもみんな魔王様のおかげなのよ。

魔王様のおかげでここまで文明が発達したし、地下に居ながら地上に居るように過ごせるようになったんです」


ミサキ達は言葉を失った。


一体今の魔王とは、一体どれぐらいとんでもない力を持つ存在なんだろうか……


「私たちは、ただ戦争に巻き込まれただけ。本当は、平和に暮らしたい者たちもいたのよ」


アースラは静かに語る。


「でも、地上の人間たちは、"魔族=敵"としか見てくれなかった。

だから、私たちは地下に逃げ、こうして別の文明を築いたの」


「そんなこと、全然知らなかったです……」


リーナは、扉の外の景色を見つめながら呟く。


「仕方ないわ。この事を知ってる地上の人間は、ほんのわずかだもの」


「……」


「ふふっ、でも私達は不幸だなんて思っていないわ。

平和だし、魔王様がこれだけ街を発展させてくれたんですもの。

二人もきっと気に入ると思うわ」


「……ああ、確かにこの街は凄い」


「本当ですね……」


二人は扉から見える、別次元の景色を見ながら呟いたのだった。

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