02 この魔王、どうしよう?
俺が召喚してしまったらしい立派なツノを生やした小さくてカワイイ少女は、『今代の魔王』と名乗った。
さて。
この魔王。俺の目の前で堂々と胸を張って立っていらっしゃるんですけど、これって、どうしたらいいんですかね?
どうしたらいいのか分からず、俺はそっと周りの様子を窺う。
すると、俺たちの周りを囲んでいる方々はとても驚いている様子で、静まり返っちゃっていました。
デブのオッサン(たぶん王様)も口をポカンと開けた状態で固まっている。
デブのオッサンの長い話が終わってくれたのはいいんだけど、静か過ぎるのも困るよね。この状況を俺が引き起こしてしまっただけに。
俺を擁護する声は誰からも期待できそうにない。それどころか、『何てことをするんだ!』と俺が責められる可能性の方が高いだろう。
マジ、どうしよう?(オロオロ)
考える。考える。
たしか、デブのオッサン(たぶん王様)は、『悪の魔王を倒してほしい』みたいなことを言っていた気がする。
この魔王には、さっき『くっ、殺せ!』って言わせることが出来たから、俺の言うことを聞くっぽい。
それなら、この魔王に『悪い事しないでね』って命令すれば、それで済んでしまう気がするね。
それでいいよね? いいはずだよね?
それで一件落着で、後は、俺たちを元居た世界に送り返してもらうだけだね。
うん。
一時はどうなる事かと思ったけど、何とかなりそうだね。
ふぅ……。
まぁ、そうは言っても……。
俺たちを元居た世界に送り返してもらう方法が在ればの話だけどね。
俺がデブのオッサン(たぶん王様)に視線を向けると、デブのオッサンはやたらと動揺していた。
まぁ、ここって玉座の間っぽいし、城の中枢であるその場所にいきなり魔王が現れたら、そりゃあ驚くよね。
デブのオッサン(たぶん王様)に、さっき俺が考えた事を提案しようと思ったのだが、こういう場面では直接声を掛けてはいけなかった気がする。
だからといって、こういう場面での正しい所作なんて俺は知らないし……。
どうしよう?
取り敢えず、挙手すればいいのかな?
俺がそんな事で悩んでいる内に、デブのオッサン(たぶん王様)は、側近らしい人から何やら耳打ちされると立ち上がり、周りに居た人たちをゾロゾロと引き連れて何処かへ行ってしまった。
ここに残した騎士たちに俺たちを囲ませて。
◇ ◇
玉座の間から会議室に移動した国王たち。
国王は、席に着くと同時に大臣に向かって言う。
「あれはどういうことだ! 魔王だと?! どうしてこの城に魔王が居るんだ?!」
「……あの者たちの中に居た召喚術師が召喚した様です」
「一体、どうすればいいんだ?! 私の計画が台無しになるではないか!」
今の状況に困惑しながら、怒りをぶちまける国王。
何人かが「てめぇの話が長げぇからだよ、このデブ」と呟いていたのだが、その呟きは国王の耳には入らなかった。
国王は、『勇者召喚』で召喚した者たちを使って周辺国に戦争を仕掛けるつもりでいた。『悪い魔王と、それに与して人類の敵となった国々を成敗しなければならない』と言って騙して。
だが、その”悪い魔王”が、召喚術師に召喚されて玉座の間に現れてしまった。
この城に魔王に居られては『正義の名の下に、魔王に与した国々を成敗する』というシナリオが成り立たなくなってしまう。
また、この城に魔王が居ることを他の国に知られてしまえば、逆にこちらが人類の敵として成敗される口実を与えてしまうことになる。
幸い、魔王は召喚術師には逆らえない様子だった。
だが、もし、魔王に『人類と敵対しない様に』なんて召喚術師に命令されでもしたら、召喚した者たちを使って周辺国に戦争を仕掛ける口実を失ってしまう。
それに、魔王にそう命令することで『役目を終えたのだから元の世界に送り返せ』なんて言われてしまっても困る。
彼らを送り返す手段など持っていないのだから。
『元の世界に送り返す手段は魔王が持っている』と言って彼らをタダ働きさせる、その口実までも使えなくなってしまった。
この国を存続させる為には、周辺国を打ち負かして支配下に置いて搾取する以外、他に方法など残っていないというのに。
「魔王を使って戦争に勝てばいいだけなのでは? 魔王を召喚した召喚術師に”隷属の腕輪”を着けさせた上で魔王に命令させて」
側近の一人がそんな事を言った。
「魔王がこちらに居るから困っているのだぞ。周辺国に戦争を仕掛けるのに『魔王に協力する人類の敵』という口実を使えなくなるどころか、我々が人類の敵にされてしまう」
「すべての国を敵に回しかねない。そうなったらこの国は終わりだ!」
そんな事を言い合う側近たち。
「魔王は召喚術師に命じて大人しくさせておき、召喚した者たちを使って周辺国に戦争を仕掛けましょう。当初の予定通り、召喚した者たち全員に”隷属の腕輪”を着けさせて」
その大臣の発言を受けて、国王は考える。
『そうだな。魔王さえ大人しくさせておけばそれでいいんだ。ならば、当初の予定通りでいいではないか』
そう考えた国王は、満足そうな表情で大臣に頷き返した。
こうして、この国の方針が決まった。
この決断が、どの様な結末を迎えるのかはともかく。