─黄金の半龍人はかく語れり(3)─ 欲深い王様と商人の話
今となっては昔のことです。
たくさんの黄金が眠る山のふもとの小さな国に、欲深く若い王様がいらっしゃいました。
「さて、こまったぞ」
この王様はよくお働きなので、国の皆から好かれておりました。
ですが、ひとつのことを長く悩まれることと言ったらありません。
「何をお考えですか」
誰にもないしょで結婚のお約束をなさった2人の姫が、王様をきづかいます。
「うん」と王様はおこたえです。
「国でいちばんの金持ち商人が、娘さんをわたしと結婚させたいと申すのだ」
国の誰にも好かれるしあわせな王様だから、このようなことがいくつもあるだろう。
りこうな2人の姫は、そのような時にこそお役立ていただくのだと決めて、王様のお城にやってきたのでした。
王様と2人の姫は、お国で一番の金持ちがたくらんだ結婚の話をどう裁くか、一緒に考えました。
王様がお国で一番の金持ちのことをよくお調べになり、金持ちが金の山をほしがっているとわかりました。
2人の姫は金持ち商人の娘さんに会いに行き、本当に王様のお城に行きたいかを確かめます。
「いいえ、いいえ。本当は、お城になんか行きたくありません。わたしにも好きな御方がいるのです」
商人のお嬢さんが、ぽろぽろと涙をこぼしながら話すのを聞いて、2人の姫は、
「これはいけない」と思いました。
「お姉様、わたしたちで作戦を考えましょう」
「ええ。王様に、よりよいお裁きをしていただきましょう」
2人の姫君は勇んでお城へ帰ると、また王様とよく話をしました。
姫君たちの作戦は、お嬢さんがお好きな男の子の気持ちを、王様の前で確かめることでした。
王様はおおきな大きなパーティを開き、金持ちの親子と、お嬢さんの好きな男の子をお城にお招きになりました。
「商人よ、このうつくしい娘さんをわたしにくれると言ったが、まことであるか」
「いつわりではございません。王様のお城に上がるとなれば、わが娘もよろこびましょう」
王様が「ほう」と息をつかれます。
「ならば、なぜ、あなたのお嬢さんは泣いておられるか。なぜ、わたしの方をちらとも見ようとせぬのだ?」
そばで見守る2人の姫様にたすけられて、商人の娘さんが、王様に、いつも思っていたことを打ち明けます。
「王様、ごめんなさい。わたしは王様のお城に上がるわけには行きません」
「それは、なぜ? わたしのお嫁さんになってくれるために、さまざまのことを学んでくれたのではないのですか」
「違います。わたしが好きなのは、王様の御前にひかえる、男の子です。どうか、どうか分かってくださいませ」
「ならぬっ!」
王様はすっかり、かんかんに怒ってしまいました。
「そなたはお父様の言うことを聞かないのか!」
「聞きません! お父様は、何の苦労もしないで、王様と仲良くなりたいのです。王様がお持ちの、金のお山をほしいだけなのです!」
王様は、娘さんの大声を聞き入れました。
ゆっくりと商人をみると、やさしく問われます。
「他人のものを、やたらに欲しがってはならぬ。わたしの母は、そう言った。商人よ、それはまちがいか。おまえは他人の物を手に入れるために、自分の子どもを、お前のいいように使うのか?」
商人は王様がおそろしくて、何もいいだせません。
他の人がお持ちの物をやたらにほしがれば、だれだってけんかになります。
強い騎士団をお持ちの王様とけんかをせず、楽をして金のお山を手に入れたいと思っていた商人は、やっと、お嬢さんの気持ちがわかりました。
泣きながら引き下がると、すぐに馬車に乗って、帰ってゆきました。
王様はずっとだまって王様を見ている男の子に、やさしく問われました。
「さきほどは、なぜ、だまっていたのか。お嬢さんに好かれているのは、ざんねんだが、わたしではなかったのだ。だから、そなたも何か、あの商人に言うべきではなかったか。わたしに任せておけばよいと、そなたは思ったのか」
「いいえ、王様。ぼくはまだ、心も体も弱いので、お嬢さんをお嫁さんにはできません。ですから、どうか、ぼくを王様にお仕えさせてください」
「良かろう。お嬢さんにふさわしくなるよう、がんばるのだ」
こうして、王様のお裁きは終わりました。
男の子は10年もの間、だれよりもがんばって王様にお仕えしました。
そうして、りっぱな騎士になり、金持ち商人のお嬢さんを、お嫁さんにすることができました。
自分の力で何かを手にしようと、がんばっていれば、その人には、かならず良いことが待っているものなのであります。
2021/6/14更新。
2021/6/18更新。