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『悪の氷結花』、継母になる〜天使な息子を可愛がっていたら、辺境伯に溺愛されました〜  作者: 葉月クロル


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第28話 夜会

 夜会の前はダリル様が忙しいので、落ち着いてからアゲート家を訪問することにし、わたしはジェレミーとのんびり過ごして旅の疲れを取った。

 両親はともかく、兄弟たちとの仲はお世辞にも良くなかったし、今さら顔を合わせてなにを話すのかとも思ったので、元気に暮らしていること(かつ、悪さをしていないこと)が伝わればいいかな、くらいに思っている。


 というわけで、全力でジェレミーをでました!

 セイバート家のお屋敷の人たちも、一緒になって愛でました!


「はじめまして。ぼくのなまえはジェレミーです。おとしはさんさいです」


「よろしくおねがいします」と下げるちっちゃな黒髪頭に、屋敷の者たちは皆、メロメロだ。いい子のジェレミーは、なんと使用人すべてに挨拶をして回ったのである。

 天使かよ! 天使だよ!


 子はかすがいという言葉どおりに(夫婦間ではないけれどね)ジェレミーのおかげでわたしもこの屋敷の使用人たちと仲良くなることができた。鍛えた両腕にしっかりジェレミーを抱えて、天使ちゃんのすべてが可愛くてにこにこしながら屋敷中を歩くわたしを『悪の氷結花』だと思う者はいなかった。


 ドナの暗躍も役にたっていたのかもしれない。わたしが『王妃に対抗して男性をたらし込む悪女』ではないかと警戒する使用人たちに「シャロン様が夢中なのはジェレミー様だけ。その辺のチャラチャラした貴族の男なんかよりも、ちびっこい騎士とお話ししている方が楽しいらしいですよー」と、悪い噂を消してくれた。「ちなみに旦那様は、懸命にシャロン様を口説いているところなんですけど、ジェレミー様が無敵すぎて苦戦していますね、むふふふ」なんてことも話した。そして、わたしたちがいかに残念夫婦かというエピソードを面白おかしく話して、ダリル様の威厳を引きずり落としてしまったらしい。

 この失礼だけど人のふところに入るのが得意なメイドは、厨房に出入りして、おやつをゲットするルートまでちゃっかり確保していた……才能の使い場所を間違っているわ……。


 ともかく、想像していたよりも楽しく過ごした数日後に、夜会の日がやって来た。夜会は当然夜にスタートするのだが、その準備は朝から始まる。

 特に、ドレスアップする女性はとても大変だ。


 わたしはミミルカをリーダーとした『奥様磨き隊ビューティメイクアップチーム』の手によって朝から入浴させられ泥のようなものを身体に塗ってパックされ、髪も違う種類の泥でパックされ、洗い流されてピカピカうるうるになった。

 お腹をぽっこりさせないようにと、こちらも泥のようなリゾットを食べ(見た目は泥だけどチーズが効いてて美味しかったわ)「もう一杯食べたいわ」というのを「夜会の後に軽食をお出しします」と却下された。さらに全身を揉みしだかれていい香りのクリームを揉み込まれ、「おやつはないの?」としょんぼりしながらドレスを着て髪を結ったーっ! 


 大変だったわ……。ドレスアップして毎晩のように社交の場を出入りしていたシャロンは、ある意味偉大だったと思う。


「ねえ、おやつは?」


 わたしはミミルカにねだった。以前のシャロン・アゲートと違い、セイバート領で健康的な生活をしてきたわたしは、おしゃれよりも食欲を優先させる女になったのだ。


「おなかが空いて、夜会で倒れたらどうするの?」


「仕方がない奥様ですね」


 ミミルカに、すりおろした果物とクリーム状のチーズをえたものを貰って食べた。ドレスを汚してはならないので、シーツを身体に巻いて「あーん」と食べさせてもらう。

 丼いっぱい食べたいくらいに美味しかったわ。


 最後に、顔に白粉おしろいを軽くはたいて、まぶたにキラキラした粉と淡い紫色のアイシャドウを塗り、唇には血色が良く見える程度に紅を塗る。

 髪はサイドを三つ編みにして後ろに持っていき、ミスリルという魔力に反応して虹色に光るファンタジーな金属に、真っ青なサファイアとダイヤモンドを組み合わせた髪飾りで留める。額にも同じ宝石のサークレットをはめる。


 ジェレミーを抱っこした時に柔らかな肌を傷つけないように、今夜はイヤリングもネックレスも指輪も腕輪もつけていない。アクセサリーは髪飾りとサークレットだけだ。控えめにしたからこそ、大粒で質の良いサファイアが存在感を放っている。


「完成でございます」


「お美しいですわ!」


「さすがは奥様でございます!」


「ブラボー、ブラボー!」


『奥様磨き隊』の皆さんから盛大な拍手をいただいた。


 鏡に映ったわたしは、身体のラインに沿った柔らかな生地のマーメイドドレスを着て、すらりとした体型の品のいい人妻になっていた。食事を抑えめにしたから、おなかも出ていない。

 ドレスの色は、ミッドナイトブルーだ。これまでのシャロンは、真っ赤とかどピンクとかの派手な色のオフショルダードレスを着て胸を強調させていたけれど、このドレスは首元と袖がレース編みになっていて、あまり肌が見えないデザインだ。

 アクセサリーもじゃらじゃらさせていないし、以前のシャロンを知っている者がわたしを見たら別人かと二度見するだろう。

 

 ちなみに、ドレスのスカート部分があまり膨らんでいないデザインにしたのは、ジェレミーを抱っこした時に邪魔になるからです! ジェレミー優先!





 出発の時間になったので、わたしは玄関ホールへ向かった。エスコートはドナがしてくれた。


「シャロン様、大丈夫ですよ。シャロン様もジェレミー様も神様に愛されたお方ですからね、邪悪なババアなんかにゃ負けはしませんって」


「もう、ドナったらお口が悪いんだから」


「ふふふ、シャロン様のためなら口から火も吐きますよん」


 わたしの手が震えていたのに気づいたドナは、そう言いながらぎゅっと握りしめた。


「大丈夫、旦那様がついてます。あの人は顔がいいだけじゃないって知ってました?」


「ドナ……」


「あんまり理不尽な事態になったらわたしが天誅を下しますからね。シャロン様は暴れちゃ駄目ですよ」


「わたしを馬のように言うのはおやめ。あと、ドナもあまり変なことをしちゃいけないわ。もっと自分の身を大切に考えなさい」


「……はーい」


 赤いおさげ髪のメイドは、そっぽを向きながら返事をした。


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