羅城門〜過去の記憶より〜
見かねた叉次が目立たぬようにと店と店の間今で言う路地のようなところにわたしを引っ張っていった。それでもただひたすらに泣く。どれくらいたっただろうか涙が止まった頃にはもうすでに夕暮れ時の数刻前となっていた。叉次が聞く「伊吹捨さん、いかになされたものですか?大人がかの有名な大宮大路で泣き始められるとは、いかがか嫌なことでも思い出しなさっていたのですか?」と。聞いたこともない言語で話してくる。紛れもない日本語なのだがどことなく古語が入り混じり文法すらメチャクチャな言語で話されても意味が伝わらない。そう思っていたのだがなぜか叉次の言っていることがわかる。またもやわたしの頭は置いていかれた。意味がわからない。叉次は「伊吹捨さん、どうしたんですか?大の大人があの有名な大宮大路で泣くなんて、なにか嫌なことでも思い出したのですか?」と言っている。わたしはすぐさま反論したかったがこの世界の言語はわからない。そのためとりあえず叉次という男の言う事に頷いてみる。すると叉次が言った。「隠岐姫様とあへぬことがさほど悲しきと思ひになっておりまするが、都にて商いが成立しなくば村の民草や伊吹捨さんの好いている者たちが明日をも生き永らえるは苦境必須でありますよ」と。要約すれば「隠岐姫様と会えないことがよほど悲しいとは思いますが、都で商売を成功させなければ村の農民や伊吹捨さんの好きな人達が明日生きることはとても大変(難しい)ですよ。」ということらしい。大宮大路とは?隠岐姫とは?都とは?一体何を言っているのかさっぱりわからない。そうこうしているうちに日暮れが迫っていた。とりあえず叉次とわたしは宿へと向かうことにした。だが突然ここが過去であると唐突に突きつけられる事となる。それは帰り道のことだ。道を向かって右に進んだところで見たものは模型ではない巨大な羅城門だった。羅城門は平安時代に倒壊し現在まで新築されてはいないのだ。わたしはひとつ確信した。ここは平安時代だと。