アナザーサイド3 不器用な男①
「薫風、付き合ってくれよ」日曜の昼下がり。スクールカーストの頂点。村川が言った。急に遊ぼうだなんていうから、なんだか嫌な予感がしたが、案の定だ。
「ごめん。無理、かな……」私は恐る恐る言う。私は村川と仲良いと周りから言われているが、そんなことはない。つけられてるだけなんだ。だから、今日はトドメを指すつもりで、わざわざ地下鉄大通駅にやってきたのだ。
村川は苦汁を飲んだような顔をする。
「俺じゃ駄目なんかよ?じゃあなんだ。誰が良いんだ?田中か?及川か?」
「光介も大翔も友達だよ」
「なんだよ。なら良いじゃねえか。俺で」
横暴だな。私は心の底から男を軽蔑する。私はそんな安い女じゃない。
「ごめん。タイプじゃない」私はしっかりと、そう言い切った。すると、村川はなにか観念したかのような顔をした。
「そっか」そう言うと、村川は手に持っていたペットボトルの蓋を開けると、中に入っていた炭酸飲料を私にぶち撒けてきた。
「せっかく休日に呼んでやったのによ。残念だよ。明日、学校で楽しみにしてっから」
村川はそう言い放つと、殻になったペットボトルを私の足元に転がして、地下鉄南北線の改札内へと消えていった。
周りを行き交う無数の人々は、そんな様子を見ぬふりして過ぎていく。
私はベトベトになった白いワンピースを手でパタパタとしながら、近くにあったベンチに腰を掛けた。
「なんでさ。酷いよ」
私はふと、子供のような感想を呟く。理不尽じゃん、こんなの。両手で自分の肩を手で抱える。
「怖いよ……」私は肩を震わす。でも、いつまでもこうしていたってどうしようもない。取り敢えず、ベトベトになったワンピースを脱ぐ。下は白のタンクトップと黒のパンツだったので、別にそこまでおかしいということは無い。もう秋とはいえ、今日は暑かったし。私はワンピースを、申し訳ないが近くのゴミ箱に突っ込んだ。
♢♢♢
「やっぱり落ち着くな」大通とすすきのの中間程にある『狸小路商店街』に来た。アーケード型の商店街で、150年以上の歴史を持つ、趣のある場所だ。今は亡くなってしまったけど、昔おじいちゃんがここで売店をやっていたので、どうしても懐かしい気持ちになる。
そんな狸小路も再開発がなされた。そして出来たのがアーケード直結の『モユクサッポロ』という施設だ。中には『L◯ft』や『S◯NYストア』などの有名な店のほか、都市型水族館が入っていたりと、結構斬新な施設である。私も狸小路に来たらふらりと立ち寄ることがある。今日も、なんとか気を紛らわせたかったので、その建物に入っていった。
中には子連れの人たちが多くいる。理由としてはやはり水族館が大きい。私はふと口元を緩める。こういう空間、私は大好きなんだ。以外と言われるかもしれないけど。
そんなことを思っていたら、突然男の大きな声がした。
「危ない!!」
私はその男の声の方を見る。エスカレーターの方からだった。なんか聞いたことある声だなと思ったが、案の定だった。その声の主は田中光介だった。
光介は小さい男の子のことを抱き上げて、エスカレーターから遠ざかったところで下ろした。どうやら男の子はエスカレーターの巻込部で遊んでいたようだ。光介はそれを見てどうやら男の子を助けた、というところか……。
男の子はキョトンとしていた。ボーっと光介を見つめる。
光介はなんだか不器用な睨みを効かせながら男の子の目線に絡んで言う。
「エスカレーターの乗り口、降り口で遊んだら駄目だろ。手とか足とか、無くなっちゃうよ」
「え!?」男の子は驚く。
「だから、エスカレーターには、使うときだけ近づくんだぞ。しっかりとお母さんの手を握ってな」
「うん」男の子は素直にコクリと頷いた。それから、エスカレーターとは逆の方へと歩いていった。それを見て、光介は見たことのないような笑顔を浮かべた。
「光介!」そんな一部始終を見たあとに私は彼に近づいた。
「薫風……?」光介は不思議そうに私を見つめる。
「なんでお前、ここにいるんだ?」
「それはこっちのセリフだけども……。今日は女子二人と一緒にどこか行くんじゃなかったの?大翔との約束をドタキャンして」
すると光介は自虐的な笑みを浮かべると、ふと呟いた。
「俺の存在意義ってなんだんだろな」
「なんだよそれ」私は呆れたように言う。
「ここじゃあれだ。ちょっと歩きながら喋ろうぜ」
そう言うと光介は歩き出した。その歩幅は、もし嫌ならついて来なくてもいいと言わんばかりに大きく、それでいて速かった。
「光介!!」私は我慢ならずに叫んだ。すると彼は驚いて私を振り向いた。
「置いてかないでよ。喋りたいことあるなら、喋ろうよ。私だって喋りたことが沢山あるんだから……」
そう言うと、光介は少し口角を上げると、そのまま微笑みなが、呟いた。
「ありがとう」
私は光介の横にくっついて、ふたりで歩き始めた。
「でも、歩くって、どこへ行くつもりなの?」
「まあ、それはついてからのお楽しみっつうか……。狸小路からほど近いぞ」
「そうなんだ。取り敢えず、危ないとこじゃなきゃなんでもいいや。行こうよ」




