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35冊目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



「その、膝の上の生き物は?」

「トラ様と言います」 


 肉球を見せるように両前足を持って「はじめまして」と、ハルがトラ様に代わり挨拶をした。膝の上で中腰のトラ様は無表情だ。


「いや、名前ではなく‥‥‥」 


 眼鏡の奥の、ハルと同じ山吹色の瞳が戸惑っていた。こんな顔もするのだと、ハルは何だか面白くなってきてしまった。


「いつもは二階にいるのですが、今日は私の膝の上が良かったみたいです」


 小さく「んぐぅ」と聞こえたが、ハルは聞き流した。


 猫の書は結局、目の前の会計カウンターに開いて置いている。閉じないように箱を上に乗せた状態だ。この箱は、ルークから貰ったチーズケーキを取り出したミルクコーヒー色の箱で、中に魔力回復薬を立てて入れている。動かせば簡単に倒れる。


 試すようなことはしたくなかった。願わくば、触れないでほしい。


 向こうも隠すことをやめたのか、カルロスとバートを伴って来た。今日は無精髭はなく身綺麗にしている。バートの視線はトラ様に釘付けだが、黙って様子を見ている。


「猫を飼っていたとは、知らなかったよ」

「アレルギーはありませんか?私の父が猫アレルギーだったので、生前は飼えませんでした」

「‥‥‥そう」


 目を伏せるようにして、それから「本を見せてもらうよ」といつものように店内の本棚を見始めた。

 カルロスとバートは外で待つように言われて、店を出て窓を背に立って待った。

 男性は一冊の本を手に取ると、窓テーブルの席に座った。とても読みそうにない、この店では新しい類の珍しい本を選んだ。


「‥‥‥」 


 外で立たされている二人は、何をしに来たのだろう。


 そんな事を考えながら「ごゆっくりどうぞ」とハルは、会計カウンターに座った。膝の上のトラ様がハルを見つめる。大丈夫と、ハルはトラ様の頭を撫でた。


 ハルはトラ様を撫でながら、男性を観察していた。テーブルに開いた本は、頁をめくるが読んでいるようには思えなかった。

 視線を感じたのか、男性が顔を上げてこちらを見ると、ハルはニコっと微笑んだ。少し驚いた顔をしたが、男性は口角を上げて、再び本に視線を落とした。


 しばらくして男性が窓の外に目を向けると、外の二人が男性を見ていて、目で訴えていた。男性が顔を顰める。


 あれは、あの二人の目は、いつまで黙っているつもりだと、そう言っているように思えた。もう三十分もこうしているのだ。

 外の二人が再び店に入って来た。


「主よ、さすがに店の前で男二人も立っていたら営業妨害だと言われるぞ」

「そうですよー、ベネットさんを怒らせたら怖いから、早く何とかしてくださいよー」


 散々なことを言われている。こんな関係性だったのかと、ハルもジュードも驚いた。二人が、主を窘めている。


「お前たち、酷いことを言うんじゃない。ハ‥‥‥このお嬢さんは、そんな」

「営業妨害です」

「‥‥‥!」

「「はあぁ‥‥‥」」


 だから言ったじゃないかと、二人は溜息を吐く。男性は目を見開いてハルを見ていた。


「あの、お客様。お互いに、言いたい事も聞きたい事もあるようですし、ちゃんとお話ししませんか?」


 またジュードから「ハルは男らしいところがあるな」と言われそうだが、もう待っているのは面倒くさいなと思い始めていた。

 

「私はハル・ベネットと申します」

「‥‥‥知っているよ」

「お客様は、王立図書館の方ですね?」


 男性は小さく息を吐いて、本を閉じ、体ごとハルへ向いた。


「私は、王立図書館で貴重書・準貴重書の管理室長をしている、レジナルド・ベネットだ」

「「えっ?」」

「ん?」  


 トラ様が思わず声に出してしまったが、ハルは誤魔化してトラ様の頭を撫でながら「レジナルド・ベネット様‥‥‥」と言った。


「キミの祖父にあたるこちらの元店主は、私の祖父の末の弟だよ。つまり、キミと私は‥‥‥親戚だ」

「‥‥‥母とは?」


 祖父は血縁ではないと思っていた。父は知っていたのだろうか?


「ロッティ‥‥‥シャーロットは、私の娘だ」

「「ええっ!」」

「「「ええええっ!?」」」


 ハルは、レジナルドが自分の祖父である事と、母の名前が『シャーロット』である事に驚いたが、トラ様が叫んだことで、三人のほうが驚いた。


「な、やはり猫ではないのだね?」


 レジナルドは最初に『生き物』と言った。何かを感じ取っていたのに、黙っていたのだ。今は、丸椅子から立ち上がって動揺している。

 どう見ても四十代後半から五十代前半くらいのレジナルドが、祖父とは。


「猫が叫んだな。では、さっきのも、聞き間違いじゃなかったのか」

「こ、こんなに可愛いのに、猫ちゃんじゃないのっ?」


 バートは猫好きなようだ。ショックが大きい。カルロスが「猫ちゃん?」と呟いて、やや引いている。 


「「‥‥‥」」


 もう、ダメじゃないですかジュード様。と、ハルは困った顔でトラ様を見た。すまない。天色の瞳がそう言っている。


 さて、どうしたものか。


「そこにある‥‥‥魔法の気配と、その生き物が、誰かに尾行される原因かな?」

「‥‥‥」

「何も答えないつもりかい?‥‥‥ハル・ベネットさん」


 どうする?

 どうしましょう?


「まさか、言葉にしてはいけない、制約でもあるのか?」 

「「‥‥‥!」」

「「‥‥‥?」」


 それなら話せないかもしれないな、とカルロスとバートが話している。


 制約って?と、ハルとジュードはキョトンとしている。


「とにかく、ジュード・グレンくんと話がしたい。彼は、キミにとってどんな存在なんだ?」

「お客様で、恋人です」


 さらりとハルが答えたので、今度は三人ともポカンとした。こんなに表情豊かな人だったのだと、何度も客として店に来ていたのに知らなかった。


「こ、恋人‥‥‥?」

「ジュード様とお話がしたいのでしたら、どうぞ」

「‥‥‥」

「ただ、話して何を言うつもりです?貴方が私の祖父だからですか?‥‥‥私は、知ったばかりで、いきなり何か言われても困ります」 


 カルロスとバートは、それ見たことかと、残念な顔を主に向けている。

 レジナルドは目を丸くして、それから、悲しそうな嬉しそうな複雑な顔をした。


「本当に、キミはロッティとよく似ているね‥‥‥。あの子にも、口で勝てたことなど‥‥‥なかったよ」


 ハルは目を瞠った。レジナルドが涙を流したからだ。


 白いものがあるが青茶色の髪は癖があり、山吹色の瞳には涙がいっぱいだった。カルロスがレジナルドを丸椅子に座らせた。


「あの日、やっと会いに来てくれたあの日に、まさか死んでしまうなんて‥‥‥。どれだけ、どれだけ、後悔したことか」


 後悔。


 母が自分に会いに出掛けた事で、死なせてしまったと、レジナルドは後悔してしたのだ。



「ハル」



 膝の上のトラ様が、ハルの名を呼んだ。


 バートが「わ、喋った!」と言ったが、カルロスに頭を叩かれて、自分の手で口を塞いで黙った。


「ハル、彼と話がしたい」

「‥‥‥良いのですか?」

「ああ」


 トラ様がハルの膝から降りた。トトトと歩いて、トンと跳んで窓テーブルに上った。目に涙を溜めたレジナルドと同じ高さの目線になる。


「トラ様‥‥‥だったかな?キミは一体?」


 恐る恐る、レジナルドがトラ様に右手を伸ばす。可愛らしいシルバータビーの耳折れ猫にしか見えない。柔らかな頭を撫でてみた。トラ様は少し驚いた顔をしたが、黙って撫でられていた。

 落ち着いたレジナルドが撫で終わると、トラ様が天色の瞳を真っ直ぐ向けた。



「俺が、ジュード・グレンだ」






 キッチンテーブルに足りない分の椅子を、窓テーブルの丸椅子で補う。人の姿に戻ったジュードとハルが、ベーグルを焼いてカットし、具材を挟んで次々と大皿に並べていった。取皿を五枚用意して、好きなベーグルサンドを選んで食べてもらう。


「俺が紅茶を入れよう」


 カルロスがそう言って、魔法鞄から紅茶の缶とティーポット・マグカップを三つ用意した。ハルとジュードは【ジュエルジェシカのベーグル屋】でもらったばかりの持ち手のないカップを出す。


「ありがとうございます。お願いします」

「いや、こちらこそ昼食まで用意してもらって申し訳ない」


 レジナルドとバートは、猫がジュードになった衝撃で、座ったまま呆然としていた。

 働かないバートにカルロスは溜息を吐くも、ハルは「普通の反応だと思いますよ」と言った。

 カルロスもかなり驚いだが、すぐに現実を受け止めて落ち着いた。


「カルロスは冷静だな」

「いや、ジュード・グレンが女性の膝の上に座っていたのかと思ったら、急に冷静に‥‥‥」 

「い、いや、それは」


 レジナルドはハッとして、ジュードに向かって顔を顰める。バートは、想像してから「プハッ」と吹き出した。


「食べますよ」

「「「「いただきます」」」」


 狭いキッチンに五人も集まるのは初めての事だった。お互いに様子を見ながら、ベーグルサンドを食べ進める。


「ベーグルって初めて食べるけど、もっちりして食べごたえがあって美味しいんだね」


 黄褐色の瞳を見開いて、バートがスモークサーモンとクリームチーズを挟んだセサミのベーグルを頬張っている。

 

「商業ギルドの近くにあるベーグル屋さんです。並んでいるのは女性が多いですが、店員の方も感じの良い方でオススメですよ」

「女性が多いなら、尚更行こうかな」

「お前のは不純な動機だな。オススメなのはベーグルだ」


 カルロスは呆れているが、へらりと笑うバートは出会いが欲しいようだ。ハルは正直なバートに笑いそうになった。


「だが、確かに美味い。ジュード・グレンの網焼き加減も絶妙だ」

「ほぼ毎日焼いているからな」 


 褒めたカルロスの言葉に何気なく答えたジュードだったが、この言葉でテーブルが静かになった。


「ジュード・グレンくん。キミは、ここに毎日来ているのか?」

「一緒に住んでいますよ」


 ハルがまたさらりと答えて、ハム&ポテトサラダのベーグルをパクっと食べた。


「「「‥‥‥!」」」


 カルロスの銅色の瞳が隣の(あるじ)を心配そうに見ている。バートも驚いたが、だから見張ってても古書店を出入りが少なかったのかと納得して、黙々とベーグルサンドを食べ続けた。次はプレーンのベーコン&エッグだ。

 レジナルドは、美味そうに食べるバートの性格が羨ましくなる。こちらは胃が痛いのにと、恨めしくさえ思う。思いきって、ハルにどういったつもりでいるのか聞こうと、口を開いた。


「ハ‥‥‥ベネットさんは‥‥‥」

「ハルと呼んで頂いて構いません。お二人も、同じ『ベネット』では混乱するのでは?」

「じゃあハルちゃん」


 バートが遠慮なく言った。


「レジナルド様もカルロスも、屋敷(じたく)では彼女をそう呼んでるじゃないですか」

「うぐっ」

「バート!」


 カルロスがレジナルド越しにバートに怒った。赤くなって下を向くレジナルドが気の毒に思えた。この関係性は一体‥‥‥。

 ハルは、祖父だという男性が、今まで気難しい人なのかと思っていたが、ただハルに話しかけるのがやっとで、気の弱い、おとなしい男性だったのだと知った。


「結婚します。そのつもりで一緒に住んでいますよ。それに、ジュード様は毎日、そこの会計テーブルのクッションで猫になって寝ています」

「え?嘘!好きな女の子と一緒にいるのに?」

「バート、お前はちょっと黙ってろ。‥‥‥それだけ彼女を大事に想ってるってことだろう。俺はジュード・グレンがそういう男で良かったと思うが?」

「‥‥‥」


 ジュードは自分が「ほぼ毎日焼いているからな」と言ったことで、レジナルドを不安にさせてしまったのだと、先程から青くなっていた。

 ハルとレジナルドを気にしているジュードの姿に、カルロスとバートは、何だか主に似てるなと急に親近感が湧いた。


「あの、レジナルド様とお呼びしても?」 


 私はハルちゃんと呼んでいるのだから、『お祖父様』か、せめて『レジーさん』と呼んでほしい。そう言いたいが、言えずに、レジナルドは頷いた。


「父とは、会っていたのですか?」

「キミは、何も聞いていないのか。それなら、私が教えて、彼に恨まれないかな?」


 自分に向けられたレジナルドの瞳が優しいもので、ハルはじんわりと温かくなった。


「父と母の事をあまりにも知らな過ぎるので、日記を少しずつ読もうとは思っていますが、出来れば知る人の口から聞きたいと‥‥‥。教えていただけますか?」


 ハルは、レジナルドに微笑んだ。今日初めて見せる、心からの優しい笑顔だった。ジュードとカルロスは、少し肩の力を抜いた。どこかずっと緊張していた。

 バートがカラになった自分のマグカップを見て「お茶が欲しい」と言ってカルロスに睨まれる。だが、皆のカップを見て、再び紅茶を入れようとキッチンを借りた。


「私がこの古書店に来るようになったのは、ユーゴくんに頼まれたからだ。自分がいなくなったら、休みの時でいいから時々キミの様子を見に行って、せめて見守ってほしいと」


 ハルは目を丸くした。父はそんな事をこの人に頼んでいたのか。そして、本当に約束通りに『見守った』のだ。

 最近になってジュードが現れたことで、慌ててカルロスとバートに頼んで、ジュードを調べたりした。


「母の名前はロッティではないのですね」

「シャーロットが本当の名だが、皆は愛称の『ロッティ』と呼んでいた。街で暮らすには、『シャーロット』は上品過ぎると言っていたね」


 確かに、何だか貴族っぽいから浮いてしまう名前だ。


「ロッティの母、私の妻は早くに亡くなってしまって、まだ子供だったロッティのために後妻を迎えようとした。紹介された女性と食事会をしたが、ロッティは少し変わった子だったので、話について行けない、無理だと断られた」

「‥‥‥」


 母も変わり者だったようだ。そして、この人は随分と苦労したのでは?と思った。


「どう変わっていたのだ?ユーゴさんも相当なようだが」


 ジュードがレジナルドに質問した。レジナルドは少し思い出すように考え込んだ。


「そうだね。ある時、『異世界』とか『転生しちゃった』とか言い始めたんだ」

「「‥‥‥!」」


 ハルとジュードが固まった。ロッティも、母も『そっち系』だったか、と。


 すっかり黙ってしまった二人に、カルロスがティーポットで二人のカップに紅茶を入れた。


「あ、ありがとうございます」

「‥‥‥ありがとう」


 カルロスはレジナルドとバートにも紅茶を入れた。バートは食べて満足したのか、まったりしている。一番エラそうだなと、何となく腹が立って頭を小突いた。


「何すんだよっ」

「何となくだ」 


 カルロスは自分のカップにも紅茶を入れて、丸椅子に座った。レジナルドは、話の続きを始めた。



 ロッティとユーゴは、図書館で出会った。ユーゴは、ギルドマスターの紹介状とギルドカードの提示で、準貴重書までなら閲覧許可が出たその日に、偶然レジナルドの職場に来ていたロッティと話す機会があった。


 ハルは、レジナルドの話から、そこで父が異世界転移者で母が異世界転生者だとお互いに知ったのではないかと思った。


 ロッティがユーゴを大事な友人だと紹介してきた。彼も本や古書を集めたり読んでいるのだと言った。

 ある日、ロッティは、彼が探している古書を自分も探しに行きたいと言い出した。


「一代限りの士爵とはいえ、一応は準貴族の娘だ。冒険者でもないのに若い男と旅になど、許せるわけがない」


 ここは厳しくと思い、勝手をしたら勘当すると言った。今の暮らしは贅沢はできないが、それなりに良い生活ができている。それを捨てられるのか?


 すると、ロッティはあっさり出て行ってしまったのだ。ユーゴにすら何も教えなかったらしく、レジナルドはショックだった。こんなはずではなかった。


「一人で旅に出たのですか?」


 ハルとジュードは目を丸くした。そんなの、無事に生きていけるわけがない。


「しっかり護衛を雇っていた。それが、カルロスだよ」

「「ええっ?!」」


 カルロスは、レジナルドの父の代からいた家政婦の末の息子だった。ロッティが子供の頃、二歳ほど年上だったカルロスがロッティを妹のように遊んであげていた頃があった。

 カルロスが家を出て傭兵になったと耳にしていたロッティがそれを思い出して、元家政婦の家を訪ね、カルロスと連絡を取ったのだ。

 カルロスは、同盟国での戦争が終わり、雇用主との契約も解除され、ちょうど国に戻っていた。しばらく、ロッティの護衛を引き受けることにした。


 カルロスのハルを見る優しい瞳。それは、ロッティを重ねていたのだろう。


「ユーゴくんは、娘を探すのと同時に古書を探す旅に出た。古書を探せば、ロッティに会える可能性が高いからね。彼が【ベネット古書店】を継いだ養子だと知って驚いた。当時十六歳だった彼は、自分のせいだと、私に頭を下げたよ。絶対に探す。彼女を愛していますと。見つけたら結婚を許して欲しい。ベネットの名を再び彼女に、とね」


 そして、半年後に本当に見つけ出した。


「カルロスはユーゴくんが迎えに来た時点でお役御免になったと、私に報告してきた。近隣国で戦争が始まり、彼はまた新しい雇用主をみつけて傭兵に戻った。行く前に、いつか、私の元で働いてもらえないかと頼んだ。私も、少し寂しかったしね」

「そうでしたか‥‥‥」


 カルロスはハルに少し微笑んだ。


 彼は数年後に、傭兵をやめてレジナルドの所へ来た。相方のバートを連れて。

 レジナルドは貴族ではないので、大きくはない屋敷には、通いの料理人と家政婦しかいない。

 二人は、図書館勤務のレジナルドの、従者で護衛という名の、家族のような者たちだ。


「しかし、まさか、娘が子を産んで帰って来るとは思わなかった」


 ロッティは旅先でハルを育て暮らしていた。ユーゴは店に帰り、少ししたらロッティとハルの所へ戻る。それを繰り返していた。ハルが二歳になって、ユーゴは二人を連れて【ベネット古書店】へ帰ってきた。


 レジナルドが久々に娘と再会したのは、亡くなったあの日だった。ロッティから抱きついてきた。


『今まで心配ばかりかけて、ごめんなさい。お父様。どうか、娘に会いに来てください。私にそっくりですよ』


 ロッティは、そう言った。


 だからこそ、レジナルドはハルに会いに来れなかった。ユーゴに頼まれるまでは。



「‥‥‥アイスクリーム食べるか」

「‥‥‥食べたいです」


 急に甘いものが食べたくなった。キョトンとする三人にも、ジュードはバニラアイスクリームを配った。


「ありがとう」


 レジナルドが礼を言って、それから、と続けた。


「調べたりして、失礼なことをしたね。許して欲しい」


 謝罪をしたレジナルドに、ジュードは目を瞠った。


「いや、貴方は何も間違っていない。俺が貴方の立場なら、ジュード・グレンを調べる」


 今度はレジナルドが目を瞠った。そして、苦笑いをした。


「それでも、気分は良くないだろう?」

「理由がわかれば、気にしない。俺も貴方を不安にさせた、すまない」

「いや、私こそ‥‥‥」

「あの、その辺にして、早く食べないとアイスクリームがとけちゃいますよ?」 

「「あ」」

 

 三人はさっさと食べて紅茶を飲んでいた。柔らかくなったバニラアイスクリームを急いで食べる二人を、微笑ましく眺めていた。


読んでいただきありがとうございます。

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