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 明くる日。僕が教室に入るとまだ生徒は数人しか来てなかった。しかし豪樹はいつものように既に前の席に着いていた。


 「おはよう」僕が言うと豪樹は僕の方を観ると困ったような顔をした。


 「ど、どうした」僕が驚いて言うと豪樹はため息をついた。


 「俺は昨日、ファンタジーアニメを観た」


 「あ、ああ……」


 「そのアニメには長髪の女の子が出てくるんだが、その子は何故か主人公を殺そうとしてくる」


 「あー」嫌な予感がするぜ。


 「結局その少女は、主人公の首根っこを捕まえて息の根を止めようとしてくる。しかし、そこでその少女は突然涙を流すんだ。少女は、ふと思い出す。そう!その少女はなんと死んだはずの姉だったのだ」


 「いや、『そう!』って言われても知らんのだけども」


 「だが、その少女がさ、物凄く可愛くてだな。涙を流しながらふと首元の手を解くと弟の胸に抱きついたんだ」


 「ん、おお!!」


 「だから俺って、こういう感動ものでも興奮できるんだって、新しい自分を見つけられた気がしてだな」


 「そうかそうか、それは良かった!」


 ホントに良かった。このままだったら、青野さんにだったら殺されても喜びそうだと内心ビクビクしていたのだ。そういうハッピーエンドで喜べるようになったなんて、なんだか子供の成長を見てきたような感じで、感慨深い。


 そんなことを言い合っていると、青野さんが教室に入ってきた。昨日の今日で少々居づらいが仕方がない。僕は平常心を保つ。


 「んでな、そのアニメに出てきた長髪の女の子ってのが、青野さんに似ているんだよ。いやー、ホントにめんこくってー」


 「ん、ああ……」どうやら豪樹は青野さんがやってきたことに気がついていないようだ。いつも以上に元気な声で喋っている……。そう思った瞬間、青野さんはこちらを振り向いた。


 「やっぱり聞こえるよねえ……」僕は思わず苦笑する。青野さんはこちらへゆっくりと歩いてくる。豪樹は流石に青野さんの存在を察したようで、言葉を発しなくなった。


 「ね、堺くん。今私の話題してた?」青野さんは首を横に傾ける。


 「あ、いやあ。へへへ……」豪樹は照れ隠しに下を向きながら笑う。待て待て、それはちょっと気味悪いぞ。


 「まあ、どうでもいいけど……。うん。私は、何事においても、素直な人が好きだな。勿論、倫理的な部分において、だけど」そう言うと青野さんは僕の方を観て、にやつきながら呟いた。


 「咲香から昨日の夜電話があってね。君たちの関係を全て(・・)聞いたから」


 「あ。成程ね……」音坂さん、僕らがムッツリだってことまでバラしたのか!流石にやりすぎでしょ……。しかし、内心良かったと思う。青野さんの表情を観ると、もうあまり心残りは無さそうだ……。


 いや、それはあまりにも都合の良い捉え方か。青野さんは昨日、僕に失恋したのだから。だが、青野さんはあまり気にしないように笑いながら豪樹に喋りかける。


 「ま、堺くんは知ってるかもしれないけど、咲香と高崎くん、付き合い始めたんだって。本当は仲良くしてるのすらを隠していようとしてたらしいんだけど、ひょんな事があってね。もうクラスでも堂々と一緒にいようって心に決めたらしいよ」


 「あ、そうなのか!」豪樹はフニャフニャした顔を一度引き締め直して、驚いたように言う。


 「でもそれでいいのか?逆恨みとかされないのか?」豪樹は本気で不安げに訊ねてくる。


 「そんなの気にして青春棒に振るほうがキツイ気がしたんだよ」


 僕が言うと豪樹は「ふーん。リュウらしいような、らしくないような」とやや釈然としないような反応を見せた。すると青野さんは首を横に振ると笑みを浮かべながら言う。


 「いいや。それは龍一くんらしいんだよ。だって龍一くんは素直さが売りなそうだから」


 「あー。それはそうかもな。たまにザクッと切り込んでくるリュウの姿はホントに遠慮の欠片も無いからな」そう言うと豪樹はケラケラと笑う。僕は今馬鹿にされている……のか?


 「うん。だから龍一くん。絶対咲香を浮気したりしないでね」そう言うと青野さんは笑った。


 「出来るような人間じゃ無いから安心してくれ」僕が言うと青野さんは笑みを少し崩すと、寂しそうな顔で頷いた。


 そんな様子をみて、豪樹は不思議そうな顔をする。


 「んと、リュウと青野さんって、なんか関わりあったんだっけ?」


 僕はなんて返答するか困り、口をつぐむ。すると青野さんは今度はイタズラっぽい笑顔で口を開く。


 「龍一くんは、私の初恋の人だったの」


 すると豪樹は目を見開いて、僕を見つめる。怖いよ。


 「でも、龍一くんは物凄く鈍感だから、気がつかなかったみたいでさ。まあ、でもこれからは咲香繋がりで今までよりも気兼ねなく喋れるようになったから、結果オーライということにしといてあげるよ」


 そういう青野さんの顔には曇り一つ無かった。昨日の今日で、音坂さんを恨んでいるとばかり思っていたから意外だった。


 「……仲直り、出来たんだ」


 「……ううん。違うよ」そう言うと、青野さんは満点の笑顔で言った。


 「素直な咲香が、帰ってきただけだよ」

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