アナザーサイド1 コンピューター教室にて
俺は音坂さんに自分の席を譲ると、ネトゲで偶然友達になった1年生の須藤周一と久々に会うことにした。ある意味オフ会みたいなものだ。
コンピューター教室に入ると、端っこのパソコンで周一はなにかしていた。
「や、久しぶり」近くに行ってそう声をかけると、周一は俺の方をみて「あ、ゴウキチ先輩、久しぶりです」と返してきた。因みにゴウキチとはゲームで使ってるユーザーネームのことだ。
周一はパソコンでエクセルで表のようなものを作っていた。
「何作ってるんだ?」
「フォースナイトの武器の性能や、実際にプレイしてみての対応なんかを纏めてるんです。アプデで調整されたりしたらその都度更新してデータにして、まあ自分用のガイド制作って奴ですかね」
「マメだなあ」俺は素直に感心する。フォースナイトとは3プレイヤーが1グループになって、協力し合いながら20グループ中の最後の生き残りになるまで戦うのFPSゲームだ。このフォースナイトプレイ中に、実はsyu-ichiというユーザーが同じ高校の後輩だということを知り、リア友となったというわけだ。
「それにしても今日は高崎先輩と遊ばなくて良かったんですか?」周一は訊ねてくる。周一は陸上部に所属している。リュウは周一の先輩ということだ。周一の評ではリュウは練習熱心で先輩の中では最も尊敬に値するという。友人としてもそんな風に思われておるのは嬉しい。
「いや、実はリュウに彼女ができたからさ。空気を呼んで撤退してきたというわけなんだけど」
そう言うと、周一は少し寂しそうな顔をした。
「ということは、やっぱり高崎先輩は音坂先輩と付き合ったってことですよね」
「ん、まあそうだけど。その口ぶりだと周一はリュウと音坂さんが仲いいっていうのは知ってたんだ」
「まあ、そうですね……」歯切れが悪くそう言う。それから、意を喫したように、周一は口を開いた。
「ゴウキチ先輩。実は俺にも好きな人がいるんです」
「え、そうなのか」突然、そんな告白をされる。「と言われてもなあ。俺恋愛相談は出来ないぞ。片思いしかしてこなかったような人種だからな」
「いや、いいんですよ。ちょっと聞いてほしいんです。まあ……、内密にしておいてもらいたいんですけど」
「ああ、まあそれは約束するけど」なんか切羽詰まってそうだな。聞くだけ聞いてあげるしか無い。
「実は、俺って好きな人がいるんです。まあ、俺のいつものキャラ的には見合わないような感じになってしまってるんすけど、物凄い陰キャな子なんです」
「陰キャね」確かに、周一は目上の人に対してはそこそこ礼儀良いが、基本的には奔放な言葉遣いをする男だ。意外と言えば意外だ。
「その子は実は陸上部のマネージャーをやっている、桜木姫華っていう子なんですけど。実はその姫華っていう子には好きな人がいるんですよ」
「なるほどね」それはちょっとつらい話ではある。
「それで、その姫華の好きな相手というのが、実は高崎先輩なんですよ」
「リュウかよ!!」何処にでも登場するな、この男!!
「ただ、姫華ってそういうのを素直に発せないタイプですし、ずーっとモジモジとしながら片思いをやってたんすよ。しかも高崎先輩も先輩で鈍感だから全然その好意に気が付かない。ただ、そんな状況だからといって、いや……。そんな状況だからこそ俺は姫華に告白する訳にはいかないんですよ」
「まあな。好きな子に別な好きな子がいるって状況だと難しいな」
「そうですよね。だから、俺はいつの間にか姫華に好きを伝えるという方向から、姫華の恋を応援してやろうと、そういう方向に気持ちが変わってしまったんですよね」
「即ち、リュウとその、姫華ちゃんって子が付き合えばOKって、そう考えてたのか」
周一は頷く。全く、どいつもこいつも揃いも揃ってお人好しすぎるな。お人好しな人は好きだが、限度というものがある。あまりにも自分に不都合なことを自分自身で良しと言い包めている様は、正直見ていて不快だ。
「けど結局、高崎先輩は音坂さんと付き合うことになった。俺は一体何をやってたんだろうなって思ったんです。しまいには、先輩に八つ当たりまでしてしまったんですよ」
「それはいけないなあ」リュウだって、まあ鈍感だったとはいえ、結果として両思いとなった音坂さんとしっかりと関係を結ぶことができた。それに、たとえ姫華ちゃんがリュウに告白を出来たとしても、それで付き合えたかなんて、もうわかりっこもないのだ。結局、恋愛なんて奪い合いなのである。
「そうっすよね。俺はもう高崎先輩や姫華に向ける顔なんてないですよ」しょげた顔で、パソコンを見つめながら彼は言った。俺は、そこで頭に来てしまった。
「syu-ichiって、そんなヘボいプレイヤーだったんだな」ぶっきらぼうに言う。
「え?」彼は驚いたように俺を見てくる。
「ネトゲはマナーが大切だろ。荒らしだとか、罵倒なんかはNG。プロゲーマーなんかは、そんな些細な事でクビになったりしている」
「まあ、そうですね」
「ならまずやることといえば、一つしか無いだろ?」
「……高崎先輩に謝る、ですか」
「勿論。それに、好きだって言うことを伝えるのは、どんな状況下で合ったとしても、決してマナー違反ではないはずだぜ。気持ちを伝えてるってだけだから。それができないのは、ただ単純に、振られるのが怖いってだけだろ」
「う……」周一は言葉を詰まらせる。素直だなあ。俺は自然と顔を緩める。
「それに、これからは周一の最大の敵が消えたわけだからな。もう、こうなったら姫華ちゃんの傷口を舐め回すくらいの勢いで行けよ」
「舐め回す……」その言葉を聞いて、周一は顔を赤らめる。
「本当に舐め回すなよ」
「しないっすよ!」周一は、笑顔を作ると突っ込んでてきた。
「まあ、今俺も周一と同じような状況に立たされているからな。互いに頑張ろうぜ!」そう言うと俺は、周一の方に腕を乗せた。
「同じ状況、ですか?」
「ああ。俺の好きだった同級生の女の子が好きだったのは、リュウだった、ていう状況」
周一は顔をしかめた。
「リュウ先輩って、いい人だからこそ本当に罪づくりっすよね……」
「それは間違いない」俺は強く頷いた。
「まあ、でもわかりました。ありがとうございます。俺はそう、姫華が好きなんだッ!!」そう言うと周一は勢い良くパソコンのキーボードをバゴンと手で叩いた。すると、キーボードはバキィっという音をたてて粉々になった。流石投擲選手。パワーは桁違いだな。
「恋煩いでキーボードクラッシャーになってしまった」粉々のキーボードを見て周一は呆然としていた。
「俺は知らないぞ、またな周一!!」俺は正直吹き出して笑いそうだったので、そう言うとせっせとコンピューター教室から撤退することにした。
「えー、流石にひどいっすよ。ゴウキチ先輩!!」その声を聞きながら、俺は廊下へ出た。まあ、つくづく頑張ってくれよ。
人のことは言えないけれど、物凄く、君は不器用なようだから。




