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 放課後、陸上の練習が終わると、僕は近所のコンビニに行く。今日は普通に外練だったので、音坂さんとの集合場所もある程度時間を置いてからのコンビニということにしていたのだ。


 コンビニに向かうと、外についてあるベンチに音坂さんは座っていた。一生懸命、クー◯ッシュを吸っていた。


 「おつかれ」僕は音坂さんに手を上げる。


 「ふぉ、おつかれ」音坂さんは不意をつかれたように返答した。とりあえず僕は音坂さんの隣に腰掛けた。


 「おー、リュウくん。今日は進んで隣に座ってくれたね」


 「座らなかったらめんどい事になるからね」僕が皮肉っぽく言うと音坂さんは笑みを浮かべる。


 「へえ、言うようになったじゃん」そう言うと音坂さんは意図的に体をグッと僕に寄せてくる。


 「だから、ちょっと近いんだってば……」今日は昨日とは打って変わって真夏日となり、もう暗くなってきているがまだ25度は下回っていない。9月の札幌は気温の上下がかなり激しい。関東でいうところの真冬のような気温まで下がったと思ったら、次の日には立ってるだけで汗ばむような気温になる。


 そんな感じで今日に至っては運動を終えても汗が引かないような陽気のため、近寄られると困るというか……、近寄ってもらいたくないというか……。


 そんなことを考えているうちに、音坂さんの脚が僕の脚にあたる。


 「おー、リュウくんの脚あっついね」


 「いや……、音坂さんの脚もかなりあったかい」これは昨日とはまた違うぞ。音坂さんの脚は熱を帯びていて、ほんのりと汗が滲んでいてこれはまた……。


 そんなふうに物思いに耽けていると突然、脚に冷たい感触が襲う。


 「ひゃっこ!!」僕は不意に叫んだ。音坂さんは飲んでたクー◯ッシュのパックを僕の脚に押し付けてきた。


 「ハハハ、大げさだなあ。そだ、このクー◯ッシュ、残りで良ければあげるよ」


 「……それは色々と問題だろ」僕が断ると音坂さんは意味ありげに息を吐く。


 「ふーん。童貞のくせに間接キスでもためらってしまうんだ。ていうことは即ちそれ以上いかないってことだから、これはもう一生駄目かもしれないねえ」にこやかに残酷なことを言ってきた。


 「クソ!そこまで言うなら貰ってやる!」僕は音坂さんからクー◯ッシュを奪い取ると、その飲み口に口をつけた。それから無心でいるがために思いっきりアイスを吸入した。


 「おお、そこまでがっつくかあ。嬉しいね」音坂さんは不意に茶化してきた。思わず僕は口を離す。


 「誘導しといて、それは酷い」僕はクー◯ッシュから口を離すと、それを音坂さんに返した。


 すると音坂さんは、残りのクー◯ッシュをまた自分の口につけて飲んだ。あまりにも抵抗がなかったのに、少々の悔しさを感じつつも、それ以上に自分の口づけを全く嫌がらない姿に感動した。


 「まあ、あれだよね。これからも私と仲良くするのならば、女性の耐性をつけていかないと。君は私のファン(・・・・・)になってくれたんだからね」音坂さんはクー◯ッシュを吸いながら言う。


 「改めてその発言聞かされると恥ずかしいな……。まあこの3日間でだいぶついた気がするけど」とにかく、今まではまともに話せる女子なんてそれこそ微妙に波長の合う桜木さんくらいのものだったからな。同学年の女子とこうやって並んで座っているなんて状況、先週まで想像もしてなかったものな。


 「まあでも、何度も言うようだけどさ。こうやって男女の青春らしい事するのは、私も初めてなんだよね」


 「そうなんだ。それじゃ、もしかして音坂さんも僕と同じくしょ……」処女と言いそうになって口を塞ぐ。流石にデリカシーがないか。いやでも音坂さんドーテードーテー言ってきてたしな。


 すると音坂さんは僕から少し視線を外す。


 「私は、処女じゃないよ」そう言うと少しなにかを含んだように笑った。


 「……そうなんだ」その様子から、彼女はあまりこの話題をしたくないという事を感じ取った。だから慎重に次の言葉を選ぼうとしていたら、音坂さんは不意に呟いた。


 「リュウくんは、なんでもイエスというような人間にはならないでね」


 「え?」僕が驚いて音坂さんを見ると、皮肉っぽく満面の笑みを浮かべた。


 「もしも私が嫌いなら、遠慮なく私を嫌いだと言ってほしい。それが大切だと思う」


 僕は察した。音坂さんはどこかで、そういう失敗をしてしまったんだろう。嫌いなものに、イエスと言ってしまった。思い出したくもない出来事があったんだろう。なら僕は、何としてでもそんな思い出に蓋をしてあげないと駄目なはずだ。それはきっと、楽しく意味のない思い出の積み重ねだ。


 「嫌いなら、わざわざ、コンビニ(ここに)来なかったよ」


 「無理に来たわけでもない?」


 「僕は音坂さんのファンになるって言ったんだから。嫌いな人のファンになるわけ無いだろ」言っててちょっと恥ずかしいがそう言い切った。


 「ありがとう……」音坂さんは不意に僕の手に手を重ねてきた。


 「ただ……」僕は口を開く。


 「ただ?」


 「あのね。ちょっと距離が近すぎる」


 「えー。それはやっぱり慣れないと。童貞がゆえ」


 「うん。あとそんなにポップに童貞って言わないで」僕が言うと、音坂さんはなんだか物凄く清楚な笑顔で言い放った。


 「童貞って、そんなに悪いことでは無いと思うよ。ま、童貞感っていうものはやはり消しといた方がモテると思うけどねえ」徐々に笑顔の質を変化させてくる。


 「だからその童貞感っていうのはなんなんだよ」


 「ビクビクしてちゃ駄目って事だよ」そう言うと音坂さんは満足したかのように椅子から立ち上がった。うん、それを童貞感って表現するのは、やはり酷い気がする。

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