バレンタインスペース
「こいつを俺の仲間に入れていいものか…悩む…」
無生海造は真摯に思い悩んでいた。
それは彼の企画したバレンタインスペース、という名の大学選抜超能力者組合に、新人の栖川賢弘を入れるかどうかの思案であった。
どうやら、この大学選抜のバレンタインスペース、ちょっとやそっとの超能力を持った学生では組員に入るのは容易では無いようである。
栖川賢弘は、かの進学校、享栄ワタリ高校から、日本の最高学府・天東大学に入学したエリート中のエリートのようである。
しかし、問題は超能力だ。学力ではない。
バレンタインスペースに入るためには組長である無生海造の承認が必須だ。
栖川の面接もやった。
「僕、5秒先に起こることがわかっちゃうんですよ」
栖川は
「あ、5秒後に、面接官の三人のうち、左側の方がせきをしますね。つられて右側の方もします。」
すると——
「ケホッ、ケホッ!!」
左側の面接官が栖川の予言通り、せきをした。間髪いれず——
「ごほんっ、ごほん」
右側の面接官もせきをした。
栖川の予言が的中したのである。
「ね?僕の超能力、本物でしょ??」
真ん中に座っている無生は一瞬驚いたが、冷静になって——
「偶然、ということも…」
栖川は、あちゃ〜という顔をして、
「はたまた誘導催眠にかけた、とか言いたいんでしょ?わかりますよ。でも、僕のこの能力は一日に一回しか使えないんです。もう一度、同じような予言がすぐにできれば証明できるんですがね。」
無生は言いたいことを先に言われてしまった——と感じながらも、
「保留だ。」
と言いつつ、面接会場から退場しようとした。
そして、栖川にひとこと付け加えるように、
「例え君の言う能力が誘導催眠だったとしても、それも立派な超能力だ」
すると、栖川は
「ですよね」
と、満面の笑みで答えた。
あー、この栖川とかいう学生がどうも気に入らない。人をくったような態度。バレンタインスペース、という組織をなめられているような気がした。
———
その後も何度も面接を試みたが、なるほど、確かに毎回、一回だけ5秒先のことを予言する。
そして何度目かの面接—
入れてもいいかな〜、と無生が思い始めた頃——
右側に座っている京国大学三年の宇和島がひそひそと耳打ちした—
「入れちゃった方がいいっすよ。まあ、人間性はちょっとあっけらかん、とし過ぎてて気に食わんのはわかりますが。奴は本物です。毎回毎回、5秒後のことを的中させるし。」
無生はゆっくり考え出したが——
「よし、それじゃ合…か」
「く、」と言い始める前に、左側の面接官の佐野、と言う女学生が、
「ちょっと待ってください。忘れてませんか?奴は誘導催眠を匂わして、しかも否定しなかったこと」
と、女学生も耳打ちをはさんで来た。
無生はぽかーんとして、
「それの何がいけないんだ?」
女学生は——
「誘導催眠が使える、と言うことはこのあと、彼がバレンタインスペースの組員になったあと、人々を次々と催眠にかけて、それこそ、あなたの座、組長に成り代わりかねないってことですよ。危険です。」
無生は、
「それは盲点だった。確かに、純粋な超能力ならまだ組織の統制はくずれないだろうが、誘導催眠の場合、奴の好きにされる可能性がある。」
「でしょ?だから今回はお断りして……」
と、彼女が言い終わる前に—
「栖川君!何度も面接させてすまなかったね。
晴れて君は、『合格』だ!バレンタインスペースへようこそ。」
女学生が耳打ち——
「え、なんでですか?私の忠告聞いてました?」
「ま、後で話す」
栖川は—
「やったああッ!!ついに組員になることを認められたあ!ありがとうございます!」
そして、栖川は面接会場を嬉々として出て行った。
そして、女学生が—
「何でです?血迷いましたか?危ないのはあなただけでなく、私たち、他の超能力組合員も、ぜーいんなんですからねっ!」
無生は一息ついて——
「大丈夫だ。これは合格であって合格でない。」
女学生と宇和島が、
「どういうことです?」
「やつを無視はできない。なら、徹底的に目にはいる範疇に置いておき、仔細な変化にも気を配って、厳重注意することだ。やつの影響で少しでも組織によからぬ変化が起こった場合はそっこくクビだっ。文句ないだろ。」
宇和島「そこまでしなくても…」
女学生「いいえ、いいんです。危険分子は常に見張っていないと何を仕出かすか分からないですからね。」
———栖川賢弘はその三日後に組織を解雇された———