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 僕は少年誌2冊にR18では無いエロチックな本を挟めると、意を決してレジへ向かった。高校2年生にもなって僕は一体何をやってんだろう。自問する。これだから童貞は……。


 そんなこんなでもうすぐレジというところで、僕は手に抱えてた本を滑り落としてしまった。あーあ。床にはドンと目立つ形で、「有名女優のヘアヌード大特集」と書かれた雑誌が転がった。死にたい。


 そんな事を思っていると突然横から手が伸びてきた。その手は散らばった雑誌たちを何食わぬ顔で広い集めると僕にぽんと渡した。


 「大丈夫?リュウくん」突然、自分の名前を呼ばれたので、驚いてその手の主の顔を見た。そこには、クラスの人気者、音坂咲香おとざか さきかがいた。白を基調とした、夏らしいデニムパンツのラフな格好だった。


 「音坂、さん?」


 僕はどう反応すればいいかのかわからず、固まっていると、音坂さんはフッと笑みをこぼした。そして天使のような顔でこう言った。


 「もしかして、リュウくんって、ムッツリ?」


 はは。涙が零れそうになる。いっそ誰か僕を殺してくれれば良いのに。そんな事を思っていると、音坂さんは突然僕の腕を取る。


 「え?」不意な出来事にドキッとして声を上げると、彼女は先程とは趣の違うイタズラっぽい笑顔で、こう言い切った。


 「二人でレジに行こうよ。そうすればまだ童貞感・・・は消せるかもしれないよ」


 「ど……」


 クラスにいる音坂さんのイメージとは、まるっきりかけ離れたような発言。僕はある種の意気消沈に陥り、音坂さんに導かれるままレジへ向かった。


 ♢♢♢


 「あのさ、音坂さん」


 本屋を出る。駅ビルの中でも、いつもはそこまで混み合うイメージのない通りではあるが、日曜の昼だけあって人通りが多い。そんな中、何故か僕の隣を歩く彼女に話しかける。


 「なに、リュウくん」


 「いや、あれ童貞感が消せたかはわからないけど、書店の人めちゃくちゃ怪訝な眼で見てたよ」


 「うーん。かもだね。けどそこは気にしない事が重要じゃないかな?第一、目的はリュウくんの童貞感・・・を消すことだったんだから。どのみち、君はエロい雑誌を買って少々店員からの視線に悩むことになっていたんだから、むしろ童貞感・・・というパロメーターを消せたという事を考えれば、お得だったと言えないかな」


 「何回童貞っていうんだ………」思わず下を向いて不機嫌なふうをする。


 「ごめん。確かにリュウくん、童貞だとは一言も言ってないものね」サラリとトゲのあることを言う。


 「いや。童貞だよ。だから何度も言わないでくれと言ってるんだ……」


 「ハハハ、そういうことかー」ケロッとした感じで笑う。コイツは悪魔なんか?


 「というか、なんで音坂さんはあの本屋にいたんだ?結局なにも買ってないみたいだけど」


 「んー、なんで、か?別に理由はないけどねえ。それこそリュウくんと同じだよ。私はムッツリで、隙あれば男のチンコでも載ってる本を買おうと企てているんだ」


 「チンコ……」ナチュラルに発言されたその衝撃に、僕は真顔になった。


 「おーい。リュウくん大丈夫?」固まったまま歩いてる僕の顔を、音坂さんはそう言いながら手でつねってきた。


 「ふわぁっ!」突然触れたその手に驚き、僕は思わず気色悪い声を出す。


 「ハハハ、間抜けな声が出た」そう言うと音坂さんは笑いながら僕の顔を見つめる。童貞には刺激の強すぎるイベント来た……。しかしこの際だ。思ったことを口に出してみよう。


 「いや、あの、音坂さん。……音坂さんって、そういうキャラだったっけ?」


 「そういうキャラだったっけ?って。そりゃこういうキャラじゃないですか。クラスではまあまあうるさくしてるし、ノリもこんなもんじゃないかな?まあリュウくんとの絡みってほぼ無いから知らないかもだけど」


 「確かに絡みは無いけど……。でも流石に、童貞だとかチンコだとか言ってる音坂さんは絡みのない自分でも想像ができないし、実際言ってないと思うんだけど」恐る恐る言うと音坂さんは「確かに」と言う。


 「うん。そのとおりだね。クラスでは童貞、チンコ、マンコだとかそういう発言はしないね。そういう意味ではキャラを偽ってると言えるかもね。でもね、それなら君も人の事言えないよね」


 「僕も?」訊き返すと、音坂さんは歩を止めた。それから突然、人差し指で僕の胸をツンとつついた。


 「エロい事大好きだけど、それを公には隠して生きている。ねえ、私とリュウくんは全く同じ人種だと思わない?」


 「ん、要するにムッツリだから同じだろってことか……」


 「そゆこと」納得したように笑う。


 「ふーん、そうか。けど間違いなく同じ人種ではないだろ。自分はクラスでも端っこの方でスマホゲーしてるような人種で、音坂さんはまあその、うるさい人種だし」


 「うるさい人種って括り方雑……」やや笑みを崩して引き気味に言う。「いや~、でも私とリュウくんってそういう観点でもそこまで違う人種だとは思えないんだよねえ。ほら、せっかくの土曜なのにひとりでぶらぶら買い物してたりとか」


 「せっかくの土曜日だから一人で買い物してるんだよ」正直に答えると今度は音坂さんは満足そうな顔をした。


 「そうそう。そういうところ、やっぱり私に似てると思うよ。友達が嫌いって訳じゃないけど、土曜日曜は一人で知り合いのいない場所をほっつき歩いてるのが楽しいなって。だからリュウくんもわざわざこの札幌市の中でも都心部ってとこじゃなくて、少し離れたこの新札幌駅まで来てんでしょ?」


 「凄い……、全くその通りだ」まるで心の声を代弁してくれたかのようで驚いた。


 「ということで、やっぱりリュウくんは私と似たもの同士ということでですね。もう、一人でほっつき歩くのも飽きて帰ろうかと思ってるところだと思うんですが、いかがですか?」


 「ん、確かにそのとおりだけど……」そう答えると音坂さんは喜々として応えた。


 「一人でほっつき歩くのは、一人の時間を奪われたくないから、っていうのはきっと君も私と同じ感覚だと思うから、ならさ。もう一人の時間が終わったってことなら、ちょっと一緒に遊びにでもいかない?」


 「えーと」


 思わず僕は音坂さんを見つめる。


 「い、いいよ」


 そういうと音坂さんはポンと手を叩いてありがとう、と言う。


 音坂さん。君って僕と「暇だなあ」って感覚に陥るタイミングまで同じなの!?


 一緒に遊びに行こうと女子から誘われたことよりも、そっちの方で衝撃を受けていた。




 ※新札幌駅とは、札幌中心部から10km少々離れた位置にある副都心『新札幌』にある駅。東京で言うと新宿駅と東京スカイツリー位の距離である。JR、地下鉄、バスターミナルが整備されていて、大概のチェーン店もあるが、札幌駅に比べると古い感じがするので『旧札幌』とネタにされることがしばしばある。

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