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 「しかし遅刻男O氏からサッカー観戦を誘われるなんてね」地下鉄駅まで歩いていると、音坂さんが言ってきた。


 「遅刻男って名称辞めてあげなよ。あとさ、やっぱりこの……、付き合ってもないのにナチュラルに手を繋ぐのは辞めない?」


 「嫌なの?」


 「嫌じゃないけど……。周りから見たらもう僕たち恋人みたいな距離感だと思うんだけど」


 「まああれだよ。そういう視線にも慣れておかないと、君も私も」


 「……それならいっそもう付き合ったほうが気が楽なような……」思わず僕がそう言うと音坂さんは「えっ!」とやけに驚いたような反応をした。そこは恥ずかしくなるのかよ。わけわからない。


 「確かにそれはそうだけど。まだ仲良くなって3日くらいだし」


 「うん。いや、たとえの話だよ。たとえ」


 完全にテンパってる音坂さんをなだすように言うと音坂さんは「あ、たとえかー」と少しだけ寂しそうに呟いた。僕はそんな様子をみて、もしかしてこれはたとえじゃないほうがよかったのだろうか、と感じる。僕は一応、発破をかけるように言ってみる。


 「逆に、たとえじゃないとしたらどう思う?」


 「えっ!」音坂さんはビクリと体を震わす。今までとは違うなんか小動物のような反応に少しだけ笑みを零しそうになる。


 「いや……。さっき言ったとおり私はリュウくんのファンなわけでね。勿論、君のことは好きだよ」


 ナチュラルに好きという言葉をかけられて、僕は逆に反撃をされたようになり、胸をグッと押さえる。なんとか反撃をしなければと、僕も言いかえす。


 「ということは、たとえじゃなかったとしたら、素直に嬉しいということでいいの?」


 そう言うと音坂さんはコクリと頷いた。


 僕は音坂さんの顔を観る。冗談ではなさそうだった。僕が好きだという女性がいることに、全く実感が沸かないが、目の前にその事実がある。この状況に僕はパンクしかけている。僕はまた言葉を続ける


 「ただ、仲良くなってからはまだ日数もたってないよ」


 「でも、一目惚れっていうものがあるんだよ。そんな一目惚れの恋が一生続くことだってある。それに、私の場合は別に一目惚れの恋ではない。君を追いかけ続けた末の恋だから」


 そう言うと音坂さんは一度、息を吸った。そして、今度は僕に問いかけるように訊いてきた。


 「リュウくんは、私と付き合うってなるのはやだ?」


 なにかすがるような顔で言う。


 「やなわけが無いだろ」初めて僕を好きだと言ってくれた女の子。距離感が訳わからなかったり、下ネタが好きだったり。それでいて、僕にものすごく似ている人。しっかりと君と向き合えたのはつい最近だけど、それでも君のいいところはしっかりと捉えることができた。そんな音坂さんに好きだと言われた。僕は正直、今にでも空へ飛んでいきそうな気分なんだ。だから、僕は音坂さんの目を見据えて、素直な気持ちを吐出した。


 「僕も好きだよ」


 言ってしまった。すると音坂さんは緊張していた顔を緩めて、いつものようなイタズラっぽい笑顔を作った。ただ、その顔はいつもよりもオレンジ色で。


 ああ、たまに見せるその頬のオレンジの理由を、僕は知ったのである。


♢♢♢


 やはり付き合ったとはいっても僕らはなんだかんだで波長があい、気まずさも殆ど無く話し合いながら地下鉄に乗った。今日は音坂さんが東札幌まで地下鉄に乗ってついてきた。


 「わざわざここまで来なくても良かったのに」僕がそう言うと音坂さんはもう既に開き直ったのか、得意げに「付き合い初めが重要だって言うでしょ?」と言った。


 東札幌の改札を出ると音坂さんが訊いてきた。


 「まあ、この前の話の続きになるんだけどさ、実際及川からサッカー観戦を誘われたけど、リュウくんは嫌じゃないの?」


 「及川と行くのがか」


 「うん」心配そうに訊いてくる。


 「いや。僕がコンサのこと熱く言ったら、及川も楽しそうにしてたからさ。嫌じゃないよ。どのみち行こうか迷ってた試合だし」


 「あ、そうなんだ。それなら良かった」


 「ただ、音坂さんと付き合ってるだなんてバレたらどうなるかわかったもんじゃないな……」


 「そーだね。私と君の関係は愛人みたいなもんだからね」


 「それは全然違う」僕は言い切ると及川を思い返す。ちょっとした直感に近いのだが、案外及川って音坂さんが誰かと付き合うって事になっても意外にどうもならないような気がする。まあそれは置いといて、スクールカースト下部の自分は音坂さんとの関係をなんとしてでも隠密にしておかなければ。いつか浮いてしまう。


 「ただ、うん。いつか普通にクラスでこう。リュウくんの膝の上に乗っていちゃつけるくらいになればいいね」音坂さんは真面目なトーンで謎の夢を語る。


 「まあ、僕がもっとスクールカーストが良ければ良かったんだけども」僕がそう言うと音坂さんは突然、顔をムッとさせた。それから、グッと僕に近づくと、顔を寄せてきた。僕は抵抗するすべもないまま、気がつくと唇をくっつけ合っていた。


 一秒ほどして、僕は照れ隠しで後ろに跳ねると、音坂さんは笑う。


 「私さ、スクールカーストとかっていう言葉嫌い。だって私にとっては君が学校で一番に好きな人だし、なんか勝手に自分を下だと思いこんでいるのは情けないよ。まあただ……。スクールカースト上部だって自分で思っちゃってる(・・・・・・・)人はある一定居るからね。私、その人たちからは何故か崇拝されてるから、そいつらから身を守るためにはこう、隠さないといけないかもね。付き合ってるの」音坂さんはとても素直な気持ちをぶつけてくる。


 「ごめん……。ただ、さっきの話からすると、音坂さん的には……、いや僕もそうだけどさ。それは全く本意では無い」先ほど触れた唇の残像を息で吹き飛ばしながら、応える。


 「そゆこと。それに、もうぶっちゃけちゃうけどね」すると何故か音坂さんは少し唇を噛みながら喋る。


 「実はね。うちのクラスにリュウくんが好きだって言っている子が、私以外にも居るんだよ」


 「……え?」予想外の発言に戸惑う。クラスに1人、僕が好きな人がいるだけでも奇跡だと言うのに、もう一人いると言うのか?


 「だから。私としては。私の本音としては、リュウくんと付き合っているってこと、その子に見せつけたい。なんて、ズルいよね」音坂さんは照れたように笑う。正直、ちょっと脳がキャパオーバーだ。それに、改札前で完結するような話でも無さそうだ。僕は一度音坂さんの手を握った。


 「ごめんけど、今日もどっか外食して帰ろう。近くにご飯の食べれるカフェがあるんだ。そこ行こう」


 「うん。分かった」音坂さんはなにかやりきったような顔をした。


 僕は思った以上に、厄介な男なのかもしれない。

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