表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/38

8

 ハンバーガーを食べ終わると、僕らはファクトリーの中をざっと見回して、外へ出た。9月の札幌の夜は、10度台前半まで下がることもあり、普通に肌寒い。僕も音坂さんも短パン姿なので、スウスウと冷たい風が素肌を刺す。


 「リュウくん、寒いね」信号待ちで立ち止まった時、そう言うと音坂さんは自分の脚を擦った。スリスリと乾いた音がする。


 「まあこれからはもっと寒くなるよ……。確か音坂さんは冬場もタイツ履かないで素脚だったよね?」


 「おー、覚えててくれた?見てるねえ」そう言うと微笑む。


 「いや、ただ偶然覚えてただけだよ……。いや、でも単純にさ、真冬……、それこそ氷点下とかになっても頑なに素脚で過ごすのって何なんだろうなって。正直僕はこの気温でも素脚で歩くのは厳しい」


 「それは勿論、おしゃれだよ。せっかくね、こうやってまあまあな美脚で生きているわけですから見せないって手もないでしょ?」そう言うと音坂さんは自分の脚を僕に見せつける。


 「それを自分で言うんだ……」正直僕には無理だな。女子の心理思考はわからん。


 「でもリュウくんの脚も結構魅せがい(・・・・)があると思うけどねえ。とても童顔なのに、よく見たらしっかりと男の子って言うのはなんていうのかな?ギャップがあって良いかも」そう言うと音坂さんはさも当たり前のように僕の脚を手で触ってきた。


 「うーん……。やっぱり僕は童顔なんだな……」もう何度もボディータッチをされてきたから、なんだか慣れてきたな。


 「あ、ごめん。童顔ってあんまりいい感じしないよね」音坂さんは脚から手を離すと、本当に申し訳無さそうに言った。


 「あ、いや別に。客観的に見て自分がどうかって言うの、友達でもあんまり言ってくれないからさ。逆にありがたいよ。……まあ、だけど客観的にみて『童貞感』があるだなんて言われるのは辛いけど」


 「ゴメンって!あれはもう勢い任せでリュウくんと話す機会を作ろうと躍起になってたからさ。……まあでも実際、エロい雑誌をああやってレジに持ってくのは辞めた方が良いと思うよ。ムッツリは、ここぞというところでは大胆で無ければいけないからね」そう言うと音坂さんはまた笑みを浮かべた。


 「ムッツリの格言的なやつか、それ」


 「知らない!ほら、信号青になったよ」音坂さんはまた例の如く僕の手を握って横断歩道を渡った。なんか釈然としないなあ。


 ♢♢♢


 「なにも地下鉄の改札までついてこなくて良かったのに」地下鉄バスセンター前駅の改札前で僕らは向かい合っていた。


 「いや、別に家に帰っても何もないし。それならちょっとでもリュウくんと喋ったほうが良いかなって……。っと、そうだ!忘れてた」音坂さんはそう言うとスマホを取り出した。それから画面にラインのQRを表示させる。


 「ああ、ライン交換か。わかった」僕もスマホを取り出して、音坂さんのスマホのQRを読み込んだ。すると間もなく音坂さんのラインが登録された。アイコンは普通に自撮り写真だった。そこは自分とはぜんぜん違うな。自分のアイコンはサッカークラブ、北海道コンサドーレ札幌のマスコット、ドーレくんだ。そんなことを思いながら女子とのライン交換を感慨深く感じていたが、冷静に考えると音坂さんのライン持ってないのはクラスで自分くらいだったわ。


 「クラスラインは堺くんからでも聞いて誘って貰いなよ。私からクラスラインを誘ったら色々と面倒くさいからね……」


 「まあそうだろうね。分かった。それじゃ、また明日ね」僕がそう言うと音坂さんは大きく頷く。


 「うん。また明日!楽しかったよ」そう言うと音坂さんは手を振る。僕も手を振り返した後、改札を通り抜けた。


 ♢♢♢


 東札幌駅から徒歩10分程、ありきたりな15階建てのマンションの3階、自分の家の扉を開ける。


 「ただいま」


 「おかえり。なに?陸上部の子とでも食べに行ってきたの?」母は出迎えるなり興味津々な感じで訊いてくる


 「いや、クラスの友達と」僕はそう言うとこの話はおしまいだと言わんばかりに部屋に入ろうとする。


 「えー。クラスの友達とは珍しいね。みんなインドア派で食事に行こうとかそういう話は無かったんじゃなかったの?」


 「人間って気まぐれってのがあるんだよ」僕はそう言うと、今度こそ自室へ入った。この流れで「その友達は男の子?女の子?」とか訊かれたらマジで面倒くさい。


 自室の扉を閉めてリュックを降ろし、ベットにダイブする。いつもの感じで、ポケットからスマホを取り出す。すると気が付かなかったが、音坂さんからラインが届いていた。急いでラインを開く。


 『おつかれー。今日は食事一緒に行ってくれてありがと。明日もリュウくん部活だよね?ならさ、これからも時間が合うようだったら一緒に帰ろうよ』


 ナチュラルにもうそれ恋人みたいだな。そう思いつつも断る理由が見つからない。だって、一緒にいると楽しいんだもの……。


 『いいよ。じゃあ明日』僕がそう返すと、数秒もしないうちに、ゆるキャラが『good night』と言ってるスタンプを送ってきた。


 「ふう……」僕は息を吐く。僕は今、きっととても充実している。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ