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第十話

「お兄さん、僕、もう抜けようかな、って思うんです」

「なにが?」

 昼食時間のことだ。クマから呼び出しを受けたので巡回ついでに特別教室棟へやってきたのだった。相変わらず人気はなく、せいぜい俺とクマくらいしかここには居なかった。俺たちは、初めてクマと会った場所で話していた。

「そうですね、抜けるっていう言葉はすこし違うかもしれませんね……。お兄さんのいうヒロインたちをデレさせる、というものへの協力をやめたい、というか、もう引き時かなって思っています」

「は? なんでだよ」

 俺は弁当を食べながらクマに反論する。

「だって僕の協力、もうお兄さんには必要ないじゃないですか」

「いや……」

 そんなことはないと言おうとして言葉に詰まる。最近はどうだっただろう。最初、ヒロインたちの情報収集や乙葉つむぎに関する情報を得るとき、クマの存在は大変大きかった。その後もそう。乙葉に関わろうとあれやこれやをしているとき、俺と入華だけでは、上手くいかなかっただろう。

 しかし、いまは?

 乙葉と関わりが生まれ、ラインでのやりとりも日常的になり、友人程度の付き合いにはなっている。軌道に乗ったと表現していい。

 そこに思い至り、弁当のねっとりとした米粒から視線を上げクマと目を合わせる。クマはどこか寂しそうな表情をしていた。

「最初は僕たちで手探りでやっていましたけど、もうその段階は過ぎました。乙葉つむぎさんをデレさせるのは時間の問題ですし、なにより乙葉さんの親友である七瀬玲奈さんが協力してくれることになったそうじゃないですか」

 そこで言葉を区切ると、クマは作り笑いをする。

「あとは、大丈夫そうですね」

「お前が勝手に決めるなよ。七瀬もまぁまぁなやつだぞ。ていうかそもそもまだ乙葉の攻略終わってないし」

「僕が勝手に決めます。僕が勝手にお兄さんに協力してただけなので」

 いうほど勝手にやっていただろうか。

「それに僕、お兄さんがすごく寛容だっただけで、いろいろとご迷惑かけていましたし。順調なお兄さんの邪魔はしたくないなと」

「は? なんでいまさら」

 迷惑行為というか犯罪行為なわけだが、それが迷惑だったとは一言だって言っていない。俺だけじゃない、あんなにいつもクマから距離をとっている入華もそうだ。きもいし変だけど、そんなクマを受け入れている。

「それじゃ私、クラスに戻ってお弁当食べなくちゃなので、失礼します」

 ひょいと頭を下げて、顔をこちらに向けずに立ち去るクマ。

「いや、おい!」

 呼び止めようとして、どうしてそうしたのか考え、止まってしまう。クマの言う通り、俺も自覚しているように、いま現在、ヒロインの攻略にクマの力は大して必要ない。いままさに立ち去ってく彼女を呼び止める言葉がないのだ。

 そして、クマが最後に自分のことを「私」と言っていたのが、気にかかる。それはまるで、俺たちの関係が終わりだという訴えにも取れた。

 その日から、うちに帰ってもクマがいることはなく、入華の持っているぬいぐるみが喋りだすこともなく、クマから電話もメッセージもなく、まるで煙のようにクマは俺の生活から居なくなってしまった。


 リビングで勉強と名のついた不愉快な作業をこなしていると、ソファを占領していた入華が話しかけてくる。

「お兄ちゃん最近クマとなんかあった?」

「逆になにも無さすぎるけど」

 どうしてだ? と入華に問い返す。

「いや、最近ぜんぜんストーカーされてないんだよね」

「いいことだろ」

「なんか、ラインも来ないし、学校でもあんまり見かけなくなっちゃった」

 俺と同じだ。学校でたまに遠目から見つけて笑いかけてくることが度々あったが、いまはクマを学校で見かけることがなくなった。

「あいつ学校休んではないよな、たぶん」

「たぶん」

「たぶんって……お前隣のクラスだろ」

「なに⁉︎ 隣のクラスって関わることないからね? 体育もクマのクラスは別だし!」

 一年生の教室がある区域に出入りできない俺と違い、入華は好きに行動できるだろう。クマの様子が気になるなら教室を覗くくらいのことはあるはず。まぁ、入華はそれができないからこう言っているのだろう。

 入華では様子見すら満足に出来なさそうなので七瀬にラインし様子を見てもらうことにした。乙葉はなにかを頼んでも満足に遂行してくれる類の人間ではないので論外だ。

 次の日の放課後。スーパーで食品を買い歩いて帰宅していたときに七瀬からラインがあった。七瀬によればクマはふつうに登校してきているようだ。しかし、どうも入華の動きを先回りして避けているように見えたという。

「…………GPSか?」

 あいつは俺たちの自室を盗聴しているし、なぜかラインのやりとりすら知っていたりする。そして俺と入華のスマホになにかしらのアプリを入れ位置情報を随時確認していたはずだ。もちろん俺と入華の時間割も把握しているし、活動範囲も知り尽くしている。

 避けられている、と思われる。

 避ける理由はなんだろう。乙葉の攻略に当たって、クマほどの可愛い女子が俺の周りをうろついているのはリスクではあるが、そんなものはいまさらだ。初めて乙葉と会話したときには俺とクマと一緒だったわけで、いまになって関係がないように装うとかえって不自然。俺の活動に影響を及ばさないようにする配慮とも取れるが、俺のみならず入華と疎遠になる理由がわからない。

 クマは電話にも出ないし、ラインも応答がない。

 しかしクマの言う通り、乙葉との関係は時間とともに深まっていた。

 ◇

 ああ、そうだ、やっぱりそうだ。

 高橋入華は確信を得た。

 ずっと覚えていた既視感。頭の隅で灰色の霧のように現れてはすぐ消え失せ、実体にたどり着けなかった記憶。

 入華は、あの女子はほんとうにどこにも問題がないのだろうかと疑いを捨てきれず、兄の輝倫が仲を深めれば深めるほど不安を覚えていた。

 そして疑いはいま、確信となった。思えばどこか似ていた。むしろ納得と言っていい。

 入華は開いていた漫画を閉じた。


 乙葉と家庭科室に来ていた。乙葉、七瀬、入華たちのクラスの担任が家庭科の教師のため、クラスの生徒に言われれば快く下校時刻でも教室を開けてくれるそうだ。七瀬はそんな担任教師の好意で針先を熱して俺を刺そうとしていたのかと思うと怖くなる。

 俺と乙葉は放課後の家庭科室で夏月の件について話していた。

「ねぇ高橋、もう一回風邪ひいてみない?」

「もう一回もなにも俺風邪ひかなかったしな」

「なんであれで風邪ひかなかったの⁉︎」

「なんでって、お前より免疫力が優れてるからだよ。乙葉お前運動したほうがいいよ。って運動できなかったな笑」

「イッラ〜……。なんで自分のこと棚に上げてそんなふうに言えるのかな? なんでわたしが風邪ひいたかわかる⁉︎ バカじゃないからだよ! 高橋はバカだから風邪ひかなかったんだよ⁉︎」

「いつまで小学生みてぇなこと言ってんだよ」

「イッラー!」

 乙葉は怒った犬みたいな顔でガンを飛ばしてくるが迫力がない。教科書の薄い背表紙で叩いても勝てそうな威圧だ。

「なんでそんな夏月に看病させたいんだよ」

「やっぱりいつも強気な男子が弱ってるところってすごくいいから!」

「それお前の趣味だろ」

「……違うよ! みんなそうだから! だからお願い! お願い!」

「でも前ダメだったろ」

「次は氷風呂に塩とかかけてみようかなって思ってる!」

「死ぬよね?」

「じゃあさ、まず私が風邪ひくから、風邪ひいた私が隣にいる状態でまたあれやろうよ! そしたら絶対うつるよね⁉︎」

「お前どんだけ俺のこと風邪にしたいんだよ」

 そんなふうに夏月にどうアプローチをかけるかを話していた。そんな折りに、ガラッと家庭科室の引き戸が開かれた。

「お、入華」

「あ! 入華ちゃん⁉︎ どうしたの?」

 なぜ入華がここに来たのかと言えば、今朝入華に「乙葉さんとのふたりっきりのときにラインして」と言われたので、さっきラインしたのだ。まさか来るとは思わなかったが。

 入華は入り口で立ち止まりしばらく俺たちを眺めた後、一度大きく息を吸ってこちらにゆっくり近づいてきた。

「なんだ?」

 俺たちの座っているテーブルまできた入華に声をかけるが、俺を一瞥するばかりで返事はなかった。入華は乙葉の方を向いている。不思議なことにあの入華が乙葉の方に用があるのだろう。

「……あの、乙葉さん」

「なになに?」

「………………」

「なに⁉︎」

 入華は口を少し開いたまま目を閉じてしまった。いつものやつが出てしまったようだ。助け舟を出すか迷ったがやめておく。入華が自身で起こしたアクションなのだから、見守るべきだろう。

「……あのね」

「うんっ」

 乙葉は天性の愛嬌がある。ニコニコとしながら急かすでもなく入華の言葉を待っていた。

「……乙葉さん……乙葉さんは………………小湊ひまわりの真似をしてるんだよね?」

「………………」

 生気のあった乙葉の顔が途端に機械的になる。表情を作る前提の感情が一瞬で抜け落ちてしまったかのようだった。

「なんだその小湊ひまわりって」

 俺の質問を受けた入華が俺の方へ漫画を差し出す。見覚えがある。ヒマワリカバリーという少女漫画だった。俺の母親世代の漫画で、乙葉の部屋にも置いてあったものだ。俺は読んだことがないので、それをぱらぱらっとめくる。主人公の女の子の名前が小湊ひまわりだった。そして、それ以上に目についたのが彼女の持ち物。主人公の小湊ひまわりが大切にしているそれは母親の形見の宝くじ。

 主人公小湊ひまわりの振る舞い、言動。

 明るく、おバカで、失礼で、愛嬌がある。

 似ているなんてもんじゃない。たしかに違いはあるが、これは、「そのもの」だ。なんだ、これは。

「乙葉さん」

 乙葉はゆっくりと視線をテーブルに落とす。なにかを必死に考えているのか、あるいはなにも考えられなくなっているのか、俺では判別がつかなかった。

「ちょっと待ってて!」

 どうするのかと動向を見守っていると、乙葉はそう言って立ち上がり家庭科室を後にした。

「……そんな切り抜け方ある?」

 呆然と入華がつぶやく。と、すぐに乙葉は戻ってきた。すたすたと歩いてきて元の席に座るとふたたび「ちょっと待ってて!」と言い、それから目を閉じた。

「え?」

 思わずそんな声がこぼれた。ただでさえ混乱しているのに、乙葉がよくわからない行動をとるので俺もどうすればいいのかわからなくなる。入華の方もどうしたものか……と迷った末に俺の隣の椅子に座った。待つこと一分ほど。七瀬が家庭科室にやってきた。

「えーっと、どういう状況なのかな……」

 七瀬は特に入華のことを気にしながら乙葉の隣に着席する。

「あの玲奈、あのー、入華ちゃんがヒマワリカバリー呼んでました」

「うわ」

「それでいま目の前でヒマリカのコミックスを高橋に渡して読まれちゃいました」

「あ〜……そういうこと」

 七瀬の受け答えを見るに、彼女は全容を把握していると思われる。七瀬は納得を表すように小さくこくこくと頷く。そして俺たちの方を見据え、言った。

「高橋先輩、どういうわけか説明するとですね、つむぎはそのヒマワリカバリーの漫画の主人公と主人公を取り巻く逆ハーレムに憧れていて、高校でそれを再現しようとしてるんです。なので、高橋先輩に積極的に関わってたのはつむぎの逆ハーレムの一員にしようとしていたからです」

「はい、そうです」

「…………お……お…………」

 簡潔な七瀬の説明に続き、乙葉がその内容を肯定した。そして俺と入華は同時に、

『お前もかい‼︎』

 と絶叫していた。


「……って感じで、高橋先輩の方は可愛い女の子を一方的にヒロインと決めつけてヒロインなのにデレないのはおかしい! っていう超理論でヒロインのひとりのつむぎを攻略? というかデレさせにかかってたってこと」

「お前もかい‼︎」

 七瀬のわかりやすい説明を受けた乙葉はそう絶叫した。

「えええっ⁉︎ そんな、ええ⁉︎ ある⁉︎ うわぁぁああ……! えっ⁉︎」

 乙葉はそうわちゃわちゃ騒ぎながら床に這いつくばる。混乱に身を任せては急に冷静になるを繰り返し、そういうのを見せられた俺と入華は逆に落ち着きを得ることができた。そして躁状態の乙葉が立ち上がってテーブルの向かいから身を乗り出してくる。

「え、じゃあじゃあじゃあ、高橋は誰モデルにしてるの! 私の小湊ひまわりみゃんみたいな」

 みゃんってなんだよ。

「いないけど」

「えっ⁉︎ どゆこと⁉︎ オリジナルでそれしてるの⁉︎」

「まぁ……そうだな」

「え! こわ‼︎」

「そうだけど……逆にお前の方こそなんかの真似してんのって感じだけど。自分から出たものじゃないならそれ〝偽物〟だろ」

「いやこわいこわい! ちょ、一人目からとんでもない人引いちゃったよ玲奈! え⁉︎ そういえば玲奈知ってたの⁉︎」

「うん。私的にはつむぎに変なことあんまりしてほしくないからね。高橋先輩の攻略で躓いたらこの奇行やめるかなって思って」

「な゛に゛そ゛れ゛〜〜〜〜〜〜! もぉ〜〜〜〜!」

 こいつうるさすぎるだろ。

 俺も入華も完全に毒気が抜かれてしまい、兄妹揃って淡々と乙葉つむぎという動物を眺めていた。

「じゃあ高橋もわたしみたいに演技で成績落としてたってこと?」

「お兄ちゃんは中学の時からずっと成績悪いよ」

「え? ほん……え?」

「は? ちょっと待てよ、乙葉お前赤点ギリギリとかの人間だろ?」

 いまの話を聞いていると乙葉はまるで自分で点数、もとい成績をコントロールしているかのような言い草だ。

「高橋先輩と違ってつむぎはふつうに好成績ですよ。平均だと私より成績いいですし」

「こっっっっっわっ! なんで⁉︎」

「小湊ひまわりみゃんがおバカさんだからだよ! だからギリギリまで成績落としてるの!」

 だからみゃんってなんだよ。

「いやっお前の方がかなりこえぇよ。そんなんで自ら成績落とすな! ……体力ないのも演技か?」

「そうだよ。わたし平均くらいはあるから」

 いままでのあらゆるものが「そう」だったとするなら、ゾッとする。

「なんなんだよこのモンスター……」

「わたしの感想なんだけど⁉︎」

「あの乙葉さん、すこし気になったんだけど」

 と、入華がハイテンションモンスターと化した乙葉に声をかけた。

「なに⁉︎」

「乙葉さんって……小湊ひまわりっぽくないところ結構あるけど、あれは……なんで?」

 彼女らのいう少女漫画を俺は知らないのでわからないが、主人公の女の子と乙葉とではなにやら違いがあるようだ。現実世界で好きなキャラクターになりきるというのは困難なことだろうから、齟齬があるのだ。

「あー……小学生くらいのときはわたしもっとひまわりにゃんに激似だったんだよ。勉強も運動もできなかったし、見た目もそっくりだったんだけど、中学くらいからそんなことなくなっちゃって……それでわたしの、乙葉つむぎのアイデンティティと小湊ひまわりにゃんへの憧れがせめぎ合って…………わたしの方が勝っちゃったんだ……」

「そんじゃお前、ただ漫画のキャラから要素パクっただけでほとんど自分じゃねえかよ!」

「ひまわりみゃん四割はある!」

「過半数下回ってるだろ!」

 そんなふうにしばらく口論をしていたが、お互いになにか言ったところで仕方がないことを悟り始め、徐々に落ち着いてきた。俺と乙葉はぐでっと力なく座りテーブルに突っ伏しているのに対し、七瀬と入華はなんともいえない顔で俺たちのことを見下ろしていた。

「そういえば高橋、佐藤さんは? 佐藤色音ちゃん。一人目のヒロインってこと? 仲間になってるし」

 とクマのことを訊ねてきた乙葉。

「仲間ってなんだよ。倒したら味方なるタイプのゲームじゃないぞ。一人目のヒロインは乙葉だよ。佐藤色音は……まぁ入華繋がりで手伝ってもらってただけ」

「手伝いだけ……?」

 顔を顰める乙葉。姿勢を正すと乙葉は目を閉じ考え込む。

「ちなみにいまよくわかんないけど機嫌悪くなって俺と入華のこと避けてる」

「……心当たりは?」

「乙葉さんの攻略順調だからもう僕の手助け要りませんよね、みたいなこと言ってたわ」

「私それ聞いてないんだけど⁉︎」

 隣に座る入華が詰め寄ってきた。本当にただ言い忘れていただけだ。

「あー………………。高橋は佐藤さんと仲直りしたい?」

「仲直りもなにも喧嘩してないし夏月みたいに嫌われてないぞ?」

「……」

「……」

 乙葉と七瀬が沈黙する。おかしなことを言っただろうか。もしかして俺クマに嫌われているのか?

「ねぇ高橋、わたしのヒマワリカバリーみたいな逆ハー作るのに協力して。その代わりに高橋のそのまわりのヒロインたちをデレさせるっていうの、わたしと玲奈も協力してあげるよ」

「……まぁ助かるけどもう夏月ので手伝ってもらってるしな」

「高橋もわたしと同じようにしてたならわかるよね。夏月さんはわたしたちが関わりを深めるための口実だよ。手を抜いてたわけじゃないけど、わたしたちは夏月さんを優先してたわけじゃない」

「そうだな……」

 そもそも夏月は優先しているヒロインでもなかった。乙葉との接点になるがために乙葉に関係修復などと依頼したのだ。

「それで……佐藤さん。佐藤さんもたぶん同じだったんだね」

「同じ……?」

「高橋がヒロインたちをデレさせるっていうのを利用して、それを手伝うのを口実に関わってきたんだよ」

「……目的は? そもそもあいつは入華が好きなんだぞ?」

「…………まぁ高橋が直接聞けば全部話してくれるよ。こんなふうに強引に行動起こしたんだから、相当溜まってるんだろうしね」

「直接話すっつっても、あいつ俺と入華のスマホにGPSのアプリかなんか入れてるせいで常時どこいるか見て避けてるみたいだし、俺んちはたぶん盗聴されてる。ラインのやり取りもバレてるからかなり難しいぞ」

「え、なんでそんなガチガチのストーカーみたいな……」

「あいつストーカーだからな」

「え、佐藤さんが?」

「佐藤さんそんなキャラじゃないじゃなくないですか?」

 乙葉と七瀬は信じがたいという態度を見せるが事実なのだこれが。

「……まぁそこはいいかな。うん。よし、高橋、明日仕掛けるよ」

「いいけど……あいつ捕まえられるか?」

「うん。案外簡単だと思う。情報を集めまくってる人って情報に溺れるから」

 乙葉、今日は冴えている。いや、本来の乙葉がこうなのだろう。いままで見てきた乙葉がまるきり嘘なんてことはないのだろうが。実際、逆ハーレムを作ろうなどとバカことを企てているのだから。

「それじゃ明日! 本物の一人目のヒロインの攻略、して行くよ!」

 一瞬にしてこの場の主導権を握った乙葉が号令をかける。

「それヒマワリカバリーの一宮くん編のセリフの改変だよね?」

「入華ちゃん、わたしが気持ちよくさりげなく日常会話にひまわりにゃんのセリフ改変入れられたんだから水ささないでね? 今後もそんなふうにしてたら入華ちゃんずっとぼっちのままだよ」

「…………」

 入華は気づいたことを指摘せずにはいられないオタクなので、入華の発言で場が微妙になることは多々ある。しかし相手にこう直接批判されるのは初めてのことなのだろう、か細い悲鳴をあげ、綺麗な顔を悲痛に歪める入華。可愛い……。

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