表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/55

14冊目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



 キッチンのテーブルに、ロンドのコーヒー入りマグカップが二つと、大皿が一枚、中皿が二枚。


「レタス・チーズ・生ハム、これは昨日と同じですが、茹で卵・塩鶏・ベーコン・トマト‥‥‥これは白カビチーズ・青カビチーズ?チェダーチーズまで」

「このチーズたちはルークから貰った。あいつはチーズ好きなんだ。塩鶏は、ギルド前広場の屋台で買った」

 

 全てベーグルに挟みやすいようにスライスして、大皿に盛り合わせた。残っても夜に食べればいい。


「さて、ではベーグルを引くぞ」


 紙袋に手を入れて、触ったものを手に取る。抽選会のように、ベーグルを引くと言うジュードが、どれどれ?とベーグルを取り出した。


「セサミのベーグル」

「香ばしくて何でも合いますね!では、私です」


 ハルが手を入れるとムニッとした感触があり、それを取り出した。


「紅茶のベーグル」

「合うのは何だろうか‥‥‥」

「まず少し食べてみてから考えましょうか」


 ハルは半分にカットして皿に乗せてジュードに渡した。セサミは半分に切って横にも切って挟むようにした。


「紅茶は、ジャムか生クリームとか、クリームチーズとかが合うかもしれない。フルーツを買うべきだったな」

「あ、それなら」


 小型食品収納庫からクロテッドクリームを出した。


「スコーンに付けて食べるのがありました。前に生クリームを多めに買って作ったものですが」 


 ジュードが紅茶のベーグルに付けて食べてみた。


「ん、これで食べることにする」

「ベーグルって、甘い種類が多かったですね。基本はプレーンかセサミあたりが、この食材には合うかもしれません」

「そのようだな」


 セサミは、レタス・トマト・茹で卵・塩鶏を挟んで食べた。

 ジュードがもう一つ、紙袋からベーグル引きをすると、チョコレートが出た。諦めて、チーズ各種・ベーコンを食品収納庫に戻して、レタス・トマト・塩鶏・茹で卵を、サラダにしてドレッシングをかけて食べた。


「チョコレートのベーグル‥‥‥」

「後で、また食べましょう」


 チョコレートのベーグルは、小皿に乗せて食品収納庫に入れた。

 コーヒーのマグカップを洗い、ジュードの風で乾いたら魔法鞄に入れた。これはロンドのコーヒー専用にした。

 雨はなかなか止みそうにないので、店で猫の書の修理をすることにした。


「商業ギルドで鑑定して貰った時に、革が出てきたでしょう?」

「レッドパイソン・ブラックパイソン・ワイバーンだったな」


 覚えていたらしい。それを、午前中に雑貨店の夫婦に渡したことを話した。どれかを選んで、鍵入れを作ってもらうことになったのだが、まだ決めていなかった。


「ジュード様なら」

「ワイバーン」

「そ、そうですか」


 ハルは革についてわからないので、ジュードが選んだワイバーンにしようと思った。ロゼッタに任せれば、きっと素敵な鍵入れにしてくれる。


 鍵といえば、父の日記帳のような物が鍵付きであったことを思い出した。家族とはいえ、日記を見ていいものかどうか、まだ迷っている。


 ジュードは窓テーブルに座り外を見ている。隣の雑貨店の方からの風で斜めに降る雨を、しばらくただ眺めていた。


「ハル、あの人は?」 


 ジュードは、王立図書館の男性が気になるようだった。視線は窓の外に向いたままだ。


「‥‥‥父が死んで一ヶ月ほど経った頃から、いらっしゃるようになりました」


 草色のクッションに滅菌洗浄魔法をかけていたハルは、会計テーブルの上にクッションを置いて、椅子に座り、話し始めた。


「最初は、本を見せてほしいと言って、店内を見て歩いたらすぐにお帰りになりました。次に、ちょうど一週間後に来店されました」


 先週の客だと気がついた。男性が店内を歩き、古書を一冊手に取って考えていたので、声をかけた。宜しかったら、そちらの窓テーブルをご利用ください、と。


「毎週、木の曜日に来ることがわかったので、その曜日がお休みのお仕事だと思いました。ある日、初めて古書を購入されました。図書館で置いてもいいか、と聞かれました。王立図書館は木の曜日が休館日なんです」

「そうか」


 いつの間にか、ジュードがこちらを見ていた。


「その時に、初めて目が合いました。ジュード様も今日近くで‥‥‥」

「ああ、同じ色だったよハル、君と」


 身形の良い四十代後半から五十代くらいの男性。少し青みがかった白髪交じりの茶色の髪に山吹色の瞳で、眼鏡をかけていた。


「父親、ではなく?」


 ジュードの問いに、ハルは首を横に振る。


「わかりません。でも、私は母に似たんです。髪も、目の色も。‥‥‥あの方は、母の身内かもしれません」


 ユーゴがいるうちは、ハルに会いに来れなかったのだろうか。それとも、拒否していたのだろうか。


「そうそう、私の父は髪も目の色も、雑貨店のエプロンと同じ焦茶色なんですよ」

「そうなのか」


 ジュードは、あのエプロンはハルの父ユーゴを想って、夫婦が作ったのだろうと思った。母のロッティの色を作らないのは、色を受け継いだハルがここに居るから。

 

「ジュード様。あの男性が何も言わない限り、私も言うことはありません」

「ん、わかった。ありがとう」


 話が済み、ジュードが窓のカーテンを閉めた。


「念の為、キッチンで猫の書を開いたほうがいいだろうか」

「誰も来ないと思いますが、そうですね、念の為。三時になったら休憩にしましょう。私が気が付かなかったら教えてください」

「わかった。ティータイムにチョコレートのベーグルだな」

「あ、ジュード様のアイスクリームと合わせたら、美味しいでしょうか?」

「!」


 ベーグルアイスクリームを楽しみに、ジュードは猫になった。


 クッションを窓テーブルに置くと、ジュードがテーブルに上りハルがカーテンを開けるのを待った。人間の時でも猫になっても、ここから外を見るのが好きなようだ。

 視線に気がついたジュードが、どうした?と首を傾げてハルを見上げた。


「少し暗いと黒目がまん丸で、可愛いです」

「‥‥‥」  


 カーテンを開けると、ジュードの黒目が細くなった。


「ところで、冒険者ギルドにはいつ伺えば?」

「ん!そうだ忘れていた!その、明日の夜は出掛けられるか?ギルドのダイニングに個室があるから、そこで食事はどうかとルークが言っていた。もう予約してしまったんだが‥‥‥」


 もう断れない感じだった。


「うぅ、すまない、ハル‥‥‥」

「可愛いから許します」

「あぁ‥‥‥今日のところは可愛い猫で助かったな」


 ついでに頭を撫でさせてもらい、満足したハルは会計テーブルで修理魔法(リペア)を始めた。 




 十頁分を過ぎたあたりで、少しだけ疲れを感じた。

 

「ハル、休憩だ」


 シルバータビーの耳折れ猫が足元に来て、ハルに声をかけた。足に擦り寄ってくれたら嬉しいなと思ったが、猫はジュードだと思い出すと顔が赤くなった。ジュードが足に擦り寄ることをうっかり想像してしまった。疲れている証拠だった。


「雨が止んだ」

「そ、そうですか、けっこう降りましたね。‥‥‥さっぱりとしたお茶を入れましょう。ベーグルはアイスクリームが挟めるように切ってみますか?」

「挑戦することが何より大事だ」

「全くおっしゃるとおりです」


 窓のカーテンを閉めて、キッチンで猫の書を閉じた。濃紺のローブを着たジュードが白銀の光から現れ、暑いと言ってすぐにローブを脱いだ。


「‥‥‥暑い?」


 気温と湿度が上がったようだ。これは、今日アレをしなくてはならない。


「ジュード様。円柱の魔法道具を使うのは、今日です」

「そうか、うん。そうか‥‥‥」

「さぁ、ベーグルアイスクリームの時間ですよ」


 ミントの葉をほんの少しだけ足した紅茶を入れて、チョコレートのベーグルを横に切ってから、アイスクリームを挟みやすいようにと思い、四等分に切ってみた。


「チョコレートにチョコレートアイスクリームは、しつこいだろうか?」

「濃厚になるかもしれません。ひとつ試してみましょう」

 

 器に入ったチョコレートアイスクリームを一つ出してもらい、半分ずつにして挟んでみた。


「んん、冷たい。不思議な食感です」

「うーん、口の中がもう‥‥‥なんか、チョコレートだ。次は他のアイスクリームにしよう」

「何がありますか?」

「キャラメル・ラムレーズン・コーヒー・ストロベリー・ブルーベリー・ヨーグルトがあるが‥‥‥」

「ストロベリーが食べたいです」

「よし」


 果肉が多めに入ったストロベリーアイスクリームが出てきた。甘酸っぱいのがちょうどいいかもしれない。


「ジュード様、ベーグルを少しだけ焼いてみたらどうでしょう」

「焼きベーグルか!」 

 

 すぐに網を出して、コンロで焼き始めた。仕事が速い。チョコレートが焼ける匂いがした。

 挟むと溶けそうなので、焼きベーグルにストロベリーアイスクリームを乗せて食べてみた。


「これは!アリです」

「アリだな!」


 焼いたことで食感も変わりほろ苦くなった、温かいチョコレートのベーグルに冷たいアイスクリーム。


「チョコレートのベーグルは、ティータイム用にまた買いましょうか」

「そうだな。プレーン・セサミ・チョコレートが選ばれた」

「まだ四種類も残っていますよ?確か、ほうれん草&ベーコン・オニオン&チーズ・ヨーグルト・オレンジ&ホワイトチョコレート」


 ジュードは悩んだ末、「決定戦は明日の昼に」と言った。


 チーズに合うベーグルを、【月長石(ムーンストーン)】のギルドマスターへの手土産にしてはどうかと言ったら、それは凄くいい考えだと喜んだ。


 明日の予定に、ベーグル屋が加わった。


読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ