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「確かに、光介や私と、咲香、大翔とじゃ、タイプが違うって言うのは納得だけどね」かおちゃんは睨む目を少し緩めながらも、やはりどこか不服そうな顔のままそう言う。
「だけど、自然体としている、というわけではないよ。自然体として生きるって、それは言うなら本能のまま生きるってことでしょ?」
「ん、まあそうかもしれない」僕は頷く。そして、ふとかおちゃんが言いたいことに気がついた。
「別に本能のまま生きてるわけではない」僕は言う。
するとかおちゃんは、顔を緩めた。
「そう。本能のまま生きられないから咲香や大翔からの話題を待っているってわけ。自分から、アレしたい、コレしたいということを言えるような度胸がないから」
「要するに、田中がダブルブッキングをかけたのは、話題を貰ったことに対してふたつとも拾ってしまった事による弊害というわけか」
「そういうこと。でも今回、光介はある意味勇気を振り絞って本能を外側に出した。ざっくり言うと、『サッカー見に行くよりも、女子と遊びたい』っていうことだね」
「……なるほどね」僕は頷いた。
「え、リュウ、いまなんか納得したような感じだしてるけど?」豪樹は信じられないとでも言うようだった。
「正直、僕は本能を外に出すのは得意な方だと思う。実際、咲香に『どうせなら付き合おう』って事実上提案したようなものだからね。それは、咲香も同じだ。咲香は僕に素直に『青野さんもリュウくんが好きだった』って打ち明けてくれたから。そういう意味では、きっと田中なんかは僕や咲香と真逆だ。確かに、僕らは彼らを『陽キャ』としてラベリングしてるかもしれないけど、そんなことはない。素直なことを言えないから、本能的に生きている『陽キャ』な及川なんかを頼りにしている。逆に、そんな及川からの提案を断ることが出来ない。だから、別に本望でもないサッカー観戦を承諾してしまった」
僕がそう言うと、かおちゃんはゆっくりと笑った。
「そうだよ。だから、確かに大翔が怒る理由もわかるんだけど、光介はしかたなかったんだよ」そういった。しかし、それに突然、豪樹は言葉を返した。
「うっせえよ」そう言うと豪樹はかおちゃんを睨む。
「それは『私たちは弱いんです。だから約束を破ったり、約束を被らせるのは仕方がないんです』って言ってるようなものだろ」
「だって、私達はそういう人間なんだもの。仕方ないじゃない」かおちゃんは応戦する。しかし、そんな彼女を豪樹は鼻で笑った。
「仕方ねえじゃないだろ。やなら断れよ。なんで陰キャを見下して鼻で笑っているような人間が陰キャでもできる『拒否』っていう選択が出来ないんだよ。少なくとも、音坂さんやあの及川はできる。だからこそ及川はそういうお前らの言う『弱い』とか言う名のデマカセに対して、ついに堪忍袋が切れたんじゃないのか?だから昨日、及川は逃げたんだと思う」
「……」かおちゃんは俯く。何も言葉を発さなくなる。
「なんか言えよ」
「言い過ぎだろ、豪樹」僕はあまりにも熱くなっている豪樹を制止する。
「……確かに言いすぎかもしれない。けど、やっぱり俺は、コイツとか、田中とか嫌いだわ」
するとかおちゃんは俯いたまま呟く。
「……いいよ。それで。確かに私達は誰かを卑下しないと、心を保てなかった、物凄い弱虫だから。だから結局、大翔には愛想尽かされるし、大好きだった高崎くんも、結局のところ、傷付けてしかいなかったみたいだから」
「大好きだった、高崎くん……?」すると豪樹はそのセリフを不思議そうに復唱した。
「そうか……、堺くんには言ってなかったんだね。私はずっと昔から高崎くんに片想いをしていたんだ」
「高崎くんに、片想い……ね」そう言うと豪樹は呟いた。
「やっぱり、俺等の年代っていうのは、不器用なやつが多いんかもな」
なにか、遠くを見るような目をしながら……。
♢♢♢
その日、やはりというべきか否か、及川は休んだ。音坂さんのグループは、やはり上手く機能していない。かくいう音坂さんが、僕との時間を大切にするからかもしれない。しかし音坂さんはそんな雰囲気に全く気がついては居ないようだった。本当に気がついていないのか、もしくは単純に気にしていないのか。後者だとしたら、やはり少し息苦しい。だが、どうしようもないことであるような気もする。人間に好き嫌いは、やはり付き物であるから……。
昼休みにそんなことを思いつつも、音坂さんと喋っていると(豪樹は、また後輩と一緒に遊んでいるようだ)、突然、凛となるような囁くような声がした。
「あのー、さ。高崎くん」
僕はその声の主を見る。そこにいるのは中村さんだった。目元まで伸びた髪の毛の間から覗く目は物凄く鋭く、顔の輪郭はとてつもなく綺麗だ。至って美人。そんな印象の女の子ではある。
だが、何故か人を寄せ付けないようなオーラをいつも出しているような人だった。こっちから声をかけたことは何度かあるが、あっけらかんな反応をされたりして、僕が嫌いなのかな?なんて思ったりもしていた。それだけに、そんな中村さんが自ら話しかけてきたので、僕は驚いた。




