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 放課後、グラウンドのいつものブルーシートに行くと、やはりいつも通りに桜木さんがいた。


 「あ、桜木さん。お疲れ様」僕がそう言うと、桜木さんは少しうつむき気味に言う。


 「高崎先輩、お疲れ様です。今日からはもっと遅く来ると思ってたんですけど」


 「え、なんで?」予想外な発言に驚く。


 「だって、高崎先輩、彼女ができたってかなり噂になってましたから。しかも相手が音坂先輩だって言う……」


 「ん、まあそうだけど……」凄いな、一年生にまでそんな噂が辿り着いてるのかよ。間違いなく、僕が彼女を作っただけではそうはならなかった。相手があの音坂さんだからだろう。


 「教室とかで、放課後一緒に喋ったりはしないんですか?」


 「昼休みにずーっと喋ってたし。それにおと……、咲香はバレーを生きがいにしているような人間だからね。いつも誰よりも先に体育館へ行ってるよ。どうしても勝ちたいって思ってる同級生がいるんだって」


 そう言うと桜木さんは目を見開いた。それから、ふっとその目を細めると、少しだけ笑みを浮かべて言う。


 「それは、高崎先輩も同じですよね?」桜木さんは静かに言った。


 「同じ……」


 え、河越飛河に対するライバル心的な、悔しい思いというのは桜木さんには話したことがないはずだったんだが。そんなことを思っていると、また桜木さんは口を開く。


 「知ってますよ。高崎先輩が、この部活の中でも、一番頑張っているってこと。河越先輩を打ち下したいと心の底から思っていることも」


 「なんで……」僕が訊ねると、桜木さんは自慢げに言った。


 「この陸上部の……、高崎先輩のマネージャーですから」そう言うと少し急ぎ足で桜木さんはどこかへ言ってしまった。


 『高崎先輩のマネージャーですから』……。それはちょっと、ドキッとしてしまいそうな言葉じゃないかな。桜木さんは、どういう意図でそんなことを発したんだろう。僕はその場でボーっと立ち止まってた。するとどこからともなく工藤陸斗がやってきた。すると出会い様なにか不気味な声音で呟く。


 「り、り、リア充がっ……このリア充が!!」


 「突然なんなんだよ。今まで『よう陰キャ』とかなんとか言ってただろ」


 「わかるだろ?俺ってものすごーくマウント取りたい男だから。マジのリア充を見ると目が死んでしまう!」


 「ハイハイそ~ですねそ~ですね」


 工藤、言っちゃ悪いが今週の初めにそのマウント取るために使ったコトバのナイフで突き刺されたのは、絶対に忘れないからな。


 「いや、しかし高崎が音坂さんとか。予想外すぎる。正直に言うと、高崎は今年度中に彼女ができるんじゃないかって畏怖はあったにはあったんだけれども」


 工藤はそんな予想外な事をいう。


 「そんなの思ってたの?」


 「……ん、まあな。だがいやはや音坂さんだとは一ミリも思わなかった。だって高崎はきっと桜木ちゃんと付き合うとしか思ってなかったもの」


 「え、なんで?」僕は思わず訊き返す。


 「なんでって。そりゃま勿論、仲よさげだったじゃん」


 「いや、確かによく話はしていたけれども……」そう言うと工藤はクククと不気味に笑う。


 「ま、ナイフでサクッと後ろから刺されないようにだけ気をつけるといいよ。マウント猿からの些細なアドバイスだよ」


 「色々と怖いな」僕が言い返すと工藤は手を振ってどっかへ行ってしまった。どういうことなんだ?


 ♢♢♢


 「ということで、今日は陸上部全員で河川敷ランだそうです。5つ向こうの橋で折り返して、ここまで戻ってくる。ちょうど10キロ程です。今日はそれだけですが、各々マラソン大会に出たつもりでやれとのことです」


 桜木さんがそう言うとみんな「やってやんよ」だったり「マジかー」なり様々な反応をする。僕は正直短距離組だから、長距離組の工藤とかに勝つ自信はあまりない。とはいえ大会に出たつもりでやれと言われたのだ。やれるとこまでやる。そして、絶対に飛河を倒す。


 僕はギュッと手を握りしめた。


 「よーい、スタート」桜木さんがそう言うと、陸上部の18人は一斉に走り出した。10キロということもあり、みんな戦略は様々だ。まだ維持しているもの、最初からかなりスピードを出しているもの。ただし言えるのは、強いやつは決して最初から後ろの方にはいないのである。維持しているペースそのものが、早いからだ。そこまでになるには、正直人より練習をしなければならない。そう、僕然り、飛河然り……、工藤然り。



 折り返しの5キロ地点につくと、先頭グループには5人が固まっていた。長距離の工藤と同じく2年生の女子、若葉瞳美わかば ひとみ、そして僕、飛河。もう一人は須藤周一だった。意外だとは思わなかった。須藤はそれこそ人一倍練習するやつだから、これぐらいのペースならきっとついてくるだろうと読んでいた。


 そして7キロ程まで僕らは一つの塊のような感じで動いていた。しかしその中で急に速度をあげる人物が現れた。やっぱり、というべきだろうか。それは工藤だった。だが、僕も思った以上に行けそうだ。そんな工藤の速度に食らいついていく。工藤は微かに苦笑いする。


 飛河はそんな様子を見て、僕らを追いかけてきた。結局、3人が抜け出す形になり、そのままの流れで8キロ、9キロと進んでいく。


 行ける。僕は思った。いや、練習を続けたから、行けるようになった。短距離とはいえど、こう鍛えた肺活量と筋肉がある。推せる。


 僕は2人の前に出た。前を向く。そこにはゴール地点。


 桜木さんが立っていた。

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