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『悪の氷結花』、継母になる〜天使な息子を可愛がっていたら、辺境伯に溺愛されました〜  作者: 葉月クロル


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第25話 暗殺……しなくてもよろしいの?

「ジェレミーをわたしの身代わりにしようと考えたのか。なんともおぞましい計画だな。やはりあの女は頭がおかしい……」


 ダリル様は、石をひっくり返したら気味の悪い虫を見つけてしまったような、心底嫌そうな表情になった。


「ええ、許しがたい行いですわ。大人相手ならまだしも、幼い子どもに狙いをつけるなんて……ジェレミーの人生をもてあそぶこの企みは、魔女の所業と言っても過言ではありません。あちらがその気ならば容赦はいたしませんことよ。ダリル様、わたしは明日、王都に旅立ちます。結婚したばかりでございますが、離縁状を用意しますのでなるべく早く提出しておいてくださいませね」


 わたしは立ち上がり、可愛いジェレミーの敵をどのようにして地獄送りにしてやろうかと考えた。アルテラ王妃の身体の水分を、わたしは自由に操ることができる。邪悪な玩具は跡形がなくなるように完璧に壊さなければならない。さて、どうしてくれようか……。


「シャロン、美しい顔にそのような恐ろしい笑みを浮かべて、あなたはなにをするつもりなのだ?」


「王都に行って、サクッと王妃をヤってきますわ」


「待て、落ち着け!」


「離縁すれば、セイバート家とは無縁になりますので、どうぞご心配なく」


「心配しないわけあるか!」


 部屋を飛び出そうとするわたしをダリル様は力尽くで静止し、暴れるわたしを抱え込んだ。


「はやまるな、シャロン、いたっ!」


 筋トレで鍛えた腕でダリル様を無理やり押しやろうとしたら、ちょっと筋を反対側にひねってしまったようだ。


「落ち着いてなどいられますか、離してちょうだい! ダリル様、ジェレミーのことをよろしくお願いいたしますね。お母様はお空の星になったと伝えてください。いつまでもジェレミーを愛していて、お空からあなたを見守っていますと……では、ヤってまいります!」


 ダリル様の顔面を後頭部で打ち、その隙に腕から逃れようとしたが。


「よせ、あなたは自爆でもするつもりか! いや、本当に落ち着け。陛下からの手紙にはまだ続きがあるのだ」


「え?」


 頭をぶつける前に、なんとか止めた。


「陛下はあの女の言葉を鵜呑みにしてはいない」


「それはつまり……」


 わたしが力を抜くと、彼はほっとした表情になった。わたしをぽすっとソファーに降ろして隣に座る。


「シャロンはとんでもないお転婆姫君だったんだな。クマを生きたまま捕獲しているような気分になったぞ」


「失礼ね、淑女をクマに例えるなんて酷いわ!」


「すまん、つい」


 まさか、ダリル様にまでドナの残念が伝染したとか?


「クマはさておき、大丈夫だ。国王陛下は愚かではない」


 そして、ダリル様は手紙の続きを説明してくれた。


「陛下の手紙には、わたしが以前アルテラ王妃に多大な迷惑をかけられたことについても書いてあった。あの方はすべてをご存じだったようだ」


「お手紙にはそんなことまでが……確かにその内容では、陛下ご自身が手紙を書くしかないわね。誰かに見られたらおおごとだわ」


 他国から嫁いだアルテラ王妃の扱いは、二国間の外交が関わるのでとても微妙なのだ。


「陛下は王妃の男グセの悪さもご存じなの?」


「ああ。もちろんあなたの婚約破棄騒ぎについても、だ。フランツ・グレーダンが、まだ王妃の最新の愛人を続けているらしい」


 うわー、お気の毒に。

 国王陛下の立場にしてみたら、とんでもない性悪女と結婚して離婚が不可能な状況よね。いくら政略結婚でも、あんまりだわ。


「王妃が権力を使って、有る事無い事を周りに広めると、セイバート領に被害が及ぶし、なによりジェレミーのことが心配だとおっしゃっている。そこで、来月早々に行われる、国王陛下の誕生日を祝って開かれる夜会に、家族三人で参加するようにとのことだ。甥っ子のジェレミーにも会いたいと書いてあった」


「なるほどね! 真実をのあたりにしたら、アルテラ王妃がなにを言おうと嘘を信じる者はいなくなるわ。それにしても……国王陛下って、ダリル様が話してくださった人物像とはかなりイメージが違うわね?」

 

「そう、だな。昔から、年の離れた兄として少し距離を置かれていた記憶があるのだが、わたしがセイバート辺境伯となった頃からはさらに疎遠になっていた。てっきり疎まれていて、遠くの地に追い払って満足したのだと思っていたが……」


「王都から遥か離れた遠くの地で素朴な雰囲気の田舎ではあるけれど、ここはとても裕福で恵まれた領地だし、この国の要所でもあるわ。そこを、異母弟とはいえ、そりが合わない者に任せるかしらって思っていたのだけれど……」


「だが、わたしがこちらに来てからは、なにも連絡がなかったし、ジェレミーに興味があるなんて今の今まで知らなかったんだぞ?」


「そうなの?」


「ジェレミーの誕生祝いには金品が贈られてきたが、王家に連なる者が生まれたのだから義理で側仕えに任せたのだろうと思っていたしな」


 うーむ、陛下はなにを考えていたのだろうか?

 久しぶりに顔を合わせるようだが、これを機にふたりの間のわだかまりが解消されることを祈ろうと思う。




 ということで、翌日から夜会に向けて、わたしたちの仲良しぶりをアピールするために準備が行われた。


「やっぱり、三人でお揃いのコーデにするといいと思うのよね」


「シャロンのアクセサリーには、わたしやジェレミーの瞳に合わせたサファイアを用いよう」


「そうね。あなたたちの目はとても綺麗な色ね」


「ありがとう、おかしゃま。おかしゃまのめも、とてもおうつくしいの」


 わたしたちは同じ青い瞳なのだが、比べてみると、ダリル様とジェレミーの瞳は空を切り取ったような鮮やかな青で、わたしの目はほんの少し緑がかった透明感のある青だ。


「おかしゃまのめのいろのほうせきがあったら、ぼく、みてみたいな」


「そうか、わたしも見てみたいと思っていた。それでは鉱山に連絡して探させよう」


「ダリル様、無理を言わない程度になさってね?」


「わかっている。だが、シャロンの瞳と同じ色の宝石が見つかると鉱山の価値も上がるからな」


 ええと、価値が上がるのはあなたのせいですわよね?

 うちの嫁と同じ色の宝石だ、よーし、高値で買っちゃうぞ! ってやつですよね?


 屋敷にはセイバート領の町で人気のドレスショップの店長が呼ばれた。店に買いに行こうと思ったのだけれど、前回の視察でジェレミーがアイドル並みの大人気になってしまったため、町が混乱してしまうからと止められてしまった。


「騎士団の護衛があれば大丈夫なのだが、五つあるうちの三部隊が山の偵察に行っているため人手が足りないのだ」だそうである。


 冬になると、強い魔物がふもとに降りてくることがあるので、この時期は警戒して念入りに偵察をしているとのことだ。もしも魔物が目撃されたら、ダリル様も討伐に向かうことになる。彼はとても強いと聞いてはいるけれど、万一のことがあって新婚早々未亡人になりたくない。

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