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アナザーサイド2 及川大翔の逃亡②

 俺と和葉はじいさんに店の奥に入るよう促された。店番は良いのかよと突っ込みたくなるが、別にこのように奥に招待されるのは初めてのことではないので、もう慣れきってしまった。


 畳のリビングに案内されると、俺は所謂ちゃぶ台と言われるもののそばに置いてある座布団に座るよう言われた。和葉も俺の向かいに座る。


 「取り敢えず、サイダーでも飲みなさい」じいさんはそう言うと2人分のサイダーの入ったガラスコップをちゃぶ台に置いた。


 ドン!!


 じいさんは勢い良くコップを置いたものだから、サイダーが少しテーブルに溢れる。


 「じいちゃん、ホント雑だよね」本音を包み隠さずに和葉は指摘する。


 「そんな几帳面な性格じゃないからね」そう言うとじいさんは嬉しそうに微笑む。その顔は、孫を見るおじいちゃんそのものだった。当たり前といえば当たり前だが。


 俺は取り敢えずサイダーを貰う。別に外はそんなに暑くもないが、喉が渇いていたのでその甘さが沁みる。


 「美味い!」思わず声に出す。


 「サイダー如きでそんな喜べるんだ」そう言って和葉は口を挟んでくる。


 「うるさいな。いいだろ、美味いものは美味い。素直に伝えるのが大切だって」


 「ま、そーかもね」そう言うと和葉はあぐらをかいてグッと体を後ろに倒す。


 「しかし、良かったなあ」じいさんは口を開く。


 「何が?」すると和葉は不思議そうに訊ねる。


 「いやいや。和葉と大翔くんが、仮に仲悪かっりでもしたら、鉢合わせさて申し訳無いなと思ってね」


 「別に仲いいわけでも無いけどね」


 「それは言うな」俺は素早く突っ込んだ。それからふとした疑問が浮いてでてきた。


 「でも、じいさんって和葉と俺が同い年ってこと知ってたんすよね?ならなんで俺に『実は孫が和葉で……』みたいな話しなかったんすか?」


 するとじいさんはホッホッホと笑い出す。ダンブルドアかな?


 「いや。だって冷静になって考えてみなさい。仮に、和葉と大翔くんがそれこそ犬猿の仲、顔も見たくないような関係だったとするだろ?それで私が『実は孫が和葉で』みたいな話をする。それって物凄く酷だと思わないかな?」


 「確かに……」


 「親が仲いいから、それだけの理由で、別に仲良くもない子ども同士が遊ぶって、よくあるでしょ。ああいうの見てると、ワシものすごーく胸焼けがしてしまうんだよ」


 「「わかる」」和葉と俺の言葉が重なった。めっちゃはずいんですけど。


 「うーん。やっぱわかんない」和葉は口を尖らせてそう言う。


 「なんでだよ!」俺が突っ込むと和葉はなんだか愉快そうに微笑んだ。


 「まあでも、前から大翔くんは和葉にどこか似てるような気がしてたんだよ。ほら、さっきワシが出した親同士子ども同士の関係の例え。ああいうのを『やだなあ』って思う素直さとか、まんま和葉だったからさ」


 「でもああいうのは実際やだろ。俺の友は俺の友、あんたはあんたって感じ」


 「うん、それは同意。関係性まで周りに決められるとか、息苦しい」


 そんな和葉の言葉に、思わず俺はハッとする。関係性を周りが勝手に作っていった。それに俺は今まで乗っかってきた。それは確かに、物凄く息苦しいのだ。なぜならそれは、自分が決めた友では無いからだ。


 「ホントに、そのとおりだ」俺は下を向きながら思わず力強く言ってしまう。じいさんも和葉も驚いたようにこっちを見る。


 「あ、すみません」俺はじいさんと和葉を見ながら頭を下げた。しかし、じいさんはニコリと笑うとふと口を開いた。


 「和葉、良かったなあ」


 「え、なんで!?」あぐらを直すと、和葉は驚いてテーブルに手をつく。


 「だって、前々からいってたでしょ。『私の思想とか、気持ちとかわかるやつはあの学校には居ない。みんな馬鹿だから』とかグチグチと……」


 「そ、それは言わないで!!」和葉は慌てたようにじいさんの口元を塞ぐ。そんなテンパった和葉、初めて見た。俺は思わず楽しくなって、再度突っ込んだ。


 「悪かったな。馬鹿で」


 「うん。そうやって人の黒歴史に乗ってくるのが馬鹿っていうんだよ」


 「ひ、酷い……」


 高精度の反射攻撃をお見舞いされて、俺はがっくりと肩を落とした。すると和葉はフザけた顔から、少し真面目な顔に変えて、言葉を発した。


 「冗談だよ。私の気持ち、意外にわかってくれる人がいるってわかって少し安堵はしたよ。ありがとう。及川くん(・・)


 「……え……」俺はキョトンとした顔で和葉を見た。すると和葉はなんでもないような顔をして、サイダーを飲み始めた。


 ♢♢♢


 「流石に中村商店の2階には来たことが無かった」俺はじいさんの趣味部屋に案内された。夕方まで遊んでいけば良いということなので、その言葉に甘えることにした。その趣味部屋はリビングとは違ってフローリングのかなり近代的な作りだった。キャリー付きの腰掛付きの椅子やテレビなんかがある。


 「って、XBOXあるし!これは和葉のか?」俺は椅子に座ってスマホを弄っている和葉に訊ねる。


 「いいや。私ゲームしないし。じいちゃんのやつ」


 「マジか」確かに最近はお年寄りもゲームにハマる人が多いとは訊く。現に加山◯三はバイオハザードやファイナルファンタジーのファンで知られてるし、戦争を体験したおばあちゃんが戦争をテーマにしたFPSにハマった、なんて話もある。ではじいさんはなにやってんだろうと、俺はソフトのパッケージを探す。


 「ソフト無いな」


 「じいちゃんダウンロード派だもの」


 「凄えな」いつもの感じからして、結構冗談の通じる若々しい人だってイメージはあったけど、予想以上だな。


 「なんかやりたいなら電源つければいいよ」


 「うん、そうしよう。めっちゃ気になるわ」俺はXBOXの電源を入れる。すると画面にはソフト一覧が出てくる。


 「スト6にギルティギア……しかも普通にオンライン勢だし」


 「うん。じいちゃんはオンラインは素晴らしいって言ってるよ、いつも。相手の素性を知らないから、気楽でいいって。しかも勝ったら気持ちいいってさ」


 「それはなんか悟ってる感じがしてじいさんらしいわ」なんだか、やってる理由っていうのが意外性がなくて、妙に納得してしまった。


 「あ、あのさ」すると和葉はスマホを仕舞うと、何かを思い出したかのように俺の方を見た。


 「どしたの?」


 「いや、大したことでは無いんだけどさ、実はじいちゃん来月誕生日なんだよね」


 「知ってる」


 「なんで人のじいちゃんの誕生日知ってんだよ」和葉は苦笑しながら話を続ける。


 「それでなんか買ってあげたいな、って思ってさ。あの、めんどくさくて全然顔出さなかった詫びも含めて……」


 「ん、そうなんだ。それは良いんじゃないか?」


 「そこでさ、じいちゃん、格ゲーが好きなんだよ。だから、あれ、なんていうんだろう。あれ……。机に置いてレバークルクル回して騒ぐやつ」


 「アケコンか」騒いでるんじゃねえぞそれ。本気になってるんだ、それは。


 「そう、それを買いたいなって思うんだけどさ。なんかそんなのが豊富に売ってる店とか無いのかなって」


 「それなら札幌駅のヨ◯バシとかビ◯クカメラとか、かなあ」


 「あー、私もよく行くよ。イヤホンのリケーブルとかも結構豊富だよね」


 「イヤホンのリケーブル?」


 「いや。そこそこの値段のするイヤホンって、ケーブルが着脱式になっているのが多くて。そのケーブルを変えて好みの音を探せるんだよ」和葉はなんだかとても興奮したように言う。なるほど、教室で昼休みにイヤホンをしてるのは暇だからとか、そういう訳ではなく、単純に音楽が好きだからなんだな。そう思うと、ホントに偏見というのは役に立たない。


 「へー。そうなんだ」俺はわかったふりをして頷く。取り敢えず日本人はエアーポッズさえしてればつうであるみたいな風潮あるからな。きっと和葉はそうじゃないんだろう。


 「うん。けどやっぱりイヤホン本体も重要だよね。コスパ的にはやっぱりf◯nalのA4000とかかな?あれは2ピンのケーブルだからリケーブルの際は気をつけたほうが良いね」


 和葉はとても楽しそうに言う。なんだ、しっかりと楽しく生きてるじゃないか、この子は。俺は少し安心したような心持ちになった。


 「わかったけど、あの、アケコンの話は?」俺は和葉のマシンガントーク一度受け止めてから、切り出した。和葉はみるみる間に顔を赤くする。


 「クソオタクがイキり始めたと思ったろ」和葉は俺をグッと睨みつけてくる。


 「思ってねえよ!!」俺が突っ組むと、和葉は一つ咳払いをするような仕草を見せた。僕は取り敢えずそんな和葉の暴走を軽く受け止めつつ、話を続ける。


 「ん、まあ、取り敢えずアケコンは札幌駅の付近でも買えるけど、実はもう少しゲーミングに傾いた店があるよ」そう言うと、和葉は「え、どこ?」と訊ねて来た。


 「それは……」

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