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 青野さんが僕らから離れて自分の席に戻っていくなり、豪樹は独り言のようにポツリと言った。


 「青野さんが、リュウを好きだったとは……」


 「いや、自分だって昨日知ったんだからな……」僕は正直に昨日あった出来事を喋る。


 「なるほどねえ」そう言うと豪樹は何故か笑みを浮かべた。


 「ど、どうしたんだよ」


 「いやいや、青野さんが好きだったのがリュウで良かったって、そんだけだよ」


 「どういうことだよ」僕は意味がわからなかったので訊ねる。


 「いや、そのまんま。見る目があって良かったって、それだけだよ。これがもし仮に田中の光介辺りだったら、俺青野さんのこと嫌いになってたかもしれない」


 「せめて田中の名は伏せてやれ」コイツもコイツでやけに素直なこと吐くことがあるからな。互いに気をつけねば。


 「と、いうか青野さんって音坂さんと繋がりあったんだな。と言うよりも、中学の頃にクズ男が出現したせいで擦れてしまっただけで、本当は仲良しなんかな?」


 「うん。多分そうだと思うよ。昨日本音で語り合えたお陰であっという間に仲直りできたっぽいし。音坂さん、根は陰キャ体質だからさ。ああいう青野さんのようなどっしりと構えたようなタイプが友達だと、結構安心できるんじゃないかな?」


 「ふうん。しかしなあ。音坂さんが陰キャ体質っていうのはあんま実感がわかないなあ」


 「まあ。僕に大しては結構グイグイ来てくれるんだけどもね……」僕がそう言うと豪樹はニヤニヤしながら口を開く。


 「浮かれまくってますねえ」


 「いや。別に……」僕は少し歯切れ悪く言うと、豪樹は不思議そうに訊ねてくる。


 「どうしたんだよ」


 「僕は音坂さんと物凄く仲良くなった。それこそ時場所問わずに会えたら嬉しいなあって思うくらいに」


 「おう」


 「音坂さんは、昨日を境に恐らく今まで以上に青野さんと親しく出来るようになると思うんだ」


 「ああ、それがどうしたんだよ」


 「いや……。それで僕はふと思ったんだよ。音坂さんは物凄く青野さんを大切に思っている。今まで、多少のすれ違いが会ったとしても」


 昨日、音坂さんは青野さんに『隙華ならわかってくれると思ってた』と発した場面があった。それは即ち、それだけ信用しているということだ。それに、結果論としては、その音坂さんの叫びをすべて含めて抱擁した青野さんは、結局音坂さんを受け入れたのだ。


 「それなのに僕は、豪樹のことを遊びとかに誘うこともしないで、一方的に仲良くしてもらっていたような感じでさ……僕って、なんなんだろうなって」


 僕がそう言うと、豪樹は少し驚いた顔をしたが、しばらくするとケラケラと笑い始めた。


 「リュウはアホだ」


 「直球だな!!」予想外の返答に思わずそう応える。


 「いや。ホントに。まあ、本音を言うともうちょっとリュウから遊びとかに誘ってくれても良いんじゃねえかとか思うこともあるよ。けど、いつも朝先に挨拶をくれるのは決まってリュウからだろ?」


 「ん、まあ確かに」


 「それって、友達意外にやるか、普通。一方的に俺がリュウと仲良くしてやってるって、それ本気で思ってんならお前流石に意識しなさすぎだぞ」


 「あ……」


 「それに、だ。リュウはいつ何時なんどきでも構わず構って来ることがない。……言うならば楽しいを強要してこない。これって俺にとっちゃ物凄く気が楽なんだよ」


 「そうなのか?」


 「そりゃ勿論さ。俺だって根は、ほら、お前と似たりよったりだからさ。なんつーか、卑屈になるようなことはやめろよ」そう言うと豪樹は僕の肩を叩いた。


 卑屈になるな、ね。やはり僕はもっと堂々と生きるべきなんだろう。


 ♢♢♢


 「リュウくん、おはよー!」


 教室に入ってくるなり、音坂さんは本当に堂々と僕の名前を呼んで僕の方へ駆けつけてきた。既に教室に来ていた人は、その様子を信じられないとでも言うような目線で見る。


 「お、おはよう」昨日、教室でも堂々としようと誓ったが、それでもやはり恥ずかしいものは恥ずかしい。少し目線を落とす。


 「んー、なんか素直な反応をしてくれないなあ。昨日はキスまでしたというのに」


 「あれはそっちからやってきたじゃないか!」思わず僕も大きめな声で反論した。するとクラスの中では恨めしそうな顔をするやつと、楽しそうに眺めてたり、ヒューヒュー言ってるやつがいたりした。こういうシチュエーション。マジで初めてです……。


 音坂さんは顔を赤らめると、その赤らみをごまかすように自分の手で頬をパンと叩いた。


 「ん、まあ。それは良いとして……私、音坂咲香は、高崎龍一と付き合うことになりました。よろしくー!!」


 大声で叫んだ。いや、確かに学校でも仲良くしようとは言ったですけどね、これはちょっと大胆すぎると思うよ。僕はチラリと青野さんを見る。すると彼女はニヤニヤと笑いながらあらかじめ書いてあったであろうメモ用紙を僕に向けた。


 『龍一くんはなんとか咲香のノリについていくこと。いいね?』と書かれていた。あー、これは共同作戦というやつだ……。

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