ブラウン管テレビをぶった叩くのはやめろ! でも、そこは気持ちいいから叩いて♡
昭和59年の冬、俺はこの日を絶対に忘れない。
「おい! なんでテレビが映らねぇんだ? 9回裏で次打てば逆点ホームランなんだぞ! おい? 早く、映せよ!」
痛ってぇ!?
マジで叩くのやめろや!
映らなくなる度、お前がぶっ叩くから俺は故障しちまったんだよ。
映らねぇのは、たりめぇだろ?
だいたいどこのどいつだ?
テレビを叩けば直るって言ったヤツは?
ビスケットの歌じゃねぇんだよ!
叩けば直るは都市伝説だ。
電波の受信状態が悪いから映りが悪いんだよ。
いい加減気づけよ? この暇人サラリーマン!
「う〜つ〜せ〜!」
痛い、ヤメ、はぅ! ちょっと! そこじゃない! もっと、もっと下、もっと下だよ。
そ、そこ! そこコッてるから、もっとやって。
もっと叩いて。
もっと強く、はぅ!?
イエス、イエッス、カモン!
あはぁ〜イイ〜。
待て? 上じゃない。
上は叩くな!
痛い!
「くらぇ! 必殺、ドラゴンチョップ!」
ドギャン!
「いってぇえー!!」
必殺技返し、角っこ。
そこは側面と違って固いから痛えぞ?
これで少しは叩かれる方の気持ちが解ったか?
「こいつ〜、トサカ来たぁ!」
おわぁ!? 頭来たからってテレビにカカト落としカマすかよぉ!?
ブギァア!!
もうこんなヤツの相手するのはイヤだぁーーーー!
「おぉ? なんだよ。ちゃんと映って――――」
チュドォォオオン!!
俺はこの日を絶対に忘れない。
その時、俺のことを書いた新聞には、こう書いててあったそうだ。
”テレビ破裂でアパート全焼。家主、全治5ヶ月の火傷”
それから時は経ち、全ての物の魂は流転する。
令和の現在。
「おい! 今、逆点さよなら満塁ホームランだったろ? 何で映らなくなんだよ! こいつ!」
薄型テレビを叩くのはやめろ!
この暇人サラリーマン。
昭和と違って叩いたら普通に壊れるだろぉ!