08 召喚されてから80日。これまでの色々な出来事
『勇者召喚』とやらで俺たち四人がこの国に召喚されてから80日くらい経った。
それぞれ訓練を受けつつ、この世界について色々と情報収集もしている。
他の三人とは会わせてもらえていないが、魔王にお願いして手紙で遣り取りをしている。
彼らと手紙で相談しながら、この国が戦争を起こした後で裏切る計画もしっかりと立てている。
周辺国のお城にも魔王に手紙を届けてもらっている。この国が『勇者召喚』を行い、召喚した者たちを使って戦争を起こそうとしている事を知ってもらう為にね。
最初は信じてもらえなかったのだが、今ではこの国を滅ぼすべく戦争の準備を始めてくれている。
魔王のアドバイスで、この国が外交文書で使用している用紙を魔王に盗み出してもらい、その紙を使って手紙を出した事が功を奏した様だ。
また、それ以外にも、『勇者』のアキトと『剣聖』のケンジを、”隷属の腕輪”を着けさているのをいいことに訓練と称していたぶっていた兵士たちを、魔王が転移魔法で周辺国のお城に送ってやり、その兵士たちからも”オハナシ”を聞いて、『この機会に返り討ちにして滅ぼしてやるぜ』と、戦争に前向きになってくれているそうだ。
魔王のお陰で、いい流れになっています。
ありがとう、魔王。
魔王といえば……。
前に一度、魔王を召喚して、モフモフな着ぐるみパジャマを着たカワイイ姿を鑑賞させてもらったことがあった。すっごく怒られたけど。
その後も何度か『魔王を召喚してモフモフカワイイ姿を鑑賞しよう』と思い立って実行しようとしたことがあったのだが、あれ以来、一度もモフモフカワイイ魔王の姿を鑑賞することが出来ていない。
俺が朝起きると、既に魔王が来ているので。
魔王は、よっぽど俺にあのモフモフカワイイ姿を見られたくない様で、その度に、俺は悔しい思いをさせられている。
俺の企みを阻止した魔王がニヨニヨとした笑顔で俺を見やがるしなっ。
くそう。
『勇者』のアキトと『剣聖』のケンジは、剣術の成長を実感できているんだそうで、今では訓練を楽しんでいるそうだ。
また『聖女』のミヤコも、治癒魔法と結界魔法を使える様になったと喜んでいた。
俺も召喚術をちゃんと使える様になった。
あの愉快な詠唱によって、腕や目が疼いてしまう”あの病気”を発症させずに済んだ事を喜んでいる。腹筋も割れタシネー。(遠い目)
召喚術の練習で俺が愉快な詠唱をする度に、どこからともなく魔王の笑い声が聞こえてきていたが、『これは虫の鳴き声だ。これは虫の鳴き声だ』と思い込むことで多少はダメージを減らすことが出来ている。
でも、魔王よ。君は音を外に漏らさない結界を張れたはずだったよね?
結界を張った上でアレという訳ではないと思うので、魔王にはキチンと結界を張ってもらいたいと思う。
あの愉快な詠唱は克服できた。鍛え上げられた腹筋によって。(ムン!)
でも、それ以外にも大きな問題があった。
それは、召喚した魔獣が魔王にビビッてしまうことだ。
俺が腹筋を総動員しつつ魔獣を召喚すると、すぐに仰向けになって腹を見せる。魔王に。
狼の魔獣は、まぁ分かる。上下関係があるらしいし。だけど、鳥の魔獣も仰向けになって腹を見せた時には、乾いた笑いが出た。ハハハ……。
魔王様、あなたはどれだけ魔獣に恐れられていらっしゃるんですかね? お陰で、まったく俺の言う事を聞いてくれないんですが?
仕方なく、魔王を経由して命令を出すことにしたのだが、教育係の女性から『召喚獣の反応が遅い』とダメ出しを食らいまくってしまった。
召喚した魔獣には、送還する時に『二度と召喚するんじゃねぇぞ』って目を向けられてしまうし、実際、何故か同じ個体を再召喚する事が出来なくて連携を深める事も出来ないし。
ホント、困ったもんです。(しおしお)
このままだと、『俺だけ戦場に投入されない』なんて事態になってしまいかねない。
だが、この国を裏切って逃亡するのなら戦場の方が都合がいいので、対応策を考えてみた。
『魔王の言う事なら聞くんだったら、魔王に召喚させればいいんじゃね』と。
これで、”お留守番ルート”は回避できそうだ。
だけど……。
俺が最初に夢見ていた、デッカイモフモフを召喚してモフモフしまくってキャッキャウフフするという願いは、叶えられそうにない。
魔王にビビッて腹を見せているところをモフモフしたところで、『なんだコイツ』と思われるだけで、キャッキャウフフな関係にはなれそうにないしね。
せっかく、召喚術師になれたというのに……。
魔王を召喚してしまった所為で、こんな事になってしまうとは思わなかったが、魔王が居なかったら”隷属の腕輪”を無効化してもらうことも出来なかった訳で……。
そんな状況なんて考えたくもないので、現状で満足するべきなんだろうね。うん。
◇ ◇
『もっと気を配らんか、バレたらどうするのじゃ。(ぼそぼそ)』
ある日の召喚術の訓練中。
魔王からお叱りを受けた。小声で。
教育係の女性の”命令”をうっかり聞き逃してしまったからだ。
俺たちは、着けられている”隷属の腕輪”を魔王に無効化してもらっている。
その事がバレてしまわない様に注意して振舞っているのだが、偶に命令を聞き逃してしまう事があった。
でもさぁ……。結構、大変なんだよ?
愉快な詠唱を唱えている時って、笑いを堪える為に腹筋を総動員しつつ、さらに漏れ聞こえてくる魔王の笑い声をスルーする為に周辺の音を意識から外すなんて事をしているんだからね。
そんな状態で、”命令”を確実に拾い上げるなんて無理だから!
せめて、魔王は、笑い声を漏らさない様にシッカリと結界を張ってください。お願いします。マジで。
そんな風にヒヤリとする事が何度かあったものの、俺が真面目に訓練を受けて、反抗的な態度を取らない様にしていたからか、『異世界人だから効果が少し弱いのだろう』とか思ってくれた様で、何とかなった。
セーフ。(ヒヤヒヤ)
◇ ◇
ある日のこと。
魔王から、『勇者』のアキトと『剣聖』のケンジが盗賊の討伐に駆り出されたと聞かされた。
二人に人を殺すことを経験させるのが目的だったんだそうだ。
気の毒に思った魔王が、前もって二人に精神耐性を付与しておいてくれたんだそうで、二人とも怪我も無く、無事に盗賊の討伐を成功させたんだそうだ。
ありがとう、魔王。いつも助かってます。
その事を教えてくれた魔王が俺に向かって言う。ニヤニヤしながら。
「貴様には精神耐性なぞ必要無さそうだがの。(ニヤニヤ)」
失礼な魔王だなぁ。
「いやいや、繊細な俺には必須ですよ。だから俺にもお願い」
「あの愉快な詠唱を真面目な顔で唱えられるのじゃ、貴様が固い意思を持っておる事はワシが保証してやるぞ。うひょひょひょ」
そう言って、変な笑い声を上げる魔王。
本当に失礼な魔王だなっ。
「硬いのは腹筋だよ! 毎回、笑いを堪えてるんだよっ。必死にな!」
そう言ってやったら、魔王は笑い転げた。
本当に失礼な魔王だな!
◇ ◇
『聖女』のミヤコは、魔王に紙を大量に運び込ませて何か絵を描いているんだそうだ。
やけに描き心地にこだわっていたんだそうで、『何種類も紙を運ばされる羽目になったわ!』と、以前、魔王が俺にプンスコしていた。
でも、それって、俺にではなく『聖女』にプンスコしてほしいよね。
今は騎士団から拝借してきた紙に落ち着いたのだそうで、その紙に、毎晩遅くまで絵を描いているとのことだった。
そして、今。
魔王が、その『聖女』が描いたという絵を俺に向かって差し出し、内容について尋ねてきた。
どう答えたものか悩んでしまう内容だったので、適当に誤魔化すしかなかった。
でも、この内容が、よりによって騎士団で使われてる紙に描かれているのかー。そーかー。
世に出たら、きっと大惨事になってしまうだろうね。
俺は、心の中でそっと騎士団の皆さまの冥福を祈ったのでした。
<設定>
(召喚者と召喚獣の間の”繋がり”について)
召喚者と召喚獣の間には、ある種の”繋がり”が構築されます。それによって同じ個体の再召喚が可能になります。
魔王にビビッた召喚獣を再召喚できないのは、魔王の存在感が大き過ぎて召喚者をしっかりと認識できなかったり、召喚されたすぐ傍にそんな強大な存在が居た状況に『あ。オレ、終わった』と思ってしまって、召喚者を友好的な相手と思えず、送還時に切れてしまう程度のごく弱い”繋がり”しか構築できなかったからです。
魔王を召喚した際は、レジスト出来なかった事による諦めや、異世界から召喚された主人公たちへの同情。それと本人の性格によって友好的な関係を築く事が出来た為、しっかりと”繋がり”を構築する事が出来たのです。
(鳥の魔獣が腹を見せているのって”死んだふり”じゃね?)
鳥の魔獣が魔王に腹を見せていたのは”死んだふり”です。
狼の魔獣と同じ行動をした様に見えてしまった為、”死んだふり”とは認識できなかったのです。