ニンジンが生えた
――ある日、壁からニンジンが生えた。
【1日目】
ニンジンが生えていた。
朝、目が覚めると、目の前の壁から、オレンジの尖った方を突き出して、ニンジンが生えていた。
なんだかとても気味が悪い。何かのイタズラだろうか?
【2日目】
今日はナスが生えていた。壁からナスが生えていた。僕はナスが大好物だが、とても食べる気にはならなかった。
【3日目】
今日はブロッコリーが生えていた。壁からブロッコリーが生えていた。だんだん味に興味が湧いてきた。これは普通の野菜なのか。ちゃんと野菜の味がするのだろうか?
【4日目】
今日はゴーヤが生えてきた。僕は好奇心を抑えきれず食べてみることにした。本当にこれが普通の野菜か確かめることにした。
少しかじってみた。苦い。そこで僕は思い出した。僕はゴーヤを食べたことがない。これが本当にゴーヤの味か、とても分からない。
ただ、もしこれが本当にゴーヤの味ならば、僕はゴーヤが嫌いだ。
【5日目】
今日も野菜が生えている。もはやそれがなんの野菜なのか、だんだんどうでもよくなってきた。
【6日目】
今日も野菜が生えている。いや、もしかしたら野菜は生えていないかもしれない。私は誰だ。でも、それもだんだんどうでもよくなってきた。
【7日目】
今日も何かが生えている。それは野菜か果物か、はたまた自分自身なのか。もう私は動かない。
【8日目】
今日も何かが生えている。壁から何かが生えている。
野菜がそれを見つめている。訝しげに見つめている。
【9日目】
私は野菜かもしれない。
【10日目】
私は野菜だ。
【11日目】
私は野菜だ。
【12日目】
私は野菜だ。
【13日目】
私は野菜だ。
【14日目】
【 日目】
【 日目】
【 日目】
【 日目】
◆ ◇ ◇
――ある日、壁からニンゲンが生えた。