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「兄ちゃんの写真持ってきてくれる?」・・・とびっきりかっこいいのをね
その言葉だけが頭の中でリピートされる。
その頃、高校受験そして卒業を目の前に私は確かに充実した毎日を送っていた。
あと二ヶ月で、兄ちゃんが丁度タバコを吸い始めたのではないかという15歳。
私は、自己中心に回っていく自分のストーリーに浸りきっていた。
まして、自分の追いかけてきた背中が、もう追いつけない所に行っていたなんて露ほどにも分かるはずがなかった。
あの日・・・。
「帰ったら至急電話下さい」
家に居るはずの祖母も、会社で働いているはずの母も、「はず」ではなかった。
学校からの帰り。その日、どんな天気か、誰と帰ったか、何曜日であったか、私はまるっきりおぼえていない。
ただただ、メモリーをしめているのは、「兄ちゃんの写真持ってきてくれる?」という台詞だけ。
ーこの「兄ちゃん」の話を私は誰にでも無遠慮にしている。笑いながら、そして修飾しながら。
出力しないと私のハードがやられてしまいそうなのだ。ー
いとこの家は熊本。福岡の井尻駅から、私はボーっと電車に乗っていた。
想像してみてくれないか?
家族全員が親戚の家に急行していて、帰宅した自分の連絡を待っている。
加えて、いとこの写真を・・・1人写っている写真を持って来いというのである。
そして、その声は決してプラスを産むようなものではない。
どんなことが想像できるだろうか。
私は、「自殺」という文字しか浮かんでこなかった。
3年経った今、私は彼に彼の人生に化粧をします。
スーツを着せます。香水も忘れずに・・・。
勿論、自分の為に。
ここに、僕の失敗作を・・・。