第31話 豪華客船エンタープライズ2
「腹減ったなぁ……」
ミサキがそう呟きながら、リーナと共に船内を歩いていた。
「うん。そろそろ何か食べたいですね」
ミサキとリーナはあの後、再びバンケットルームに戻って来た。
今は昼食の時間な為、ウェイターやウェイトレスたちが上品な制服に身を包み、ゆったりとした動作で料理を運んでいる。
各席のテーブルにはテーブルクロスがかけられており、ワイングラスやカトラリーがきちんと整えられていた。
「さて、何を頼もうか?」
席に案内された二人はメニューを開く。
「うーん……お勧めは……」
リーナがメニューを指で辿ると、『本日のおすすめ:白身魚のムニエル』という文字が目に入った。
「豪華客船の魚料理か……さぞや美味しいんだろうな」
「じゃあ、それにしましょうか!」
「ああ、そうだな」
ウェイターを呼び、二人は『白身魚のムニエル』を注文した。
「リーナ、今はピアノを弾けるみたいだよ」
バンケットルームがレストランになってる間は、他人の迷惑にならない範囲でピアノを好きに弾けるようだった。
「本当ですか!?早速弾いてみます!」
料理が運ばれてくるのを待つ間、リーナはピアノの前に座る。
鍵盤に手を伸ばすと、緊張した様子で指を一本ずつ動かし
ぽーん……ぴーん……と音を鳴らす。
メロディにはなっていなかったが、それでもリーナは嬉しそうに目を輝かせていた。
「ピアノって楽しいですね……!」
笑顔を浮かべる彼女に、ミサキも思わず微笑んだ。
「ミサキさんも弾いてみませんか?」
「そうだな……せっかくだし、少しだけ」
代わってピアノの前に座ったミサキ。
深呼吸ひとつ、指を鍵盤に乗せると――
優しくも激しい旋律が流れ始めた。
ミサキが弾き始めたのは、日本にいた頃よく聴いていたJ-POP。
柔らかなタッチで丁寧に、そして時に情熱的に。
まるでプロの演奏のような、洗練された指使いで音を紡いでいく。
周囲のレストランの利用客たちは、自然と耳を傾けていく。
ピアノの音がホール全体を包み込み、まるで音楽会のような静けさと温もりが広がっていた。
最後の音が静かに響き、演奏が終わったその瞬間――
ぱちぱちぱち、と拍手が広がる。
リーナも感動したように胸に手を当てていた。
「すごかったです……まるで、本当に演奏家みたいで……!」
「ピアノは私の趣味だからね」
こうして二人のピアノの経験は最高なもので締めくくられたのだった。
「お待たせいたしました」
しばらくすると、ウェイターが綺麗に盛り付けられたムニエルをテーブルに置いた。
黄金色に焼かれた魚は表面がパリッとしており、付け合わせには彩り豊かな野菜が添えられている。
レモンの香りがふんわりと漂い、ソースは艶やかに輝いている。
「うわぁ……美味しそう……!」
リーナが目を輝かせる。
「いただきます!」
ミサキがフォークを手に取り、カリッと焼き上げられた魚の皮を軽く切った。
中からはふわりと白く柔らかい身が現れる。
「ん……っ」
口に入れた瞬間、香ばしい風味と魚の甘みが口いっぱいに広がった。
レモンとハーブの香りが程よく効いていて、ソースとの相性も抜群だ。
「予想通り……美味いな」
ミサキは口元をほころばす。
リーナも口に運ぶ。
「……っ!ホント!おいしい!」
リーナの頬が緩み、うっとりとした表情になる。
「外はカリッとしてるのに、中はふわふわ……!これ、本当に美味しいです!」
「ああ、流石豪華客船のメニューだけはあるな」
二人は夢中でムニエルを食べ進めた。
そして、二人はその後も色々注文して、お腹いっぱい食べたのだった。
「ふぅ……ハラいっぱいだ」
「美味しかったですね!」
二人は大満足の笑顔でバンケットルームを後にした。
こうして、豪華客船の船旅はますます楽しくなっていくのだった。
***
食事を終えたミサキ達は、次に甲板に出ていた。
空はどこまでも青く、白い雲がゆっくりと流れていく。
遠くでは海鳥たちが甲高く鳴き、静かな波の音が耳に心地よく響いている。
「やっぱり船旅って気持ちいいな……」
ミサキが甲板の手すりに寄りかかりながら、大きく伸びをした。
潮風が心地よく髪をなびかせる。
「うん……本当に気持ちいいです……」
リーナも隣で微笑みながら、広がる水平線を眺めている。
太陽がきらきらと水面に反射し、まるで宝石が散りばめられたかのような輝きだった。
「ねぇ、リーナ。せっかくだし、展望台に上ってみようよ」
「展望台?」
「ああ、せっかくこんなに大きな船に乗ってるんだから、一番高いところから景色を見てみたいじゃないか」
「確かに……面白そうですね!」
ミサキは満面の笑みを浮かべながら、甲板の端にある展望台への階段を指さした。
リーナも興味津々といった様子でミサキの後をついていく。
展望台へと続く階段は、しっかりとした木製で、ところどころ金具で補強されている。
潮風を感じながら、ミサキは軽やかに駆け上がった。
展望台に上った瞬間――
「わぁ……!」
2人の視界に広がったのは、果てしなく続く青い海。
甲板から見るより更に美しい宝石のような海がそこには広がっていた。
「すごいな……」
「きれい……」
2人は展望台の手すりに手をかけながら、しばし言葉を失ったまま、その景色に見とれていた。
「……ずっと見ていられるな」
「うん……」
穏やかな風が2人の髪をふわりと揺らす。
ミサキは手すりに寄りかかり、そっと目を閉じて風を感じた。
リーナはそんなミサキの横顔を見つめながら、ゆっくりと隣に並んだ。
ミサキが遠くの水平線を指さして言う。
「なぁ、あの先には、どんな世界があるんだろうな?」
「そうですね……きっと、私達には想像がつかないような世界が広がってるんでしょうね」
「じゃあ、行くしかないな」
「そうですね」
風が2人の髪をやさしく撫で、展望台に静かな波の音が響く。
これからの冒険を予感させるような、澄んだ空と広い海――
2人は手を取り合いながら、次なる冒険に思いを馳せていた。
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