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『悪の氷結花』、継母になる〜天使な息子を可愛がっていたら、辺境伯に溺愛されました〜  作者: 葉月クロル


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第26話 王都へ

 ディナーの後、寝る前の時間を家族で過ごす居心地の良い部屋の準備が整った。わたしたちは毎晩、そこに移動していた。

 入り口で靴を脱ぐ決まりにしたので、絨毯に座ったり寝転んだりすることもできる。柔らかでカラフルな刺繍が可愛らしいクッションがたくさん置いてあるし、ジェレミーと一緒に読む絵本も購入した。


 ちなみに一番リラックスしているのはおさげメイドのドナだったりする。使用人専用のダイニングで夕食を済ませた後に、あの子はこの部屋でゴロゴロして過ごすのだ。

 最初、ドナのあまりにも遠慮のない姿に驚いていたダリル様だが「寝る前には、あれくらい緩くなることを目指すのだな。良い手本ができた」と納得してしまったようだ。


 わたしはジェレミーと、王都に行くとなにがあるかという話をしていた。目の前にはダリル様が寝転がっている。ドナ師匠のお手本通りに過ごしているようだ。


「おかしゃま、ぼくはたびをするのははじめてなのです」


「そうね。王都までは少し距離があるけれど、がんばりましょうね」


「はい」


 不安と期待に瞳を揺らしながら、ジェレミーがそっとわたしの手を握って言った。


「あのね、だいじょうぶなのです。もしも、たびのとちゅうでさんぞくとか、こわいまものとか、おそろしいものがでてきても、ぼくがおかしゃまをまもゆから! まも、ゆ、から!」


 緊張のせいか、決め台詞セリフの最後を噛んじゃうジェレミー、超可愛い! そして、一人前なお顔で騎士としてわたしを守ろうとしてくれるところ、ヤバ可愛い!


「ありがとう、ジェレミー。お母様はあなたと一緒でとても心強いわ。そして、王都に行くことがとても楽しみになりました」


「ぼくにおまかしゃくだしゃ……おまかしぇ、くだしゃいませ、まいれでぃ、なの」


「まあ、ジェレミー!」


 うわーん、この子はわたしを萌え殺そうとしているのかしら! 世界一のいい男ではありませんか! 

 まだたった三つだというのに、ようやくナイフとフォークでステーキを食べられるようになったばかりだというのに、あらゆる災厄からわたしを守ろうとする頼れる騎士っぽさ! 尊すぎる!


 あなたがいれば、お母様は世界も滅ぼせそうな気がします。

 いや、滅ぼしたら駄目だろう自分。


「ジェレミー、お母様をお守りするのはわたしの役割だよ」


 可愛い天使ちゃんとの萌え萌えきゅんな会話を楽しんでいると、妙にキリッとした顔つきのダリル様が起きあがり、割り込んできた。


「もちろん、ジェレミーのこともお父様が守るからな。危険なことをしてはいけないぞ?」


「あのね、おとしゃまがだれよりもおつよいのは、わかってるの。でもね」


 ジェレミーがぷくっと頬を膨らませて「ぼくだっておまもりしたいの。だって、ぼくはおかしゃまのちいさなきしなのよ」と上目遣いでダリル様を見た。


 くうううううーっ、きゃわゆい! あのほっぺに指でつんってしたい! 絶対にふあふあよ、ふあふあほっぺなのよ!


 さすがのダリル様も、この可愛らしさには胸を射抜かれてしまったらしく、顔を覆って「んむふうっ」と変な声を出して、再び絨毯の上に転がってしまっている。

 ちっちゃなジェレミーは、勇猛な戦士と名高いダリル・セイバート辺境伯さえも一撃で沈めてしまう、無敵の騎士なのだ。


「王都ではね、おじさまのお誕生日のお祝いに出席するのよ。お話を聞いたことがあるかしら。お父様の、一番上のお兄様なの」


「おとしゃまのおにしゃまの、おいしゃま?」


 なにその世界一可愛い早口言葉は! 

 さあ、みんなで広めましょう!


 はあはあと荒い呼吸になりそうなところを、はがねの精神力で押さえ込んで、上品に笑ってみせる。


「そうよ、ジェレミーは賢いわね。おじさまはね、国王陛下といって、この国を治めるとても重要なお仕事をされているお方なの」


「じゅうおう?」


「とても大事で、みんなに必要とされているお仕事、という意味よ」


「そなのね。じゅうおうなおしごとをなさるおいしゃまは、しゅごいのね、がんばっていらっしゃるのね。おとしゃまのおにしゃまだから、おとしゃまとおなじくがんばりやさんなの。おとしゃまもりっぱなかただもの」


「ジェレミー……なんて純粋な……」


 天使な息子に尊敬の眼差しを向けられて、ダリル様は少し涙ぐんでいる。


「おとしゃまには、しゅてきなおにしゃまがいてよかったですね。ぼく、おいしゃまにあうのがとてもたのしみです」


「そうか」


「はじめましてのごあいさつ、がんばるの」


「そうか」


「おとしゃま、おいしゃまにあえるの、すごくたのしみね!」


「そうだな、楽しみだ」


 ダリル様がジェレミーを膝に乗せて、頭を撫で撫でしたので、ジェレミーはとても嬉しそうに笑って「むふう」と満足そうな声を出した。


「シャロン、ジェレミーのおかげで、今回の王都行きも兄上に会うことも、なんだか楽しみになってきたよ」


「それはよかったわ。可愛いジェレミーに会ったら陛下も大喜びなさるに違いないわ」


「ああ……」


「ふあ」


 黒髪のちびっ子は小さなあくびをすると、大好きな父親に可愛がられながら夢の世界に旅立った。



 最近、この屋敷ではジェレミーの無差別攻撃のせいで大変なことが起きている。ことの発端は、綴り方の勉強の時にドナが、屋敷のみんなの名前をジェレミーに教えたことだ。

 っていうか、新入りのくせにどうして使用人全員の名前を覚えてるの? あなたはどこの女諜報員よ。


 それからジェレミーは、手のひらサイズに切った厚紙に丁寧にみんなの名前をかいていった。まだ文章は書けないので、大きくお名前だけ。

 それをひとりひとりに「こんにちは。ぼくからのおてまみです。いちゅもおせわをありがとうなの」と、紳士らしい真面目な表情でうやうやしく手渡ししていった。


 これはねー、ヤバい。

 尊すぎてその場で倒れる。

 本当に倒れてしまったらジェレミーが心配してしまうので、受け取る時は皆「これはこれは、素敵なお手紙をありがとうございます」と、ジェレミーの倍くらい大真面目で恭しく受け取っていた。

 そして、ジェレミーの視界から外れたら、絨毯(この地は冬が厳しいので、ふっかふかで暖かく、腰砕けになる使用人たちを優しく受け止めてくれた)にうずくまって尊さに悶絶していた。あの家令のエルトンですら「くうううっ、これは額に入れて飾り、家宝にしなくてはなりません」と壁に倒れかかり、あやうく飾られている花瓶を倒しそうになった程だ。


 はい、一番最初に額装して執務室に飾っているのは、もちろんダリル様です。わたしは写真立てに入れて、ベッドの脇に置いてあるわ。





 そんなこんなで、ジェレミーと一緒に荷造りをして、なにが必要かを紙に書いたり、夜会で着る正装の試着をしたり(フリルと青い宝石がたくさんついた、きらびやかな上下を身につけたジェレミーの可愛さといったら!)(あっ、もちろんダリル様もかっこよく決まっていたわよ?)ファッション担当のミミルカたちと当日はどんな髪型にするかを話し合ったり(ドナ、ミミルカ、メイド三人娘、そしてジェレミー専属のマイラが同行するのだ)して日々が過ぎ。


 わたしたちは王都へと旅立った。

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