二話
よし、取り敢えず息も整った所で現状の把握をしよう。学校の教室で居眠りしてた筈なのに、目が覚めたら異世界の森に居た、以上説明終わり!うん、改めて現状を把握するとますます意味が分からん!
「……取り敢えず、今すべきことは水と食料の確保だな」
今の状況が幾ら信じれないとしても、これ以上喚いていられない。最早十分醜態を晒してはいるものの、醜態を晒し続けて死ぬことだけは、自らのちっぽけなプライドが許さない。
「こんだけ叫んでるのに生き物が全く集まって来ないって事はこの大樹は一先ず安全……だと思いたい」
この場所は周りに比べて開けている上に、良い感じに木々や茂みで囲われているので、どんな外敵がいるか分からない今、良い感じの隠れ場所になってくれそうな気がする。と言うか、この場所が安全でなければ割と詰む気がする。
太陽(?)の位置からして現在の時刻は昼位。水と食料だけでも見つけられるか分からないのに、その上安全な場所すら見つけなければならないとなれば、厳しさ倍増。
水が汚かった場合は煮沸や濾過をする必要がある。今日の所は通学用のバックパックの中に入っていた自動販売機で買ったばかりのの水で乗り切る事にする。……何で一緒に転移してきてるんだろう。まぁ、何にせよこれも一緒に異世界転移されたのはマジで運が良かった。
因みに他には教科書やらハンカチやら空のペットボトルやら、午後の授業で使う予定だった半袖半ズボンの体操服と上に着る様のジャージがあった。
現在の格好は白のシャツに紺のブレザー、そして黒のズボンと非常に動きにくい格好(制服)なので、体操服に着替える。脱いだ制服や鞄の中身は木の横から出ている平べったい岩に畳んで置いておく。猿とか、よく分からん生物に盗まれる可能性があるかもしれないが、この場所に他の生物が入って来るのかの実験にもなるし、ちょうどいい。
「よいしょっと……取り敢えずさっき鳥が飛んで来た方角に向かうとするか。……待てよ?方角は地球のまんまで良いのか?」
鞄の中に入ってあったノートをちぎり、太陽が沈んでいる方向に西と書いて、木の下に置き、手のひらサイズの石で固定する。逆の方角には東と書いた紙を置く。北と南は適当に決める。取り敢えず大樹のある場所を南とした。……スマホがあればもしかすれば方位磁針のアプリでわかったかもしれないが、スマホは財布と一緒に学校のロッカーの中である。
空になったバックパックを背負い、西に向かって歩き出す。大樹のあった場所とは違い、道は茂みや木々が乱立している性で歩きにくい。
一応、帰り道が分かるように道すがらに木の枝を折る。木に印を付けてもいいが、今はスピード重視なので手っ取り早い方法を取る。
暫く歩いていると、木の上の方に見たことも無い実が成っているのが見えた。リンゴくらいの大きさで、黄色くてでこぼこしている。お世辞にも美味しそうには見えない。
地面に食い散らかされ種と僅かな実を残したものが落ちている辺り、毒では無さそうだ。
「木に登って取っても良いけど、こんな所で怪我したら間違いなく終わるしな……」
身が生っている木は登れなくはないが、今は安全を取るべきだろう。
「_______よっ!」
手頃な石を木の実に向かって投げ付ける。友達と遊んだくらいしか野球経験は無いため、僅かにズレた場所を石が通りすぎる。
「もうちょい左か」
修正したルートで実に石が掠る……がしかし、実は落ちてこない。掠っただけではダメなのだろう。何度も何度も修正し、石を投げる。やがて、十数発目で実に石が直撃し、地面に落ちる。
「よしっ!」
思わず声とガッツポーズが出る。達成感で心が満たされるが、一個では些か心許ないため、それから何度も石を投げる。五つ程取れたあたりで再び移動を再開した。
二十分ほど歩いていると人の様な、猿のような、どちらとも取れない足跡を見つけた。嫌な予感がしたため、足跡は追わず、僅かにズレた方向を進む。
更に三十分ほど歩き続けると、水の流れる音が聞こえてきた。その音を頼りに歩いていくと、二・三メートルほどの横幅の川を見つけた。
「飲めそうだけど、一応な……」
水の入ったペットボトルとは別の、空になったコーラのペットボトルに水を入れ、鞄の中に放り込む。手を洗ったりする時に使えるかもしれない。
「魚も泳いでるけど、手づかみじゃ取れないよな」
かと言って釣竿やタモ網がある訳でもない。
「今日の所は我慢だな」
そう言って踵を返し帰ろうとした時_______背筋が急に粟立った。なんと言えば良いのか分からない、けれどハッキリとした危機。早鐘を打つ心臓と本能に促されるまま茂みに飛び込み、口を手で塞ぐ。
『ギィギィ!』
『ギィ』
『ギィギィギィ!』
俺が茂みに飛び込んだ十秒後、茂みから化け物が出てきた。それも、複数体。
_____俺はあの生物を知っている。直接見た訳では無いが、ゲームで何度も戦った敵として……知識として知っていた。
猿のような背丈に緑色の肌、そして_____猿と悪魔を足して割った様な顔。
「_______ゴブ、リン……」
口を抑えていた手の隙間から声が漏れる。その声に先程までの楽観的な雰囲気は一ミリも篭っていなかった。
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