05 魔王カワイイよ! 魔王! からの……
「知らない天井だ」
朝。
目を覚ました俺は、見慣れない天井に驚いたものの、無事に”お約束”を済ませることが出来た。
体を起こして周囲を見回す。
見慣れない室内の様子を見て、俺は昨日の出来事を色々と思い出した。
『あー、夢じゃなかったんだぁー』
色々と思い出しはしたものの、夢の中での出来事でなかったことに、俺は軽くショックを受けたのだった。
取り敢えず、ベッドから出て着替えをした。
そして、服を着替えている間に、『夢でなかったのなら仕方がないよね』と気持ちを切り替えた。
気持ちを切り替えた俺は……。
昨夜決めていた通りに、魔王を召喚することにした。
自分でも呆れるほどの切り替えの良さを発揮してしまいましたが、決して、夢の様な現実に”ハイ”になっている訳でも、ましてや、ラッキースケベに期待している訳でもないのです。ええ。
うっかり、脳裏にお着替え中の魔王の姿が浮かんでしまいましたが、別に何かに期待している訳ではありません。ラッキースケベは事故なので仕方がないだけなのです。ええ。
『事故だから仕方がない。事故だから仕方がない』と心の中で唱えながら、俺は魔王を召喚します。ベッドの上に召喚する様子を思い描きながら。
ベッドの上に召喚するのは、怒った魔王に飛び掛かられそうになった時に足下が柔らかい方が動き難いと思ったからです。
『策士』と呼んでください。(ドヤァ)
『朝っぱらから何をしているのやら』と、そういう呆れた気持ちも少しは有りましたが、事故が起こるのに時間帯など関係あるはずがないのです。ええ。
そう心の中で言い訳をしていると、ベッドの上に魔法陣が現れた。
その魔法陣をジッと見詰めていると……。
もふん
その魔法陣の真ん中に魔王が現れた。
…………魔王だよね?
俺は、ベッドの上で丸まって寝ている”モフモフ”に近寄り、ジーッと見てみる。
その”モフモフ”は、モフモフな着ぐるみパジャマを着た魔王だった。
むはー!
何? このカワイイ生き物?!
魔王カワイイよ! 魔王!
むはー!!
俺は、魔王のモフモフカワイイ姿に歓喜すると同時に、昨夜、魔王に『召喚するな』と釘を刺された理由を理解したのだった。
なるほど。
このモフモフカワイイ姿を見られたくなかったんだね、魔王は。
モフモフな着ぐるみパジャマを着たカワイイ魔王なんて、威厳がまったく無いからね。
なるほど。なるほど。(ニヨニヨ)
納得した俺は、改めて魔王をジックリと見る。
モフモフな着ぐるみパジャマを着たカワイイ魔王がスヤスヤと眠っている。
うむ。
これはいいものだ。
むはー!!(歓喜)
モフモフカワイイ魔王のカワイイ寝顔を堪能していて、ふと、気付く。
そういえば、ツノが無いな。
なんでだ?
出したり引っ込めたり出来るのかな? あのツノって。
でも、魔王は、あのツノの『継承者』であるみたいなことを言っていた気がするなぁ。
となると、実はあのツノって取り外しが可能とか?
……もしかして、『知ってはいけないことを知ってしまった』とかないよね?
………………。
いやいや、ないない。そんな事ないって。うん。
俺はそう思うことで『ヤバイ事を知ってしまって消される未来』を頭から振り払おうとしました。
俺が冷や汗をかいていると、ベッドの上で丸まって寝ている魔王がモソモソしだした。
ヤバイ。魔王が目を覚ましそうだ。
俺は、魔王が目を覚ます前に、急いで魔王を送還した。
これで証拠隠滅はバッチリだ。
無事に”消される未来”を回避できたね。
危ないところだったね。マジで。
ふぅーー。
気持ちを落ち着け、部屋でのんびりと寛ぐ。
思いがけず危ない橋を渡ることになってしまったが、イイモノを見れたことだし”良し”としておこう。うん。
モフモフな着ぐるみパジャマを着たカワイイ魔王の姿を思い出しながら、俺はニヨニヨしました。
魔王がやって来た。
胸を張り、堂々とした威厳のある立ち姿だ。
モフモフな着ぐるみパジャマを着ていたカワイイ姿とは大違いだね。ツノも在るし。
その魔王が俺を睨み付けながら言う。
「貴様、ワシが寝ている間に召喚しおったな?(ギロリン)」
「…………」
……ど、どうして分かったのかな?(ビクビク)
激オコなご様子の魔王を直視できません。
だが、こんな事で死ぬ訳にはいかない。俺にはまだまだやりたい事があるんです。あんな事とかこんな事とか!
ここは、全力で誤魔化す!
「お、おはよう? イイアサダネ」
「貴様……。(ギロリン)」
激オコなご様子で睨み付けてくる魔王にビビッてしまいます。(ビクビク)
「ワシはっ、『ワシが寝ている間に召喚しおったな?』、とっ、訊いておるんだっ、がっ?!(ギロリン)」
そう、語尾に力を込めて問い詰めてくる魔王。
くっ。ダメか。
魔王の態度を見るに、何か証拠を掴んでいるのかもしれない。
だが、魔王の勘違いという可能性もある。証拠隠滅もしたことだしなっ。
俺は、『魔王の勘違い』の可能性に賭ける!
「ど、ど、どーして、そー思ったのカナー?(ビクビク)」
「メイドが言っておったのじゃ!! 『魔法陣が現れて、姿が消えた』とな!!」
「あうち」
くそう。目撃者が居たのかっ。
ちゃんと証拠隠滅できていたと思ってたのになっ!
だが、策士(ただの自称)は簡単には諦めない。
何とか誤魔化す。
「と……」
「『と』?(ギロリン)」
「とってもカワイかったですよ。(てへペロ)」
「ウガー!!」
激オコな魔王が、俺に掴み掛かろうと両手を構えて向かって来る。
せっかく『とってもカワイかったですよ』って褒めてあげたのに!
だけど魔王は、召喚した人に危害を加えられない所為なのか、俺に近付いたものの肘を伸ばす事が出来ない様で、俺にその両手を届かせる事が出来なかった。
その事に気付いた魔王は、俺に掴み掛かるのを諦め、俺と魔王の間の何も無い空間で首を絞める動作をする。ギュウギュウと。
さらに、その”首を絞めている見えない相手”に膝を打ち込む動作も加える。ドスッ、ドスッと。
ギュウギュウ、ドスッ、ドスッと、そんな効果音が聞こえてきそうな光景がそこにはあった。
そんな激オコな魔王に、俺は「どうもすみませんでした」と頭を深く下げて謝ったのでした。
本当にやられている様なイヤな感じがしたので。
特に、膝を打ち込んでいる動作がですね、身長差の所為で、食らってはイケナイところに打ち込まれている様に見えちゃっててですね、ものすっごく気になっちゃったんですよっ。
『アレを直に食らってしまったらドエライことになってしまう!』ってね。(冷や汗)
『魔王を怒らせない様に注意しよう』と、俺はそう思ったのでした。
<設定>
(魔王の膝蹴りにマジでビビッている件について)
『アレを直に食らってしまったらドエライことになってしまう!』とマジでビビッていますが、現状では実際に魔王から食らうことはありません。
ですが、本当に食らわないのか、まだ安心できていないので、マジでビビッてしまったのです。