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新札幌駅。実は道内でも有数の迷宮があることで有名である。何故なら、JR、地下鉄、バスターミナルを完備しているのは勿論のこと、その周りを取り囲むように駅ビルが何棟も建っている。その地下はそれぞれ結ばれているのだが、地下もかなり入り組んでいて、慣れてない人が探索すると迷子間違いなしである。
「初めて来たけど、でかいな……」中村さんが呟く。僕らは地下のレストラン街を目指していたが、その間にも様々なビルの地下を通り過ぎては、接続通路を歩いていった。すると及川はなんだか嬉しげに応える。
「だろ?厚別は西の人間が思っている以上には凄いぞ」
「いや。アンタは東に上限突破してキタヒロ民じゃん」
「言うなよ。でもキタヒロはエスコンフィールドがあるからな。どのみち札幌の東側は最高なんだよ」
「なんでコイツ西の札幌にマウント取ってくんだ?」中村さんは咲香に訊ねる。
「まー。地方のマウント合戦はネタになるからねえ。ま、単純に中村さんに地元のことを紹介できて嬉しいんじゃないのかな?」
「え!」中村さんは及川を見る。すると及川はキョトンとした顔のまま咲香を見る。
「と、言うことでもいいかな」及川が言う。
「なんだよそれ」僕は思わず突っ込む。
「そう言うことにしとこう!!」咲香はコクコクと頷いた。コイツ意地でもふたりの縁を結ぼうとしてるな。お節介な婆さん化してるぞ……。
「と、目当ての店が見えた」及川が言う。そこには中華料理屋があった。
♢♢♢
「食べた!」そう言うと、咲香はグイッと体を伸ばす。
「思ったより庶民的な値段だったね」中村さんが及川を見て朗らかな笑顔で言う。
「庶民的な中華が至高なんだよ」及川は満足げに言う。
「それじゃ、そろそろお開きにしないとねー」咲香が言う。
「だな」及川が言う。すると、突然咲香が、僕の腕に腕を絡ませてきた。
「え?」驚いて僕は咲香を見ると、彼女は軽くウインクした。
「私達は地下鉄組だから、いま来た道を戻って帰るよ。ふたりはJRだから、このビルそのまま上に上がって駅に行けばいいよ」
「……まあ、そうだな」及川は頷いた。
「及川とふたりきりかあ……」中村さんはなんとも言えないようなトーンで呟く。
「やなのかよ」
「やじゃないよ」
「やじゃないのかよ!」ふたりはぎこちない会話をしながらほほえみ合っている。やっぱ、このふたりって気が合うんだろうな。そう思いながら、僕らはふたりに手を振った。
「じゃ、あした」僕が手を振ると、ふたりもフッと右手を上げた。
「じゃあねー」咲香もそう言うと、僕の腕をガッチリとホールドしながら、向きを変えて地下鉄方面へと舵を切った。
♢♢♢
「ゲーセン」僕が言うと、咲香は頷いた。
「これがゲーセンじゃなかったら、何がゲーセンなの?」
「いや、そうじゃなくて。ゲーセンに来るならわざわざ及川たちと別れる必要なかったんじゃないか?」
「なんで?」
「なんでって……」僕は回答に困る。さっきから離してくれない腕の絡みを、更に強くしてくる。完全に、身体が押し付けられてる格好だ。
「リュウくん。私は中村さんと及川さんのためにあのふたりをふたりっきりにしたと思ってる?」
「え、違うのか?」僕が言うと、咲香はクククと笑いながら首を振る。
「いや、ホントだよ」
「なんだそりゃ」僕が言うと、咲香は「でもね…」、と言葉を続けた。
「もう一つ理由がある」
「もうひとつ……」
すると咲香は頷いた。
「やっぱり友達と、恋人って違うんだよ。友達は、きっと休日に遊んでも有意義だなあって思えるくらいのひとのことを言うんだと思うんだよ。だからある意味では、私には友達が少ないかもしれない。けど、今日、大翔や中村さんと遊んで、有意義だったし、楽しかったから。だからふたりは私にとっては友達だって思えるんだ」
「確かに。今日は予想以上に楽しかった」こんな大人数で遊ぶのは初めてだったが、全く苦痛だとかそんなことは無かった。
「けどね。リュウくんは友達じゃないんだよ。恋人なんだよ。だからさ。どんなに愉快な日でも、苦痛な日でも、ふたりっきりになりたい。ふたりっきりの時間っていうものが欲しい。そう思うんだよ」
「そうかもね」やけに納得する。絡んだ腕に、直に咲香の鼓動が伝わって来る。
「だからさ。ズルい言い方だけども、ふたりには退場してもらった」咲香は笑顔を作った。
「性格悪いなあ」僕が冗談ぽく言うと、咲香は笑ったまま「嫌だった?」と囁いた。
「嫌じゃないよ。嬉しい」正直、今日は咲香が及川とそこそこ話をしていることに嫉妬しかけていた自分がいた。だから、こうやってふたりきりになりたいと咲香が言ってくれたことに、なんだか安堵の気持ちが湧いて出る。でもきっとこれは悪いことなんかじゃない。僕は、咲香が好きなんだから。
「ただ、咲香……。ちょっと、人目に付くところでの行動が大胆になってきてないかな……」僕が言うと、咲香は首を傾げた。
「そうかな?」
「そうだとも……。さっきからずっと腕におっぱい当たってて。正直もう限界近いんだけど!!」
「そっか」咲香はそう言うと、僕の耳元に口を当とてて「嬉しい」と囁いた。
「……トイレ、行っていいかな?」
「え?」
僕は咲香の腕を解くと、駆け足でトイレに向かった。取り敢えず、犬とか猫とかの当たり障りないこと考えながら、鎮圧するのを待たないといけない。僕の彼女は、どんどん大胆になってしまって、ムッツリを卒業しようとしているようだ……。




