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 陸上部のメンバーがあるかた帰ってから、僕は売店付近に言った(売店はすでに閉店している)。そこでは音坂さんがバレー部の上下ジャージを羽織ったままスマホをいじっていた。僕に気がつくとスマホをしまった。


 「あ、リュウくん。おつかれ」


 「うん、お疲れ」僕が応えると、音坂さんは座ったまま、ソファーの横に座るようジェスチャーしてきた。


 「流石に学校で横並びで座るのはまずいんじゃ……」


 「ん、何がまずいの?もうあれでしょ?陸上部のみんなに私と一緒に帰るってのはバレちゃったんでしょ?」


 「まあ、そうだけど……」僕がおどおどしてると、音坂さんは僕の手を引くと無理くり座ってた1人掛けのソファーに僕も座らせる。体の一部が音坂さんと重なる感じになった。


 「音坂さん、近い近い!!」昨日とは違って音坂さんは短パンジャージだ。まだスカートじゃないだけマシかもしれないが、自分も短パンなんだ。白い素脚が、直に僕の脚に触れる。その脚の、冷たくサラサラした感触が直に感じ取れる。


 「近い近いって、昨日と大して距離は変わってないよ」そう言うと音坂さんは顔を僕にグウっと近づける。やばいやばい!童貞にはハードすぎる。


 「音坂さん!!帰ろう!!」僕は音坂さんを振り払うと、大急ぎで立ち上がった。


 「どしたの?興奮でもした?」イタズラっぽい目で僕を見つめてくる。


 「音坂さんの距離感がおかしいんだよ。童貞がこんなのに耐えられるか!」


 「ふーん、そんなものなんだ」音坂さんは何故かあまり興味なさそうに返答する。その反応はどう受け取れば良いんですかね?


 「ま、いいか。それじゃ帰ろう」音坂さんは気を取り直したように笑みを浮かべると、ゆっくりと立ち上がった。


 「う、うん」なんか釈然としないから微妙な顔をして頷く。


 「どうしたのさ」


 「いや、別に」そう応えると、音坂さんは突然、僕の手を握ってきた。


 「リュウくん。距離感がおかしいとか言ってるけど、地下鉄で男の子と二人で並んで座ったのなんて初めてだからね?」


 「え?」僕がキョトンと言うと、音坂さんは僕の手を更にグッと強く握りしめた。


 「今、私がリュウくんの手を握ったけど、少なくとも異性の人の手を自分から握りに行ったのは初めて」


 「え、そ、そうなの?」僕はどう応えればいいかわからず、そんな感じでタジタジしてると、音坂さんは僕の手を離すと、フフフ、と昨日みたいな不気味な笑い声をあげる。


 「なんてね。どう、ドキッとした?」


 「う、く、クソ……」ドキッとしましたよ。昇天するかと思ったよ!キリキリと僕は歯を食いしばった。ホントに悪魔だ!この女は!!僕は意味もなくその場で軽くジャンプすると、そのまま玄関方面へと歩いていった。音坂さんは笑顔で僕の後ろをついてくる。


 「待ってよ、リュウくん」


 「もう、このままこんなクダリしてたら、家に帰るの遅れるよ」


 「えー、真面目。そだ、遅れるんだって言うならなんかご飯でも食べていこうよ」


 「うーん」


 「親はまだ帰ってきてないんでしょ?一報でも入れておけばいいんじゃない?きっと彼女と夕ご飯一緒に食べてくるだなんて報告すれば、感激されるんじゃないのかな?」


 「まあ、良いけども……。って別に彼女じゃないだろ」


 「別に理由付けに真偽は問わなくていいと思うよ。どうせならこう、『俺は陽だぜー』感だしといたほうが得でしょ」


 「ややこしくなるだけのような……」僕はふとつぶやくと、そのままの勢いで、音坂さんに訊ねる。


 「ところで、さっき『私から手を握ったり、異性と地下鉄に並んで座ったのなんて初めて』っていってたけど、その真偽はどうなの?」


 「え、急だね。やっぱり気になる?」確かにさっきの話題を出すには唐突過ぎたか。だが音坂さんは気にせずに面白がって僕の背中をポンポンと叩いてくる。やはりノリが陽だな。


 「ん、まあ」僕は頷く。すると音坂さんは僕の隣に並んで歩き出した。そして、僕の方を向くと笑みを向けてきた。


 「あれはね。ホントだよ。嘘じゃないよ」


 「そ、そうなんだ」安堵したように呟いてしまう。


 すると音坂さんは僕の脇腹を突っついてくる。


 「わかりやすく安堵してるね。どしたの、どしたの?」音坂さんは楽しげに言ってくる。


 「べ、別に」僕ははぐらかして応える。


 そんなことをやっていると、玄関についた。僕らは各々上靴を脱いで外靴に履き替えた。


 「それじゃ、ご飯食べて帰るか」


 僕は思い切ってそう言うと、音坂さんは「うん!」と大きな声で返事してくれた。そんな音坂さんは、顔を少し桃色に染めていた。その原因はきっと僕にあるのだろうけど、一体、何故僕にあるのだろうか?


 そんな少しソワソワした心持ちが、自分には初めてでむず痒かった。それでいて、なんだか心地良かった。

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