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42冊目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



 トレーニングの最後のストレッチをしながら、ハルはロゼッタに小さな声で相談した。ハルの部屋の収納から出てきた赤子の頃の服を、トラ様使用に出来ないか。


 「それ、作らせて」と、ロゼッタは興奮した。猫の服など初めてだが、ぜひ着た姿を見てみたい。何よりハルの頼みだ。


「ただ作るだけではダメね。もしも着たまま人間に戻ってしまったらどうなると思う?」

「服が破ける以前に、危ないです」


 うっかり首が締まったりしたら、とんでもない事になる。


「伸縮出来るようにするわ」

「あの少しデザインの提案を‥‥‥」



 コソコソと楽しそうに話す女性たちから少し離れたところで、男二人もヒソヒソと神妙な顔で話をしていた。


「参ったな。間違いない?」


 焦って聞き返したロンドに、ジュードは頷いた。


 ハルは昨夜、開いた後で一度閉じてから再び開くと読めるようになる、ユーゴの日記の仕掛けをジュードに見せた。



『机の引き出しと同じ考えです』



 ハルは間違いなくそう言ったのだ。ハルと二人だけの秘密にしたので、ロンドには日記については話せないが、あの引き出しを知っていたことは伝えておこうと思った。


「ただ、本のことは一言も。読んでいないか、たまたま本が入っていなかったか‥‥‥もしくは」

「全てを知っているか‥‥‥だね」


 ロンドとユーゴが若い頃に隠れて読んでいた、男女の夜の指南書。二十年引き出しに眠っていたと思っていたが、ハルは引き出しの仕掛けを知っていた。


「「はあぁぁ‥‥‥」」


 二人は溜息を吐くが、もう今更どうにもならない。「見た?」などと聞けないし、知らなかったら「何を?」となり、説明しなければならなくなる。


「いっそ放置しておけば良かったかな。引き出しに戻すか?」

「嫌だ」

 

 ジュードは渋い顔をして首を横に振った。やっとロンドに引き取ってもらってホッとしたのに、また戻すなんて。

 

「それなら‥‥‥黙って様子をみよう。全く、ユーゴのやつがあのまま残したりするから。ジュードくんは何も悪くないんだから、気にしなくていい」

「‥‥‥うぅ」


 そう言われても、あの引き出しを一生気にして生きてしまいそうだ。


 ヒソヒソ話はここまでとばかりに、ロンドが加重石に魔力を少しずつ入れて重さの調整を始めた。


「これは一日経つと戻るところがいいね」

「ん?ああ、その日の気分や体調に合わせられるからな。昨日は少し重すぎたか?」

「筋肉痛になったのは久し振りだったよ。ロゼッタの気持ちがわかった」


 苦笑いのロンドに、ジュードも釣られて笑った。ロンドが気遣ってくれたのがわかった。


 今までの冒険者としての生活とかけ離れて過ごす、この毎日も楽しい。この穏やかな時間は、通常通りに冒険者として戻った時に、どう変化するだろう。

 ハルに出会うまで、これほど強く願ったことがなかった『生きたい』という気持ち。愛する人と帰る場所が出来たことで、芽生えたのは確かだ。


 毎日は帰れなくても、必ずここに。ハルが待つ古書店に。

 

「ジュードくん」


 ハッと顔を上げると、ハルもロゼッタもジュードを見ていた。


「今日はここまでにしよう。コーヒーを入れるから、マグカップをくれないか?」

「あ、ああ、頼む。いつもありがとう、ロンドさん」

「はは、どういたしまして」


 ハルの瞳と同じ色のマグカップを二つ、ロンドに手渡した。




 本体から離れてしまっている表紙を広げて、全体を丁寧に修理魔法をかけていくハルを、目の前の会計カウンターに上ったトラ様が座って見ている。

 今日は魔力回復薬は飲まない日なので、疲れるほど魔力は使わせないようにしたい。ある程度で止められるように、トラ様はハルのすぐ近くで待機した。


「‥‥‥終わりました」

「早いな」


 擦れて傷だらけで焼けて色褪せた猫の書が、濃紺の表紙に艶が出て、重厚感のある高そうな魔法書になった。元々はこの色だったのかと驚くほどの変わりようだ。


「最後にこれを本体と合わせるんだな?」

「そうです、それで完成です」

「‥‥‥何か起こると思うか?」

「どうでしょう。魔力は思ったほど減らなかったです。結果的に、中身の方が魔力を使うことがわかりましたね」


 明日は【月長石(ムーンストーン)】へ行く日だ。修理が終われば完全な猫の書をルーク・ブレイクに見せることが可能だし、借りているバングルも返すことができる。身体に何か大きな変化が起こらなければだが。


「どうしましょう、これ以上はやめておきますか?」

「んー、悩むところだな‥‥‥」

「あ、でしたら、すぐ終わると思いますから、ルーク様の前で完成させますか?」

「‥‥‥それはつまり、ルークの前でこの姿になれと?」

「‥‥‥」 

「‥‥‥」


 ジュードは、笑いながら自分を撫でまわすルークを想像した。ハルは、美しいルークが可愛いトラ様を膝にのせる神々しい姿を想像した。


「‥‥‥‥‥‥あ、開店時間ですね」

「この件は後で話し合おう」


 何だか、もうコーヒーが飲みたくなった。マグカップに入れてもらったコーヒーは先程飲んでしまったし、ハルの灰色のマグカップの分は三時のアイスクリームの時間に残したい。

 トラ様が溜息を吐いた。そんな姿も可愛いくて、ハルはトラ様の頭を撫でて額にキスをした。


「ハル、人間に戻ってからの方が嬉しいのだが?」

「い、今は、トラ様にしたかったのです」

「‥‥‥それなら、仕方がないな」


 猫の書の表紙を本体と合わせて閉じると、トラ様からジュードに戻った。いつも通りに濃紺のローブを脱ぐが、少し機嫌が良さそうだった。


「ジュード様、雑貨店でコーヒーを飲みに行ってもいいですよ?それに天気も良いですから、気分転換に外出してみては?」

「ん、そうだな‥‥‥そうさせてもらうか」


 コーヒーが飲みたいと思っていたのは、ハルにはお見通しだったようだ。遠慮なく出掛けることにして、ついでに付近を見回るのもいいかもしれない。


「私は店の本棚を少し整理しようと思います」

「大変そうだな。それなら、何か昼食を買ってくる」

「それは、とても助かります」


 昼食の準備をしなくて良いなら集中できそうだ。ハルは窓のカーテンと店の扉を開けた。そのままジュードが外へ出る。


「もし、誰か来ても」

「外へは出ません」


 ジュードは「よし」と笑って、隣の雑貨店へ行った。



 ハルは今日、ワークシャツとパンツの動きやすい服装だ。生成りのエプロンをして、本棚から一冊ずつ取り出し、今後店に置かない本を一時的に一番下の収納棚に入れた。今まで誰も手に取っていない本なら大体わかっていた。

 入れ替えで、収納棚にあった料理や裁縫の一般的な本を取り出す。これならフレイヤも手に取りやすいはずだ。店の本棚はハルの背ほどしかないので、上から一段目と二段目に読みやすい本を並べた。

 古書の棚はレジナルドに相談したい。もう一通り見ているはずだ。


 ハルはこの店を変えたいと思っていた。トラ様を見に来て窓から覗くあの母子のような人たちが、入りやすいような場所にしたいのだ。


「今は私が店主だもの。好きにさせてもらっていいでしょう?」


 独り言は誰に向けたものなのか。

 きっと父ならば、「好きにしたらいいよ」と言ってくれそうな気がした。




「ただいま、ハル」


 店の扉が開き、ジュードが帰って来た。


「お帰りなさい」

「誰も来なかったか?」

「残念ながら、本の整理が捗りました」

「はは、複雑だな。良かったなと言えばいいのか、こちらも困る」 


 ちょうど十二時になった。


「ロゼッタさんに教えてもらって、少し離れたバゲットサンドの店に行ってみた」


 少しではなく随分と離れた店だ。ハルの足では一時間以上はかかる。

 海老とアボカド、スモークサーモンとクリームチーズ、ローストビーフの三種類のバゲットサンドを、ハルが用意した皿にカットして並べた。見た目も鮮やかで、なかなか豪華なランチになった。


「嬉しいです。ここのお店のバゲットサンドは前に一度行ったきりで、どれも初めて食べます」


 毎食用意するのも大変だし、ハルがこんなに喜ぶなら、これからは店を開拓しながら買ってくるのもいいかもしれないとジュードは思った。


 持ち手のないカップにブレンド茶を入れて、食べ始めた。最初に手にしたスモークサーモンとクリームチーズには、粒マスタードとオニオンスライスが入っていて少し辛味があって美味しい。


「ロゼッタさんが俺を見てニヤニヤしてたのが気になった。何か企んでいるのでは」

「‥‥‥んぐっ」


 いつもはジュードが咽るのだが、めずらしくハルが涙目で胸を叩いていた。


「‥‥‥大丈夫か?ハル」

「だ、大丈夫です。粒マスタードが効いてますね」 


 ロゼッタに頼んだトラ様の服のことはまだ内緒だ。作る前から「着たくない」と言われてしまったらショックだ。ハルはブレンド茶をゆっくり飲んだ。


「先程の話だが‥‥‥」


 そんなに気になるほど、ロゼッタはニヤニヤしていたのだろうか。


「猫の書の仕上げは、ギルドに行ってから考えようと思う」


 ロゼッタのことではなく、ジュードが出掛ける前に話していた修理のことだった。


「話の流れで、必要なら覚悟を決めてルークの前で猫になる」

「それがいいですね」


 ルークに仕上げて欲しいと言われたら、彼はジュードと同じ『依頼人』なので断れない。


「ん、このローストビーフ美味いな!」 

「しっとりして柔らかいですね」

「また買ってくる」

「ふふ、楽しみにしてます」




 昼食後はいよいよ猫の書の続きを読み、客が来たらジュードは脱衣所か二階の部屋へ行く。


 再びトラ様になったジュードが本棚を気にしていた。


「もしかして、【勇者ディラン・ランディの冒険】ですか?」

「ああ。ユーゴさんが子供の頃にハワード夫妻から貰ったのだろう?どうして店に出すことにしたのかと思ってな」 

「私も売るかどうか悩みました。好きな物語でしたから。私が大きくなってから、父が店に並べたのですが‥‥‥」


 商業ギルドの代表ソフィアと鑑定士オリーのハワード夫妻は、ハルの両親の歳の離れた友人だ。ベネット古書店の老夫婦が養子にしたユーゴに、この冒険の本を贈ったそうだ。


「もしかしたら、ハワード夫妻から読んだら売ってしまっていいと言われていたのかもしれません。でも、ここではこういった冒険の本を手にする方は来店されなくて、ずっと売れずにいました。私は誰かに読んでもらいたい思いがあったので、ジュード様に読んでいただけて良かったです」


 ジュードもまた読み返したいが、自分が買ってしまって良いものかとも思っていた。


「実は、一部を店内で読む専用の本にして、本棚の配置を変えて中央にテーブル席を置けないかと思いまして」

「それ、いいな。【勇者ディラン・ランディの冒険】は読む専用にして売らないでくれるか?棚を移動するなら俺がやるし‥‥‥レジナルドさんにも相談したらどうだ?」

「そうしようと思います」


 ハルがレジナルドと仲良くなることはジュードにとっても嬉しい。

 ハルが、出来たら古書を減らして、それからここで本を読む人がロンドのコーヒーを飲めるようにしたいと言ったら、トラ様の天色の瞳がキラキラした。


「前にベーグルの店で並んでいた時に、ハルは『交換券』の話をしていたな」


 古書店で購入してくれた客には、その場でコーヒーを一杯、もしくは次回使えるコーヒー券をサービスする。雑貨店のロンドが淹れたコーヒーだと伝えることで、雑貨店にも興味を持ってもらえる。


「こちらで前もって雑貨店に古書店専用のカップとコーヒーを注文しようと思います。正直、楽しみたい気持ちが強くて、店での利益はあまり考えていません」

「それでいいと思う。俺が冒険者としてしっかり稼げばいいのだな」

「ふふ、よろしくお願いします。私も、積極的に修理の依頼を受けます」

「忙しくなりそうだな」


 これからのことを考えるだけで楽しい。銀の女神の神殿へ行って、ジュードの呪いが解けたら、少しずつ実現させたい。


 話せばきりがないので、そろそろ猫の書を読むことにした。トラ様は棚の上に置いたクッションで、ハルの声を聞く。物語の続きが始まった。





 【銀色猫と氷姫】



 氷の大地には、アイスドラゴンを筆頭に寒さに強い魔物が現れ始めました。

 森に住む水の国の王様は、大国の王様に相談しました。


 この氷の大地と氷のお城を守るために、魔物が増えすぎないよう、お城にいた戦える者たちを集めてギルドをつくりたい。


 水の国の王様は決断したのです。

 大国と水の国を統合し、水の国の民は大国の民として受け入れてほしいと、大国の王様にお願いしました。

 そして、氷姫を助けたいとこの地に残ってくれたお城にいた文官たちをギルド職員に、騎士団や魔法師団は魔物と戦いそれを仕事に出来るように自由な冒険者にしたいのだ、と。

 

 大国の王様は、受け入れました。

 更に、ギルドについても支援をするので、大国の希望者もギルドに入れて欲しいと言いました。


 水の国の森に、冒険者ギルドが誕生しました。


 初代ギルドマスターは、氷姫の兄である、水の国の王子様になりました。

 大国は、第二王子が王太子になりました。

 氷漬けになっていた金色の王子様は、自ら志願して氷のお城を守る門番となりました。


 大国の王様は、氷のお城と大地がもしも元の美しい国に戻ったなら、豊かな水の国の復活を後押しするつもりでした。


 皆で力を合わせて、氷のお城の氷姫を守りました。



 二百年が経ちました。


 大国に、銀色の髪と天色の瞳の美しい王子が生まれました。


  

 


「ここからがジュード様が受けた依頼の話になりそうですね」

「ん、そうだな」 


 物語の氷の城を守る門番になった金色の王子と、現実の警備隊長が重なった。


「本当に、この物語みたいで驚いています」

「金色の王子‥‥‥つまり警備隊長が指輪を入手してしまったことで、氷姫である銀の女神が怒り、俺と警備隊長が呪われたのかもしれない」

「ジュード様は知らなかったのに‥‥‥」

「物語をしっかり読んでいなかった罰だろう。だが、本当に俺に悪意はないから、猫の書を開くと猫になるくらいの呪いで済んだのかもしれないぞ?」


 だとしたら、警備隊長は‥‥‥。


「ジュード様が言っていた『氷漬け』が濃厚な気がしますね」

「ハル、金色の猫は諦めたのか?」

「‥‥‥その警備隊長さんの目的次第ではないですか?悪意があれば、可愛い猫ちゃんにはきっと、なれません」

「そ、そうか」


 ‥‥‥そうだろうか?


「とにかく、納得のいく解決方法がわかれば、彼らと話し合えるかもしれない」


 向こうが拒否したら難しい。古書店で酷い目にあった窓を割った男と、夜警隊の二人がどう出るか。

 本棚の上のトラ様は、一度立ち上がり伸びをして再びクッションに伏せた。


「続きを読みますね」

「ああ、頼む」 




 

 氷姫や銀色猫と同じ色の王子様が生まれたことで、受け継がれた先祖の意志により、大国の王族と冒険者ギルドが動き出しました。

 話し合いの末、王子様が十六歳で成人したら、氷のお城に連れて行くことになりました。

 大国は、王子様を真っ直ぐで誠実に育て上げ、ギルドはアイスドラゴンの討伐に成功し、氷の大地から魔物たちを遠ざけました。

 


 淡い金髪の双子の門番が守る氷のお城の扉の前に、銀髪に天色の瞳の精悍な若者が立っていました。


 王子様は成人し、十六歳になりました。


 王子様の腕には、彼が大事にする飼い猫がいました。

 氷姫に、自分の飼い猫を紹介したいと思ったのです。

 門番が扉を開けると、王子様は彼らに飼い猫を預け、一人で城の中に入っていきました。

 飼い猫は門番の腕の中で、おとなしく主の背中を見つめていました。


 氷姫のお城にクリスタルの氷像があり、王子様はこの方が氷姫だとわかりました。

 王子様は、氷姫の側に朽ちることなく存在する本があるのを確認すると、片膝をついて胸に手を当て、氷姫に挨拶をしました。

 

 はじめまして、水の国の姫よ。

 貴女に逢える日を待ち望み、恋い慕い、ようやく今日私はここに来ることが叶いました。

 私の大事な飼い猫を、貴女に紹介したくて扉の外に連れて来ています。

 貴女が大切にしている銀色猫を解放して差し上げたいのですが、私に出来ることをどうか教えてください。


 王子様は、氷姫の返事を待ちました。



 私の銀色猫は聖獣でございます。

 本を開き、封印の魔法陣から聖獣を解き放ち、貴方の身体に憑依させてみせてくたさい。



 王子様は恐れることなく、氷姫の前で本を開き、魔法陣を見つけると手を置きました。

 魔力が吸い取られ、やがて別の魔力が身体に流れて来ました。

 王子様は白銀の光に包まれ、氷の壁に映る自分が、銀色の聖獣になっているのことに気がつきました。

 聖獣が憑依した王子様は、氷姫の前で祈るように待ちました。

 

 しばらくすると、聖獣が王子様から離れ、氷姫の隣りに座りました。

 王子様は、元の姿に戻っていました。



 聖獣の指輪をお受け取りください。



 氷姫の指先が光ったので手を差し出すと、王子様の手のひらには指輪がありました。

 氷姫からの聖獣の指輪を受け取った王子様は、指輪を左手の薬指にはめて、指輪に口付けました。



 ありがとう。



 可愛らしい声が聞こえたので、王子様が顔を上げると、銀髪に天色の瞳の美しいお姫様が、聖獣の頭を撫でながら微笑んでいました。


 ああ、姫よ。なんと神々しいお姿だ。

 二百年の時を経て、ようやく貴女に聖獣をお返しすることが出来ました。

 私は、貴女や聖獣と同じ色に生まれたことが、何より幸せです。


 やがて、お姫様の周りからお城の床や壁へと、氷が解けて、本来の色に戻っていきました。


 お姫様は言いました。


 私の凍りついた心を癒やすには、時間が必要でした。

 神は、二百年後に貴方が生まれるようにしてくださったのでしょう。

 貴方が私を愛してくださるのを、我が聖獣を解き放ってくれるのを、ずっと待ち望んでおりました。

 私の王子様。

 どうか、これから先も、私の側にいてくださいませ。

 そして、ぜひ、扉の外の貴方の大切なお友達を紹介してください。


 王子様は瞳を潤ませてお姫様の手を取り、指先に口付けました。



 青空の下、氷のお城は美しい水の国のお城に戻り、扉から出てきた王子様の手を取るお姫様と聖獣の姿に、人々は涙を流して喜びました。


 お姫様は、たくさんの人に辛い思いをさせ、愛されていたことを知り、己の心の弱さを恥じました。

 この先は愛する人と聖獣と共に、人々のために尽くす決意をしました。



 緑の大地と湖が輝く、豊かな水の国の復活。


 永久凍土に花が咲き、そして。


 待ちに待った、●●●●●●●。

 


 


「ぇええっ?」 

「どうした?!」


 物語の終盤で、ハルが会計カウンターの椅子から急に立ち上がったので、トラ様は本棚の上から飛び下りた。ハルの足元から会計カウンターに上ると、読んでいた猫の書の頁を覗き込む。


「さ、最後の‥‥‥」

「最後‥‥‥?」


 トラ様は目を見開いた。


「これは、まさか?」

「‥‥‥たぶん、きっと、そのまさかです」


 物語の最後の七文字だけ、異世界の文字になっていた。


読んでいただきありがとうございます。



『林檎のロロさん』も連載中です。こちらもどうぞよろしくお願い致します。


https://ncode.syosetu.com/n0532ho/

 

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