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 「ただいまー」


 「咲香が言うな」


 僕たちは4階の高崎家に入る。勿論、母も父も居ない。なんだかソワソワする。


 「取り敢えず、玄関入ったらすぐ右側の扉、洗面所だから、手洗ってね」


 「なんかリュウくんお母さんみたい」咲香は冗談ぽくしかめっ面をすると、素直に洗面所に向かった。僕はその隙にチラッと玄関左側の自室を覗く。なんか変なものが無いだろうか?いや、別にエロ本が転がってようが咲香ならもうどうでもいいのだが。


 ♢♢♢


 「へえ、リュウくんの部屋って思った以上に綺麗だね」


 「そうかな?」僕はそう言いながらも、そりゃそうだ、と心の中で思う。咲香が来るとわかってからもう、徹底的に掃除したからな。


 「それでさ。こうやってカップルが二人きりで部屋にやってきたら普通、揃ってベットの上に腰掛けるのがお決まりだと思っていたんだけれども……。何故にキャンピングチェア?」


 「いや。うん……」自然に咲香をベットに座らせる程、僕に肝は座ってない。だからといって座布団は無いだろうと思ってわざわざトランクルームから2つ引っ張り出してきたのだ。


 「ん、まあ良いけれどもさあ……」そう言うと咲香はキャンピングチェアから立ち上がった。


 「どうした」


 「いやいや。リュウくん。せっかく君の部屋に来たんだから、やることがあるじゃないですか。やることが」


 「ヤること……」僕はいけない方向へと思考を巡らせる。いや、カップルなら逆に健全なんだろうか。いや、童貞の僕にはわからないが。


 「うん。リュウくんのエロ本を探す」


 「あ、エロ本ね」僕は咲香の発言にキョトンとする。


 「なんかとてつもなくつまらそうな反応するね!?まあ、それなら遠慮なく探させてもらおうっと」そう言うと咲香は僕のベットの下を覗く。


 「なーんにもない!」


 「そんなベットの下だなんてリスクのあるところに隠すわけ無いじゃない。中学生じゃ無いんだし」


 「そーなんだ。じゃあどこかなあ」


 咲香は机やクローゼット、本棚を漁る。


 「ない。何処だろう……」そう言うと、咲香はまだ見ていない小さなタンスを開けた。


 「あ、リュウくんのパンツ」


 「あ、あんまり見ないで」咲香はなんだか凄いものを見つけたと言わんばかりの顔をする。恥ずかしすぎる。


 「うーんと、あ、リュウくんのパンツ触ってもいい?」


 「なんで!?」


 「いや、パンツの下に新聞引いてるでしょ。もしかしてこの下にエロ本を隠しているんじゃないかと推測してですね」


 鋭いな。僕は勘弁して、自らそのタンスのパンツをよかして、新聞の下敷きになっていた雑誌を取り出す。


 「おお、これは爆乳表紙」咲香がそう言うと、ふと自分の胸を撫でる。


 「君のはまるで無いね」


 「いうね。リュウくん」そう言うと咲香は僕の股間を凝視する。そして少し不満げに言う。


 「君もきっと小さい」


 「なんでだよ!」


 僕は爆乳表紙の雑誌を咲香から取り上げる。


 「言っておくが僕は別に爆乳が好きな訳では無い。この雑誌を取っている理由はな……」僕はそう言うと雑誌を捲る。そして『ボーイッシュガールのセミヌード集』というページを開いた。


 「ボーイッシュ、ねえ」咲香はそのページを入念に見回す。乳首は隠れているが、数名の女性が大胆に肌を露出している。


 「うーん。でもさ、リュウくん。私ってボーイッシュって感じでは無いと思うんだけれども?もしかして私ってホントはタイプでないのでは?」


 「いやいやいや!ボーイッシュでもいけるってだけだって!咲香のその太腿とか唇で僕が何度悶えたか知ってるんか!?」


 「まあ、それなら良いんだけれどもさあ」そう言うと、咲香は雑誌を置いて、自分のハーフパンツをさらに捲りあげた。ほんの少しだけ、黒いパンツが見え隠れしている。


 「え、さ、咲香。何をなされているんですか?」


 「いや。リュウくんがもし、女性に男らしさっていうのを求めているのなら。私にとって男らしいところって言えばここなんじゃないかなって思って。ほら、結構がっしりしてるんだよ。触ってみて」


 「い、いやそれはちょっと」


 「触ってみて」咲香はやや挑発的に言ってくる。これは触らないといけないパターンだな。僕は観念して、中腰になるとその咲香の太腿を手で触る。


 「う、うん。確かにがっしりはしている」けれども、男らしいって、そういうわけじゃないんだよなあ!このスベスベ感とサラサラ感はどう足掻いても男では生成できないもので……。ってなんか思ってること変態みたいだな……。


 「それにさ、いつだかリュウくん、言っていたよね。『君の素脚でしごかれたい』って」


 「あー」言ったな。そんなこと。それに対して、咲香はこう返した。


 「チャラにはできないよって、私は言ったよね?」


 「言ってた……。けどタンマ!今はそのタイミングでは無い!」


 「リュウくんには素脚でしごかれたいタイミングがあるんだ……」ふーんというと咲香はまたもとのキャンピングチェアに座り直した。すると、咲香は先ほどのいたずらな表情から一変、ゆっくりと優しい笑顔を僕に向けた。


 「ごめんね」咲香は言う。


 「いや、別に何も謝られることをしてないんだけれども」


 「いや。正直今のはリュウくんを図ったんだよね。昔の彼氏って。こういう家でふたりきりのシチュエーションになった時にさ。有無も言わずに張っ倒してくるようなタイプだったからさ。実際リュウくんってどこまで自制が利くタイプなんだろうって、ふと疑問に思ったんだよねえ。まあ、でもいまの流れなら別にそのまま身を委ねてもいい気はするけれども」


 「そこは。うん。童貞だからどこまでが自然の流れなのかっていうの、わからないんだよね」


 僕がそう言うと、咲香も苦笑いのような顔をする。


 「まあ。私にもわからないんだけれどもね。こうやって、本気で好きな人と付き合うのって初めてだから」そう言うと俯く。


 このままだとせっかくふたりきりなのに空気がどんよりしそうだ。仕方がない。


 「咲香、コーヒー飲めるか?」


 「コーヒー?飲めるよ」


 「それじゃ、ちょっとコーヒー淹れよう。まあ、今回は、取り敢えずのんびりとくだらない話でもしてようよ」そう言うと僕は微笑んだ。

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