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『悪の氷結花』、継母になる〜天使な息子を可愛がっていたら、辺境伯に溺愛されました〜  作者: 葉月クロル


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第29話 夜会2

「うわあ、おかしゃま、とてもおうつくしいの! おかしゃまはやっぱり、めがみさまなのね!」


 そこにはすでに、我が家のイケメン男性陣がスタンバっていた。そして、階段の上からわたしが登場すると、なぜかずらりと並んだ使用人たちと共に拍手で迎えてくれた。ジェレミーだけはその場でぴょんぴょん飛び跳ねていて可愛い。


「おきれい! しゅごきゅ、おうちゅくしいにょ、おきれい、にゃの!」


 興奮して跳ねているものだから、盛大に噛んでいる。

 うむうん、きゃわゆ。


 わたしはにっこり笑って片手をあげてから、静々(しずしず)と階段を降りる。そこまでぴっちりしたドレスではないから、足さばきは悪くないけれど、階段を転がり落ちるわけにはいかないからね。


 使用人たちは口をほの字に開いて拍手をしていた。拍手に紛れて「ほう……」という声が聞こえる。


 わたしは、ひとり拍手をせずにぼんやりとわたしを見ているダリル様と、その隣で飛び跳ねるジェレミーの前まで来ると、品よく言った。


「お待たせいたしました、ダリル様。まあジェレミー、その服が素敵に似合っているわ。まるで小さな貴公子さんね」


 白いフリルのついたシャツに、わたしと同じミッドナイトブルーの上着とトラウザーを着たジェレミーは、可愛くてかっこいい。

 ちなみに、ダリル様も同じ色合いの服を身につけているので、三人はお揃いだ。黒髪を後ろに撫でつけるようにセットしたダリル様は、恐ろしいくらいにいい男だけど、正直わたしの視線は可愛い天使ちゃんに釘付けなのだ。


『おかしゃま褒めたたえマシーン』(ジャンピング機能付き)と化した天使ちゃんは、青い瞳をキラキラさせながら言った。


「おかしゃま! しゅごく、しゅごく、しゅてきにゃん、にゃん、にゃの……よ! あのね、ぼくね、おくちがにゃんにゃんしちゃっ、てるけどね、ねこじゃないのよ」


 わたしは思わず噴き出してしまった。

 にゃんてかわゆい子猫ちゃんでしょう!


「あのね、おかしゃまはいつもかわいいのよ。でも、きょうのおかしゃまはすごくすてきでびっくりしたの。ぼくね、うまくいえないけどね、やっぱりおかしゃまはせかいいちかわいいひとだとおもうのよ」


「おお、ジェレミー……」


 ああ、ちっちゃな貴公子ちゃんたらなんという口説き文句を!

 あまりにも心を動かされて、お母様は失神しそうになりました。


 と、今までひとことも話さなかったダリル様が、わたしの腰をぐいっと引き寄せて言った。


「ジェレミー、この素敵なお母様はお父様の妻なのだよ」


 わたしは背の高いダリル様の顔を見上げた。


「だから、シャロンはお父様のものなのだ!」


 いや、ちょっと、あなた! 突然なにを言い出すのやら!


 ジェレミーも、突然現れたライバルに戸惑っていたようだが、すぐに口元を引き締めて言った。


「でも、おかしゃまはぼくのおかしゃまだもん!」


「わたしの、妻、だ」


「ぼくの!」


「わたしの!」


 こ、これは、『わたしのために争わないで』というアレですか?

 まんまるほっぺを赤くして「ぼくの!」と言い張るジェレミーは、もう食べてしまいたいくらいにほやほやんと可愛らしいし、目元を少し赤らめながら「わたしの!」と流し目をよこすダリル様は、大人の色気がしたたり落ちているし、わたしは少し困りながらもモテモテ気分を楽しんでいた。


 だけど、客観的に見るとガキンチョレベルの喧嘩なのだ。わたしたちの様子を見て使用人たちは呆気に取られている。


「ふたりとも、落ち着いてちょうだいな」


「だがシャロン、これは譲れないのだ」


「ぼくだってね、ゆずれないのよ」


 こんな時に活躍するのは空気を読まない失礼メイドのドナである。


「あんたら、なにをアホな言い合いをしているんですか、そんなことじゃあ、うちのシャロン様を任せることはできませんよ。はあ、ポッと出のくせして生意気な……シャロン様と一番長くて濃い付き合いをしているのはこのドナですからね、立場をわきまえるが良いのです!」


 いや待てドナさん。あなたまで張り合ってどうするのよ。


「夜会に参加して、家族三人の仲の良さを世間様に知らしめるんでしたっけ? なのに、そんな調子じゃ先が思いやられるんですけど」


 使用人のドナが、主人であるダリル様とジェレミーをがんがん叱り飛ばしている。


「紳士が淑女を困らせてどうするんですか? しゃんとしてくださいよ。わかりましたか?」


 腰に手を当ててプンスカ怒るドナの指導を受けて、ダリル様とジェレミーは「……うむ。大人気おとなげなかったな。すまん」「おかしゃまにしんぱいかけてはだめね。ごめんなさい」と素直にわたしに謝った。


「おふたりとも、貴族の夜会ってやつにはたくさんの敵が紛れこんでいることをお忘れなきよう。わたしは控え室より先ではシャロン様のお供をできないんですからね、いいですか、おふたりでシャロン様をちゃんと守ってくださいよ! 嫌な思いをさせたら、このドナが許しませんからね」


 ああ、ドナったらとてもお母ちゃんっぽくなっているわ。でも、心配していることが伝わってくるわ。


「ありがとうね、ドナ」


 わたしが正面から褒めると、赤い髪をおさげにした失礼メイドは「べっ、別に、シャロン様がこけて怪我とかしたら大変なのはわたしたちなんで! 階段から突き落とされたりとか、本当に迷惑なんで! ドレスにワインをこぼされると染み抜きが面倒なんで! それだけですよ」と、わたしがいじめに遭うヒロインであるみたいなことをもぞもぞ言った。


「まさか、夜会の場でそんなことをする人はいないわよ」


「そういうとこ! 肝心なところが抜けてるお人好しのシャロン様が、本当の悪意にさらされるのが心配なんです。だって……」


 ドナに真顔で「絶対に倍以上やり返すだろうし、相手の手足を凍らせてもぎ取るくらいのことをしそうだから」と言われてしまった……。


 ドナ、あなたはわたしのことをなんだと思っているのよ!

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