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後編

 こうして俺は、新国王として忙しくも充実した日々を送り始めた。


 目指すのは、国王や貴族なんかを、誰もが特に羨ましいと思わない世の中である。


 思うに前王があれほど強引な対外政策を押し進めていたのも、貴族を食わせるため、という面もあったのだろう。

 なにしろ貴族というのは、領地を欲しがる連中がほとんどだからだ。

 国王領に穴を開けるよりは、他国からもぎ取った方が良い、という論理であったわけだ。


 そこで俺は、隣国の王の後ろ楯(彼にはかなり気を遣っているのだ)を良いことに、貴族から領地を没収した。

 各領地の主はそのまま、知事という形で任官させてやった。

 前世でいう廃藩置県だ。違うかもしれないが、そんなものだろう、たぶん。


 おかげで 『領地では王様』 的思考はもう通らない。

 領民にまともな暮らしを送らせてやれないヤツは、更迭される。


 驚くべきことに、それだけでも生産性が向上した。


 すごいな、みんなやればできるんじゃん!


 俺はできる限り国を回り、皆をほめて、ポケットマネーからご褒美もあげて、イイところを伸ばしてやるようにした。


 皆は反発もあるだろうに、俺を一応エラいと認めてくれて、ほめてご褒美をあげるとすごく喜んでくれるのがありがたいと思う。


 ほとんどのヤツはいいオジさんだけど、喜んでくれている時の顔を見ると、前世の姪を思い出す。


 けっこう、かわいらしい。



 そんなことまでしているものだから、俺のスケジュールは殺人的といってもいいものだ。


 本当なら、美しい俺の奥さんと、それから子供ともっとゆっくり過ごせる時を増やしたい。

 前世でしばしば羨ましいと思っていた、ホームドラマな光景は、今世でもけっこう、夢のままである。


 でも、俺は頑張る。

 俺じゃなくて、この国の皆がホームドラマな光景の中で笑えるよう、頑張るのだ。




 けれど、年に1回。

 秋の収穫を祝うこの日だけは。


「こくおうさまぁぁぁ」


「こらこら、パパのことはパパと呼びなさい、チイちゃん」


「チイじゃなくてリアとよんでくださいませ、こくおうさま!」


 ツン、とそっぽをむく小さな王女様を抱き上げる。


「パパにとっては、かわいいかわいいチイちゃんだからね。パパだけのチイちゃんだ」


 言いながら高い高いをすると、笑顔がはじけた。


 可愛いな、俺の娘。


 本当に、もっと、一緒に遊んでやったり、野原でピクニックしたり。

 花冠をかぶる娘とか、天使だろうな。

 もっとそばで、成長をゆっくり見守りたいな。


 そうだ、今日だけは、できる限り、そうしよう。

 好きなだけ抱っこしてやるし、高い高いもしてやるし、かくれんぼも追いかけっこもしてやろう。

 お馬さんにもなってやるぞ。


 だから、パパのことは『パパ』と呼んでくれないかな。

 たった1人の、大事な娘よ。




「あなた、リアちゃん」


 庭にバスケットを持った奥さんが現れた。

 暖かな日差しの中で、女神様みたいにキレイだ。

 そして明るい笑顔は、秋の日差しよりも、女神様よりも、ずっと暖かでパワフルだ。


「パンプキンパイ、召し上がりません? 侍女たちと作ったの」


「いただくよ」


 木陰に親子で輪になって腰を下ろす。


 侍女や衛兵にも一緒に座るよう、勧めたが 「まさか久々の家族団欒をお邪魔するわけないでしょう」 と断られてしまった。


 で、少々離れた所に待機する侍女。

 気配をあまり感じさせないよう守ってくれている衛兵たち。

 彼らからチラチラ送られる視線……


 これが『生温かい目』ってやつか。


 けっこう毎回だけど、けっこう感動する。

 そんでもって、けっこう恥ずかしい。

 だが毎回だから、もう気にしないことにしている。



 俺はバスケットからパンプキンパイを1切れ取り出し、奥さんの鮮やかな唇をツンツンつついて、開けさせる。


 顔を真っ赤にしながらパクッと食べる奥さんは、あのダンスパーティーの時よりも、もっと可愛い。

 毎年毎年、どんどん可愛くなっていくな。


「どうぞ、リアちゃん」


 奥さんが娘にパンプキンパイを渡す。娘はひとくちかじって、「おいしい!」 と笑った。


 来年も、この笑顔が見られますように。

 心の中でコッソリと、そう祈る。


「はい、パパ! あーん!」


 娘が差し出してくれたパンプキンパイを見て、奥さんがニコニコとたしなめる。


「あら、リアちゃん。新しいのを差し上げなさい」


「いいよ。パパは、これがいい」


 娘がかじったところからパクっと食べて、俺は笑う。


「パパ、ないたぁぁ!」 娘がおかしそうにはしゃぐ。

「ね、パパなんでなくの? なんでなくの?」


「しあわせだからね」 娘を膝の上に抱っこして、もうひとくち、もらう。


「可愛いお姫様と素敵な王妃さまと、こうして今年もパンプキンパイを食べられて、しあわせだからね」


「じゃあ、あしたもたべようよ! あさっても! そしたら、パパ、ずっとあそんでくれるでしょ?」


「そうだね。そうしたいなぁ」


 そっと、娘の頭を撫でる。

 俺の涙を、奥さんのしなやかな指先が、ぬぐってくれた。

読んでいただきありがとうございます。

あと、エピローグ1話で終了です。


11/2 誤字修正しました。報告下さった方、ありがとうございます!

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【シンデレラ転生シリーズ】

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