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門番

「ワァ……!!」


 燃え上がる太矢が、矮小の獣の鼻先をかすめ、地面に突き刺さる。

 ゴウゴウと火の粉を振りまきながら燃え上がるそれは、次の瞬間に破裂した。

 

「ワァ!」

「爆発した!」


 破裂した太矢は、大気を揺り動かし、熱い空気のハンマーとなってふたりの獣を叩きのめす。獣はその打撃を受けきるには、あまりにも矮小だった。

 たまらず城壁の上をコロコロと転がってしまう。


「イタッ……ッ!」


 白く、矮小な獣は胸壁まで追い詰められ、したたかに後頭部を打った。ハチワレも吹き飛ばされ、頭を打ったのか、耳と耳の間をさすっている。

 しかし、獣たちが吹き飛ばされたのは僥倖であった。彼らが吹き飛ばされた場所は、偶然にも3連バリスタの死角であったからだ。


「どうしよ……! これじゃあ前に進めないよ!」

「ウーン……」


 バリスタの太矢は、たまたま運よく外れただけだ。

 もし、このまま身を晒して前に進めば、いつかは串刺しにされる。


 遠間であるこの場はまだしも、壁に取り付こうとすれば、どんどんバリスタと近くなる。そうなれば危険はどんどん増していく。

 ハチワレはそう言っているのだ。


「ウ~~!」

「アッ、泣いちゃった」


 獣の目に、玉のような涙が浮かぶ。恐怖によるものか、友の前で無力さを見せた自身への苛立ちからか。それはようとして知れない。

 

「ウー……アッ!」

 

 そのとき、白く矮小な獣は、何かに気付いた。


「ン…! ン…!」

「えっ……アッ、そうか!」


 矮小な獣が、刺股の先で指し示したのは、城壁の一部、城壁の内側を歩くものが、矢玉を避けるために設けられた胸壁だ。


 しかし、その胸壁はひび割れ、かなり脆そうになっている。そしてその下には、別の通路が見える。胸壁を崩し、崩れた一部を伝っていけば、回り道できそうだ。


「これを壊すってコト?」

「……ウン!」

「やってみようか!」


 獣たちは、手に持った刺股をひび割れた胸壁の下部に差し込んで、テコの要領で持ち上げるようにした。すると、既にかなり脆くなっていた胸壁は、その力に耐えられず、傾いて壁の下に落ちた。


 ガラガラと石レンガが崩れる音がして、目の前に道ができる。

 獣たちはその矮小な足で、自身の膝よりも高い瓦礫の上を注意深く進んだ。


「フゥ、フゥ……!」

「頑張って!!」


 瓦礫をのり越えた獣たちは、城壁の下の通路に降り立った。ここにいれば、バリスタの太矢は城壁が邪魔になって届くことはない。


「行こう!」

「ウン!」


 息を切らしていた矮小な獣だったが、ハチワレの励ましで、だらしなく下げていた刺股を持ち直す。彼らは通路の先にある木の扉を目指し進む。


「開けてみよっか……」

「ウン……」


 黒金で補強された、分厚い木の扉をゆっくりと押し開ける。そして中に入ると、彼らの目に入ったのは何かの大きな機械だ。

 

 その機械は、大きな柱に4本の横棒がついていて、柱も棒も金属で補強されている。そして、柱の基部には、鎖が何条にもわたって巻き付けられている。


「なんだろうこれ?」

「ウーン?」


「巻き上げ機だよ。コイツで門を開けるんだ」


「エッ! 誰?!」

「ワワッ?!」


 まさか返事が返ってくると思わなかった獣たちは、驚き、狼狽えて騒ぎ出す。

 そんな彼らの様子を特に気にかける様子もなく、それは姿を表した。


 青く毛羽立った尻尾に、白い体躯を持つ獣。

 しかし、その顔はどことなく不機嫌そうで、眉間に険がある。


 獣の姿は、現実に存在する動物のモモンガに似ている。が、あくまでも似ているだけだ。実際、この獣を目にしたものは、「それ」としか言いようがないだろう。

 だが「それ」では獣たちの区別に困る。ここは便宜上、この獣のことをこれからモモンガと呼ぶことにしよう。


「この機械は門を開けられるってコト?」

「そーだよ。城壁を通ってったら生命がいくらあっても足りねぇ。わかるか」

「ウン……」

「おれさまはここで門を通りたいやつが居ないか、待ってたってワケ」

「じゃぁ、門番って……コトォ?」


 ハチワレのその言葉に、モモンガはほくそ笑んだ。

 その笑顔に、白く矮小な獣は、何か危ういものを感じた。

 それは感情の波浪となって、矮小な獣の心をかき乱した。


「わ……わ」

「なになに!?」


 モモンガは、唐突に泣き始めた白い獣を一瞥(いちべつ)すると、実に興味深そうな顔をするが、気を取り直して続ける。


「門を通れば安全に進める、開けてほしかったら――」

「ほしかったら……?」


 ゴクリと喉を鳴らすハチワレ。

 しかし、モモンガからの要求は意外なものだった。


「ほめろ」

「エッ?」

「ほーめーろ!」


 「()めろ」。モモンガの要求は実に奇妙だった。混乱するハチワレだったが、それだけで門を開いてくれるなら、損な取引ではない。

 現に、命からがらあのバリスタの砲撃から逃げ出してきたのだから。


 どこか釈然としないが、ハチワレは息を深く吸い込む。


「スゴイね!」

「お、もっとだ!」

「え~っと、もっとスゴイね!!」

「心がこもってない、もっと褒めろ」

「エッ……うーん、キミ、えらいね!」


「えらい、えらいか……そうだな、おれさまはえらいんだ」

「ウー……」

「ヨシ、やってやる」


 部屋の中心にそびえる柱。それに生えている何本かある横棒に、モモンガは取り付く。そして、頭を振って、「お前たちもやれ」と指図した。


 獣たちが全員で柱の横棒を押すと、柱がまわり、それに伴って金属のジャラジャラという音が何処かから聞こえてくる。そしてガタガタと歯車の音がなり、重々しい金属同士のこすれ合う騒音が耳に入った。


 どれくらいそうしていただろう?押している棒の抵抗がなくなった頃には、その獣たちも、息が絶え絶えになっていた。


「ハァ……! ハァ……!」

「あーしんど。お前らは先にいけ。おれさまは休んでから行く」

「え、キミは門番でしょ? ここに居なきゃダメじゃない?」

「いつ門番なんておれさまが言った? お前が思いこんでただけだ」

「じゃあ、一緒に押してくれるのを、待ってたってコト?」

「頭がいいだろ、ほめろ」

「うーん……」


 白く矮小な獣は息を整えると、刺股を手に取る。

 そしてモモンガを相手するハチワレの背中を押した。

 それは「もう行こう」と、言っているようだった。


「うん、そうだね、行こう!」


 二人の獣は、門の近くにあった巻き上げ機のある塔を後にした。

 すると、それを見届けていたモモンガは、その額の険をほどき、邪悪に笑った。


「ま、せいぜい頑張ってくれよな」


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