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 試合というのは振り返ってみればあっという間だ。勿論、見ている最中は熱中しているのだが、だからこそと言っていいかもしれない。


 試合の結果はと言うと、0-0の引き分けだった。


 試合が終わり、厚別競技場から大谷地駅への人だかりが出来上がっていた。僕らもその人だかりに飲まれて、歩いていた。コンササポも、川崎のファンもみんな口惜しそうな顔をしている。そりゃそうだ。


 「しかし、あのゴール惜しかったよな」及川が言う。僕は頷いた。


 「そうだね。だだやっぱり川崎だからね。そう簡単には点が入らないよ」


 「だよなあ」


 しんみりとした顔で僕らが喋っていると、咲香がぱあっとした笑顔で言う。


 「いやー。それにしてもサッカー観戦は初めてだったけど楽しかったなあ。ね、中村さん」


 「ん、そうだね。私は別にスポーツなんてやらないし、観戦なんて何が楽しいんだろうって思っていたけど。なんていうのかな。ライブ観?てやつかな。お客さんを魅了するって意味ではバンドのライブ行くのと同じかもね。……ただ、敵が存在しているっていうのは初めてで怖かった」


 すると及川が笑う。


 「なんでだよ。怖がる必要ないだろ。スポーツなんて敵がいないと成り立たないんだし。それに、スポーツってのは思ったよりも相手のことはしっかりとリスペクトしながらやるもんだぞ。な」


 及川はそう言うと僕や咲香を見る。僕は口を開く。


 「確かにそうだね。むしろ負けたくないっていう気持ちが、逆に相手への最大のリスペクトだと思うし」


 「ただ、観客の中に少し湧いていたが、敵を煽るようなことをしてはいけない」


 すると咲香が深く頷いた。


 「だよねー。やっぱあれは双方にとっても印象悪いよねー。中村さんにわかりやすく例えるとするなら、対バンライブで目的じゃないバンドが登場した瞬間ブーイングするようなもんだね」


 「ゲー。ファ◯キューじゃん」中村さんがあからさまになったような顔をする。その顔を及川が驚いたように見つめた。


 わかるよ。けどもう慣れろよ、中村さんの口の悪さには。


 及川は一旦気を取り直すように咳払いをすると、口を開いた。


 「と、これからどうしようか。みんな夕ご飯は食べてくるって言ってんだろ?」


 するとみんなが頷いた。


 「言ってるよー。まだ早いっちゃ早いけど、もうご飯食べに行く?応援でお腹減ったよ。ね?中村さん」咲香は中村さんの肩に手を乗っける。やっぱり、及川しかり、咲香も陽キャ成分はしっかりと配合してるよな、なんて意味のないことを思う。そんな陽キャ成分に飲まれたのが、僕なんだろうけども。


 「うん。確かに。私は帰宅部だから余計に疲れたかも」中村さんも咲香のノリに慣れてきたのか、満更でもないように受け答えをした。


 「じゃあどこ行こうか?この辺だったら、やっぱり新札幌駅に行くか?」


 そんな及川の言葉に僕と咲香はドキッとした。いや別にドキッとする必要は無いんだけども。


 「新札幌ね。でもそれって及川くんの帰宅路じゃん。ズルくない?」中村さんが不服そうに言う。


 「良いだろ別に!新札幌に行けば、東西線民の音坂、高崎もJR民の俺も和葉も帰りやすいだろ」


 「まあそうか」


 東西線でJR線に乗り継げるのは新札幌だけである。東西線琴似駅とJR琴似駅は乗り継ごうと思えば乗り継げるが、かなり離れているし、東西線白石駅とJR白石駅は間違っても乗り継ごうと思ってはいけない。歩いて30分はかかる。


 「じゃあ早いとこ新札幌行こっか」咲香が言う。


「けど、とりあえずは流れに身を任せるしか無いな……」僕が呟いた。人並みに流されながら、僕らは雑談をしながら大谷地駅に向かった。


 ♢♢♢


 「新札幌着いた!」咲香は地下鉄新さっぽろ駅に着くなり言う。


 「先週来たばっかだよね……」僕が言うと、咲香は鼻に手を当てて得意げに言う。


 「だからこそだよ。追憶の地ってやつ?」


 「なんか僕らの関係が終わったみたいな感じだな」僕が苦笑する。


 すると及川が驚いたように口を挟む。


 「なんだよ。お前らがデートしたのって新札幌なのかよ。なんでまたこんな遠くへ?俺は殆ど新札幌地元みたいなもんだけど、お前らなら大通とか札幌駅(さつえき)の方が近いだろ?」


 「まあ、それは……」僕が苦笑いしていると、及川はなぜだか納得したように笑った。


 「なんとなくわかったよ。理由が。けど付き合ったからにはもう堂々としないといけないな。これからはお前らも堂々とすすきのあたりでデートしないと。目撃されたってもう良いんだから。コソコソしてたら逆になんなんだと思われるぜ」


 「まあそうだけど……。なんですすきの?」僕が訊ねると、及川はネタで言ったんだろうけども、気まずそうに目をキョロキョロさせていた。


 「キッショ」中村さんは容赦無い一言を及川に浴びせた。


 「……どうでも良いけど、取り敢えず駅を出よう?」咲香は困ったような顔をして言い放つ。


 そこで僕はふと思う。


 咲香。下ネタ好きの正体は、まだ僕以外には見せるつもりがないんだな。


 なんだか、僕は若干得意げな気持ちになってフフッと笑みを浮かべた。


 「えー……。ちょっと、音坂さん、高崎くんニタニタしてんだけど」すると中村さんがそんな僕の様子に気がついて咲香の腕をつつく。


 「キッショー」咲香はジト目をしながら僕を見下してくる。どの口が言うか……。

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