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音坂さんと付き合って初めての土曜日が来た。とはいっても午前中は僕も咲香も部活動だった。特に学校ですれ違うということもなく、それぞれの部活場所に向かった。
今日の陸上部の空気感は、なんとも言えなかった。須藤はやはりなんだかソワソワしてるし、飛河はいつもよりなんだか僕に対する対応が塩っぽいというか……。これ、ボクが悪いんかな?
ただ、少しホッとしたこともあった。桜木さんが普通に僕に接してくれた。ある意味で振ってしまった立場だから、居づらいなあと思っていたが、それもくるめてネタにして僕にぶつかってきてくれた。とてつもなくありがたかった。
♢♢♢
「おつかれー!!」部活ジャージのまま校門に向かうと、音坂さんが半袖短ズボンのジャージを纏って待っていた。今日は9月の北海道らしく、カラッとしていて、風がとても気持ちの良い日だった。日を受けた彼女の肌は、やっぱり綺麗で……、正直……。刺激強いんだよ。
「どうしたの。般若みたいな顔して」
「え、そんな顔してた!?」僕はまずいと思い、自分の頬を叩く。
「ハハハ、なんで今更緊張してんのさ。でも、カノジョがいるっていうのは素敵だよね?」
「自分でいうか、それ」
「うん。それに、カレシのいるっていうこの状況も素敵」そう言うと、咲香は僕の手を握ってきた。
「うん、まあ……」素敵すぎて、言葉が出ないね。
僕らの恋は、このたった一週間の間に色々な人を巻き込む大きなものだった。僕が好きだったという人が現れたり、僕が好きだったという人が現れたり、僕が好きだったという人が現れたり……。いや、おかしだろ!!
「ホントに、咲香が僕に好きを伝えてくれて良かった。ホントにこのまま青春を送っていたら、捻くれ陰キャ童貞野郎になってた……」
僕がそう言うと、咲香はふと何かを考えるかのように、人差し指を顎に当てて上を向く。
「ふーん。捻くれ陰キャ童貞野郎ね……」そう言うとニッコリと笑って僕を見つめてくる。
「捻くれ陰キャ、っていうのは、正直君が自分自身に見る目が無いから出てくる、拗らせワードだと思うけれども」
「え……」咲香は即座に僕の卑屈ワードを否定してくれた。僕は思わず嬉しくなる。
「ただ、その、さ。このままいたら童貞野郎になってた……。ってまるでいまからもう童貞は卒業しますと言っているような感じがするけれど?」
そう言われて僕はハッとする。しまった!別に僕は童貞を卒業したわけでも、咲香とヤろうと約束したわけでもないのだ。ただ、単純に僕の中では、ずっと前から『彼女居たことがない』と『童貞』はイコールで結ばれていたのだ。だからスッと、そんな台詞が口から飛び出してしまった。
「ご、ごめん。いまのは忘れて!」慌てて僕は咲香の手を解くと目の前に立って手を合わせた。すると咲香は不服そうな顔をすると静かに呟いた。
「いや、忘れないけれども」
「え?」すると咲香は、ニッコリと笑って囁いた。
「だって、そもそも君の童貞を奪うのは私だからね」
僕の頭はフッと真っ白になった。やばい!これは下半身が完全に反応してしまう!!僕は大急ぎで肩に背負ってたボストンバックを手に持って、下半身を隠した。
「へえ。リュウくん。そうなんだね」
「そうなんだ、ってなんなんだよ」
「ムッツリだよね、ホントに」
「だから、男なんてみんなムッツリなんだって。しかもこれムッツリだからとかそういう話じゃないだろ!思いっきり手榴弾投げつけられたようなものだからね」
僕はムキになって言うと咲香は少し目を細めると、冗談ぽく言う。
「だからといって、公道で勃起なんてちょっとモラルがないよね。感心しないなあ」
「勃起、という言葉を公共の場で言うのも、極めてモラルがない」僕が言うと、なんだかテヘ、みたいな顔をする。何がテヘだよ。
「……とまあ、冗談はこんなところにしといて。今日はこの後どうする?なんか食べてく?」
「……童貞からしたらいまの、冗談にしてはとてつもなく過激だったんだが……。まあ、なんかお昼食べていくっていうのは良いかもね」そう言うと、僕はふと思い出したように言う。
「あ、咲香、そうだ。うちによっていけば?今日は親がどっちも仕事に出ているけれども」
僕がそう言うと、咲香はあからさまに顔を赤くする。
「え!そ、そういう誘い、突然だと良くないと思うんだがなあ」
「なんでだよ!この前の日曜日に、咲香が先に言ってきたんだぞ。リュウくんの家に言っていいかって。それで少し返答に困ってたら、童貞感があるだのどうだのといったのはそっちじゃないか」
僕が指摘すると咲香は参ったと言わんばかりの顔をした。
「わかった。うん。君の部屋、荒らしに行こうかな」そう言うと咲香は再び僕の手を握ってきた。
「荒らしにって……」
「取り敢えず、リュウくんの隠してるエロ本エロゲを全て把握する」
「なんでだよ!」
「私は君のすべてが知りたいの」
「それ言えば何でも許されると思ってるだろ」僕は冗談っぽくため息をつくと、咲香は握っていた手を、少しだけ強く握り直すと、真面目なトーンで口を開いた。
「ううん。本当にすべてが知りたい。当たり前じゃん」
「すべて……ね」それは無茶だと思いつつも、僕は咲香の方を見て少し笑みを浮かべた。




