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プロローグ 桧山一狼が銃を拾いました

 この世界で真っ当に生きるには、金が必要である。


 金さえあれば、日々の節約の為に、野草を食べずに済む。

 金さえあれば、暇潰しに同じゲームを何度もやらずに済む。

 そして、金さえあれば、同じ境遇に居る母や妹に、苦労を掛けずに済む。


 だからこそ、俺は華の高校生活最初の日曜日に、近くの川辺で廃品を集めるアルバイトをして居た。


「一狼! 桧山一狼(ひやまいちろう)!」


 雇い主の親父に名を呼ばれたので、休憩中にやって居たゲームの手を止める。


「何ですかー!」

「こっちは大体終わったぞ! そっちはどうだ!」

「もう終わってまーす!」


 叫んだ後、ゲーム機をポケットにしまい、ゆっくりと立ち上がる。

 黙々と繰り返されていたゴミ回収作業。

 最初に渡されたゴミ袋は既に一杯になり、二袋目に突入していた。


(一袋30円か……)


 足元に置いてあるゴミ袋を眺めながら、小さくため息を吐く。

 近所の親父から頼まれた手伝いバイト。

 正直割に合わないのだが、バイト禁止の高校を停学になる訳にもいかないので、仕方なくやって居る。

 稀に掘り出し物を見つける事もあるのだが、それも結局親父に取られてしまい、俺の取り分が一定以上になった事は無い。


(金さえあればなぁ……)


 何度も繰り返して来た問答。

 もし俺に特別な才能があったら、その才能を活かして金を稼げるのだろうが、残念ながら俺にそんな才能は無い。

 ならば宝くじでも買って、一攫千金を狙おうかと考えた事もあったが、俺の持ち金で買える枚数など高が知れて居て、そうする位なら堅実に貯金した方が良い。

 結局、今の俺に出来る事は、目の前にぶら下がる金を得る事だけなのだ。


(もっと割の良い仕事でもあれば、こんな仕事をしなくて済むのに……)


 そんな事を考えて居ると、右足に硬くて重い何かが当たる。

 こんな川縁にある物と言えば、不法投棄された電化製品か、放置された自転車か。

 それでも、大型ゴミは袋とは別にバイト代が加算されるので、少々の期待を持ちながら足元のそれに手を伸ばしてみた。


(……え?)


 そして、そんな俺が手に取った物は。

 古びた一丁の『銃』だった。


「何でこんな所に!?」


 思わず大声を発してしまう。

 すると、その大声に反応して、雇い主である親父がこちらに近付いて来た。


「何だ? 何か見つけたのか?」

「え? いや、何と言うか……」

「掘り出し物か!? 見せろ!」


 俺は咄嗟に銃を隠そうとしたが、時既に遅く、銃を見た親父は俺の顔を見て、ゴクリと息を飲んだ。


「……一狼」

「はい?」

「お前には悪いが、俺は面倒事に巻き込まれたく無いんだ」

「……はい?」


 ポケットからスマホを取り出す親父。

 そんな親父が電話を掛けた先は……


「あー済みません。銃を持った若者を発見したのですが」

「ちょ、ちょっと!?」

「ええ、はい。その川縁です。私が大人しくさせておきますので」

「親父さん!?」


 通話を終えた親父がスマホをポケットにしまい、改めてこちらを見る。


「一狼。俺は銃を持って居たお前を、この川縁で偶然発見した。良いな?」


 そう言って、ニコリと微笑む親父。

 この親父は、俺の住んで居るアパートの大家だ。ここで抵抗すれば、同居して居る母や妹も、一緒に追い出されてしまうだろう。

 つまり、この銃を見つけてしまった時点で、俺の運命は決まって居たのだ。


「……分かりました」


 言いたい言葉を全てのみ込み、ゆっくりと空を見上げる。

 何も持っていない俺は、この世界で全うに生きる事など出来ない。

 金や権力で巻き起こる理不尽に、抗う事が出来ない。

 だけど、仕方が無い。

 全ては、何も持って居ない俺が悪いのだから。



 ……などと、己の境遇を嘆いて居たが。

 まさかこの一本の『銃』が、これからの俺の世界を一変させるなど、この時は思いもしなかった。

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