14話 学校だから座学もあるよ
校舎内に一つしか無い教室に生徒が集まり、ホームルーム前の雑談を行っている。
雑談しているメンバーは、俺と未来と猫。
教室内には4つ机があるのだが、一人は昨日強化合宿とやらに行っていると聞いたので、これで全員なのだろう。
そんな3人が話している内容は、勿論俺の家族構成についてだった。
「血の繋がらない家族と同棲ですか……」
不振な表情でこちらを見ているのは、猫屋敷小夜子。
「私としては、何か間違いが起こるのでは無いかと、不安なのですが……」
「間違いって?」
「それは……その」
言葉に詰まる猫。
それに対して、未来は終始ニヤニヤしながら話している。
「別に間違いが起きてもいんじゃない? だって、他人だし」
「他人じゃない。家族だ」
「そうだとしても、結婚出来る間柄でしょ?」
「それはそうだけど」
興味深々で質問してくる二人に対して、淡白に答えを返す。
この手の質問に対しては、前に住んでいた場所でも散々議論されて、多少うんざりして居たからだ。
「ねえ一狼。妹さんはどんな人なの?」
「普通だよ。全てに置いて普通」
「それじゃあ分からないよ」
そう言われても、妹である秋名に関しては、これ以上の説明をする事が出来ない。
兄妹だからと言って、何でも知っている訳では無いのだ。
「それじゃあさ、今日の放課後に会いに行って良い?」
「別に良いけど、家に居るか分からないぞ?」
「え? 居ないの?」
「あいつの事だから、多分今日は村を散策してる」
「へえ、アクティブな子なんだね」
その言い方は間違っては居ないが、秋名に対してその言葉を使うと、俺には違和感がある。
しかし、それを説明した所で理解を得られるとは思っていなかったので、それ以上の事は言わない事にした。
その後も雑談をしていたのだが、やがて兵子が教室に現れたので、各々が自分の椅子に座る。
俺は自分の席が分からなかったが、兵子が目の前に座れと目で合図してきたので、大人しく教壇の前の席に座った。
「それではホームルームを始める」
そう言って、授業がスタートする。
「ホームルームと言っても、やるのは前回の狩りの反省会だ。それが終わったら、各自出された課題を行うか、普通に勉強するか。好きにすると良い」
それを聞いた俺に、当然のように疑問が浮かぶ。
「普通の授業は無いんですか?」
「そうだな。本来であれば、社会に出る為にある程度の教養は必要だが、ここでは率先して教える事は無い。勉強したかったら、自分で何とかしてくれ」
つまり、一般教養は自分で何とかしろと言う事か。
もののけ狩りの専門学校なので、それも仕方が無いと思うが、一般社会に戻った時に苦労するだろうから、勉強はやれる時にやっておこう。
「それでは、ここ2日間で行われた狩りで、何か質問や意見があったら言ってくれ」
それを聞いた瞬間、俺は素早く挙手をする。
「はい、一狼君」
「そろそろ普通の仮衣装が欲しいのですが」
「うむ、却下だ」
「何で!?」
思わず立ち上がった俺に対して、兵子が冷静に話す。
「君のあられもない姿は、狩人専用サイトで人気となって居る。今や専用のページがある程だ」
「公開されてるんですか!?」
「これは、姫山の良い宣伝となるので、一狼君にはこのまま頑張って貰う」
「選択権無しかよ!」
正直物凄く不服だったのだが、選択権は無いと言う事なので、諦めて椅子に座り直す。
それにしても、兵子は気になる事をもう一つ言っていたな。
「あの、狩人専用サイトって何ですか?」
それを聞くと、今度は未来が口を開いた。
「もののけ狩人専用サイト、通称『もか専』だよ。そこにアクセスすれば、もののけの事や狩人の事が分かるの」
「そこにはどんな内容が載ってるんだ?」
「もののけの生体や一般市場での相場。後は各霊山に居る狩人の詳細かな」
「成程。そこに俺の無様な姿が載ってる訳だ」
「うん、そうだね」
未来さんも否定はしないんですね。
「ちなみに、一狼は初日から色々やらかしたから、狩人のアクセス数は現在トップになってます」
「よーし、笑えないぞ?」
「ほら、これだよ」
未来が机に置いてあったタブレットを起動して、俺のページを表情する。
そのページには、今までの俺の無様な姿と共に、いつの間にか取得していた称号が書き込んであった。
「なあ未来、この称号の所の『ブービー』って何だ?」
「初日に警告無しで霊山に入って、瞬殺された人の称号」
「じゃあ、この『ホープ』は?」
「狩人になって1ヶ月以内に、一階層の主クラスのもののけを狩った称号。黒夜叉がそうだね」
テレビゲームそのまんまだな。
「まあ、そう言うチグハグな称号も相まって、一狼は今一番の注目株になってる訳ですよ」
「はあ、そうですか」
全く笑えない。
更に笑えないのは、俺の所持している怪物の欄に、しっかりと成章の名前が書いてある所だ。
「この怪物の所持欄、隠す事は出来なかったんですか?」
「残念だが、狩人の情報は完全公開する事が、国の法律で決まっている」
「つまり、俺の事は狙い放題と」
「戦闘経験が沢山積めて良いじゃないか」
兵子の言葉に鼻で笑う。
俺は狩人としてもののけを狩りたいだけで、対人戦闘をしたい訳では無いのだが。
「とにかく、一狼君の意見は全て却下だ。君にはこれからも、姫山のピエロとして働いて貰う」
「あ、姫山のピエロって、二つ名として良いんじゃないかな?」
「そうだな。その名を一狼君の欄に登録しておこう」
兵子が自分のスマホを操作して、俺の二つ名が書き込まれる。
俺は文句の一つでも言おうとしたが、このメンバーに対しては何を言っても無駄だろうと悟り、大きなため息を吐いて全ての事を受け入れた。
「良し。それでは、狩りの反省はこれで終わりとする」
「まだ何も反省してない気がするんですが」
「それより一狼君。今日は成章を持って居ないようだが?」
首を傾げてくる兵子。
成章を龍治に奪われたのは知っている筈なのに、どうしてそんな事を聞いてくるのだろうか。
「怪物は狩人と一心同体だ。あまり疎かにして居ると、成章に嫌われてしまうぞ?」
「それを言ったら、未来も持ち歩いて居ないですよね」
「私は持ってるよ。ほら」
未来が耳元の髪を掻き上げる。
そこに見えたのは、赤い宝石が入ったピアスだった。
「まだ名前は無いけど、これが私の怪物です」
「へえ、どんな効果があるんだ?」
「簡単に言えば、もののけ道具を作る為の鍵かな」
意味が分からずに首を傾げる。
「もののけの素材って特殊だから、普通の工具や加工機では加工出来ないの。それで、専用の加工器具と同調する為に、このピアスが必要なんだ」
「そうなのか」
「だから、今怪物を持って居ないのは、一狼だけだね」
それを聞いて、残りの二人を伺う。
良く見ると、兵子は教鞭の代わりにナイフを使い、猫は腰にホルスターを巻いていた。
「困ったな。どうやら持っていた方が良さそうだけど、俺は今、成章がどこにあるか分からないぞ?」
「それならば、この部屋内を探せば、見つかると思いますよ」
それを言ったのは、猫。
そう言えば、前にも同じような事を言っていたな。
「先日言った通り、成章は千本以上有ります。そのうちの一本が常に主の元に居るのも、特性の一つですから」
「ああ、だから前も草むらにあったのか」
納得した俺は、早速教室内を散策してみる。
まずは机の下。覗き込んだ瞬間に女子二人がスカートの裾を押さえたのは、見なかった事にする。
次は移動してカーテンの裏。草むらにあった位だから雑多な場所にあるかと思ったが、見つからなかった。
「うーん、無いなあ」
「成章はいつでも近くに居ますが、基本的には主の視界の外に隠れています。ですから、見えない場所を探すと良いと思います」
「そうなると、残る場所は……」
全員がその場所を凝視する。
「……まあ、可能性としては有り得るけど、好んであそこに収まるか?」
「何を言うか。銃を入れるには丁度良い大きさではないか」
「私もあそこだと思います」
「私もあそこだと思うなー」
俺以外の全員の意見が一致する。
仕方なく俺はその場所へと向かい、恐る恐る扉を開けて見た。
「……あったよ」
成章が見つかった場所。
教室の端にある、掃除用具ロッカー。
「お前は本当にそれで良いのか?」
「良いんじゃないかな。ある意味、同じ掃除道具だし」
「何の掃除だよ」
「え? 自分を奪いに来る邪魔者達だよ」
成程、未来はこの銃で狩人達を掃除させる気なのか。
何はともあれ、成章は俺の元へと戻って来てくれた。
これで俺も、もののけの狩人を続けられる……
「あれ?」
バケツから成章を引き抜こうとした時に、ふと気が付く。
成章の形状が、今まで見ていた物と違う。
(これは……)
バケツから引き抜き、形状を眺める。
全体像は変わっていないのだが、銃の上部分に付いていたレールに筒が装着されており、その後方に釣りで使うリールのような物が装着されている。
「兵子さん」
「何だ?」
「成章が銃からバズーカに変わったんですが」
「ふむ、医務室なら廊下を出て左だ」
「俺はまだ正常です」
それだけ言って、皆に成章を見せる。
兵子と未来はキョトンとしていたが、猫は何かを知ってるようで、成章を見ながら笑顔で口を開いた。
「これは、環境変幻ですね」
「かんきょうへんげん?」
初めての言葉に首を傾げる。
「成章の特性の一つです。千本以上ある成章は、日本の至る場所に存在して、その場所の情報を共有しているんです」
「それは凄い事ですけど、それとこの変形が、何か関係しているんですか?」
「はい。恐らく成章は、一番近くにある霊山の情報を読み取り、そこで使用するベストな装備に変形したんです」
そんな話を聞きながら、未来が筒の中を覗き混む。
「んん? もしかして、これは……」
「何か見えたのか?」
「ええと、ちょっと待ってね」
未来がひょいと成章を持ち上げて、全体を確認する。
……おかしいな。確か未来は成章を持てなかったはずなのだが。
「あ! これ銛だよ!」
「銛?」
「そう! 銛!」
「何で銛?」
「それは分からない!」
ですよね。
しかし、俺達とは違い、兵子と猫は何かを察したかのように、ニヤニヤと微笑んでいた。
「成程、銛か」
「そのようですね」
「ふむ。それでは、全員今すぐ狩猟装備に着替えて、姫山の麓に集合だ」
唐突に始まった狩猟告知に、俺と未来が戸惑う。
「何かあるんですか」
「ふふふ、それは姫山に入ってからのお楽しみだ」
「ああ! そう言う事かぁ!」
俺の横で未来が何かを悟る。
これで、状況が全く分からないのは、成章の持ち主である俺だけになった訳だ。
「とにかく山だ。一狼君は今日の衣装を宿直室に置いておくので、それを着て麓に集まるように」
それだけ言って、皆が早足で教室から消える。
取り残された俺は、ふうと小さく息を吐き、成章を持ってゆっくりと教室を後にした。




