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『悪の氷結花』、継母になる〜天使な息子を可愛がっていたら、辺境伯に溺愛されました〜  作者: 葉月クロル


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第24話 王妃の企み

 わたしたちの結婚の届けは無事に受理されて、正式な夫婦となった。


 可愛いジェレミーとの生活はとても楽しく、父親のダリル様も予想以上にジェレミーを可愛がってくれた。

 今までは、レガータ夫人に故意に距離を置かされていた上、ダリル様自身が幼い息子とどう関わればいいのかわからないという問題があったのだが、わたしが来てようやく父親らしいことができるようになり、本人もジェレミーも大喜びだ。


 辺境の領主というのは、その地を治める政治的な仕事の他に、山に住む魔物という危険を排除する命がけの仕事もあって、大変多忙なものである。

 そして、本来ならばふたりの仲を取り持つはずの母親が不在で、その代理であるナニーが役割を果たすどころか邪魔をしていたわけだから、ダリル様を責めるのは酷であろう。


 わたしはジェレミーの母親になるためにここに来たので、これで『白い結婚』が完了したわけだが、どういうわけかわたしのことを気に入ってしまったダリル様はちょいちょいわたしを口説いてきた。

 一度結婚していた余裕があるのか、逃げ場のある口説き方というか、お友達から少しずつ距離を詰めてくる感じだったので、男女交際に免疫のないわたしも徐々にこのイケメンに慣れて、自分に気のある男性のあしらい方も学んできた。

 ドナによると「さすがは辺境伯、獲物の狩り方がわかっていらっしゃる、ふひひひ」だそうだが、わたしを魔物と同じ扱いをするとは失礼なメイドだ。


 そういえば、山の魔物と聞くと恐ろしいだけのものだと思いがちだが、この領地では恵みでもある。魔物を解体して手に入る皮や骨、爪や牙は加工すると良い武器や防具、そして日用品やアクセサリーにまでなるとのことだ。

 他にも魔物の身体からは、魔力が封じ込められた魔石というものも取れる。これらはすべていい値段で王都に出荷されてセイバート領の財政を潤している。

 ダリル様たちは増えすぎないように定期的に魔物を間引くが、魔物の生態はいまだに不明で、減ってもしばらくするとどこからか出てくるので、狩りすぎて全滅することはないらしい。

 この魔物の山の向こうは国境なのだが、狩りに長けたセイバート領の者ならともかく、恐ろしい魔物が棲む山を越えての行軍など考えられない状態なので、万一隣国の侵攻があってもこの地を守るのは楽らしい。

 

 そうそう、魔物の肉はとても美味しいのだが、こちらはすべて領地内で食べてしまう。食べたかったらセイバートにいらっしゃい、おほほほほ、という感じだ。


 セイバート騎士団とダリル様が定期的に行う魔物狩りのおかげもあるが、この土地には力があるため穀倉地帯での収穫も多く、他にも普通の動物がいる森や稀少な鉱物が取れる場所もあるためこの地は裕福で、冬を越す時の食料や薪の備蓄を充分に行うことができ、犠牲になる者はほぼいない。これは幸いである。

 長い冬の間は、セイバート領に伝わる手芸製品が作られる。屋敷に飾られていた刺繍のタペストリーもそうだし、繊細なレース編みや、山で採取される植物の実を乾燥させて煮出した染料で染められる美しい糸を使った織物もある。


 そんなわけで、派手な暮らしを好まないダリル様の考えでお屋敷はさほど巨大なものではないのだが、その気になればお城も建てられてしまう経済力がある土地なのだ。


 セイバート領は国防以外の観点からも、田舎の一領地でありながら国全体から見ると重要な場所であるため、王族がここを治めることが推奨されているのかもしれない。


 人懐こいドナのおかげで、わたしも早々(はやばや)とこの屋敷に馴染んできた。この失礼だけど有能なメイドは、ジェレミーのためにマイラという若いメイドを見繕って連れてきた。


「シャロン様は奥様になったんで、この屋敷の女主人としての仕事ができたでしょ? ひとりでさせるにはちょーっとばかり不安だから、わたしとミミルカもそっちに付き合いますよ。となると、ちょっと預ける相手がいるんですけど、マイラは下に弟が三人もいて男の子に慣れているから、ジェレミー様専用のメイドにちょうどいいですよ」


 突然スカウトされたマイラは戸惑っていたが、わたしが「急な話で驚いたかもしれないけれど、ジェレミー付きになってくれると助かるわ」と声をかけると、真っ赤になって「はい、奥様! わたしでよければジェレミー様のお世話をさせていただきたいと思います、よろしくお願いいたします」と引き受けてくれた。


「王都の人たちと違って、こっちの子は素朴ないい子揃いですよね。女同士のギスギスしたやり取りなんて無縁で、いい雰囲気のお屋敷です」


「そうね。なんだかのんびりしていていいわね」


「シャロン様が残念奥様でも、温かく受け入れてもらえてよかったですねー」


「本当に失礼な子ね」





 そんなこんなで、親子三人で町を視察して回り、皆さんに大歓迎されたり、町に買い物に行って素敵な刺繍が施されたドレスを注文してみたり、素敵なデザインのアクセサリー(宝石も取れるのだ)を注文してみたり、せっせとお金を使って経済を回しながら過ごしていたのだが。


 ある日、ダリル様の元に手紙が届き、わたしは執務室に呼び出された。内密の話ということで、部屋にはわたしたちふたりだけだ。


「シャロン、国王陛下から手紙が来たのだ。しかも、直筆の手紙を書いてよこした」


 国王陛下直筆の!

 一国の王となると当然のことながら多忙なので、よくもまあ手紙を書く時間を作ってくれたものだと驚いた。


「あなたのお兄様ですもの、やはり特別なのでしょうね」


「……まあ、そうかもしれない。正直、わたしのことを気にかけているとは思っていなかったので、かなり驚いた」


 ソファーに並んで座ったのだが、ダリル様の顔色がすぐれないので、わたしは軽く手の甲に触れて「大丈夫ですよ。お話ししてください」と声をかけた。彼は大きく息をつくと、手紙の内容を教えてくれた。


「アルテラ王妃が国王陛下に、ジェレミーがこの屋敷で虐待されていると訴えたとのことだ」


「はあ?」


 わたしは大きく口を開けたが、すぐに閉じて話の続きを待った。


「わたしは仕事にかまけてジェレミーを放置し……まあ、これは事実かもしれないが。そして、義母となったシャロンがジェレミーを酷く扱い、それに抗議したレガータ夫人を解雇した。夫人はジェレミーを救うために王妃に直訴したが、彼女もここを離れるまで暴力を振るわれていたため、王都で力尽きて亡くなった。という話だ」


「亡くなった……レガータ夫人は……」


「アルテラ王妃が口封じのために殺したのだろう。あの女、いくらなんでもやり過ぎだ」


「ああ、なんてことを!」


 わたしは絶句した。


 問題はあったものの、今までジェレミーを育ててくれた女性なのだ。それを、虫ケラを潰すように命を奪うなんて! レガータ夫人も、まさか嘘の筋書きの信憑性を増すために殺されるなんて思わず、王妃にわたしのことを報告したのだろう。


 深呼吸して気持ちを落ち着けてから、ダリル様に尋ねた。


「それで、陛下はなんておっしゃってるの?」


「子どもの虐待が事実ならば、王妃の提案通りにジェレミーを引き取りたいと書かれていた」


「なんですって!」


 わたしは立ち上がって「あの女、絶対に頭がおかしいわ!」と叫んだ。わたしはそのまま、部屋をうろうろと歩き出す。


「なるほど、これが王妃が長年仕込んできた計画なのね。最初はジャクリーヌさんがターゲットだったのかもしれない。けれど、彼女は亡くなった。レガータ夫人はジャクリーヌさんが存命の頃からこの屋敷にいたから……自分を袖にしたダリル様への復讐のために、息子を奪おうと考えて……いいえ、違う。それなら妻となったジャクリーヌさんに矛先が向かったはずだわ。となると……まさか」


 わたしは、とても気持ちが悪いことを思いつき、吐きそうになってうずくまった。


「ああ、ジェレミー! なんとしてでもあの子を守らなければ」


 天使のようなジェレミーが危険だわ!


「こんなことになるなら、ここに来る前にあの女の息の根を止めてくるんだった……この手で暗殺してしまえばよかった……」


「シャロン、しっかりしろ! どうしたんだ?」


 絨毯に座り込んでぶつぶつ呟くわたしを、ダリル様が抱きしめた。


「ダリル様、あの女にジェレミーを渡しては駄目よ! あれはとても邪悪な女だわ、この世のすべてのことを思い通りにしたがる、性根の腐った……美しいものを手に入れたがる悪しき女よ」


 わたしは恐ろしさに震えた。


「シャロン、言っている意味がわからないのだが」


「……世の中には、異常な性癖の者が存在するの。あなたを手に入れることができなかったアルテラ王妃が次に目をつけたのは、あなたにそっくりな可愛い男の子であるジェレミーだったのよ」


 わたしは震える手でダリル様の腕を掴んだ。


「なんとしてでも阻止しなければ! あの女は、ジェレミーを『自分に従順なダリル様』にするつもりなんだわ!」

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