放課後、屋上、自殺クラブ
基本的にはコメディです。
別に希死念慮を茶化すつもりはありません。
死のうと思った。
生きるのが辛くてしょうがなかった。
だから、屋上から飛び降りてやろうと思った。
赤い夕日を睨み、鉄格子のような柵に手をかける。錆が僕の人生みたいに醜く這っていた。
夕焼けに染まる街景色は美しい。
せめてもの、救いだ。
そんな風に感傷的になりながら、よじ登るために足をかけたときだった。
背後の鉄扉が、さながらホラー映画の過剰な効果音のような大きな音をたてて、ガチャンと閉まった。
誰かが来たらしい。鍵を開けっぱなしにしていたと、このときはじめて気がついた。こんなところに誰だろう、と振り返ると、一人の女生徒が立っていた。
小柄で髪の長い、クリクリとした瞳が印象的な女の子だった。
彼女にトラウマを植え付けるのは心が傷んだが、構うもんか、こっちだって緊急だ。今この思いが風化してしまう前に、決着をつけよう。
がしゃん、と気の抜けたような音がして、フェンスが風に揺れた。
このまま、遠くへ。
「あっー!」
彼女は僕を見つけると、指差して叫んだ。
何しに屋上に上がったのか知らないが、止めないでほしい。
僕はただ、静かに死にたいのだ。
「ちょっと! アタシが先よ!」
「……え?」
動かしていた手足が硬直する。彼女の言葉が理解できなかった。
「このままじゃあんたの後追いみたいになっちゃうじゃない!」
彼女はプリプリと文句を言いながら、乱雑なパイプ郡を乗り越えて、ツカツカと僕の前に立った。
無視して進めば良かったが、先ほどの彼女の言葉の真意が理解できず身動きがとれずにいた。
沈みかけた夕陽が彼女の影を長く伸ばしている。
「誰の許可でここにいるの? なんで死のうとしてるのよ」
「……死のうとなんてしてないよ。僕はただ、柵の向こう側で、……黄昏れたいなって、思っただけで」
いまはただ自分を偽ってでも、彼女と離れるべきだと判断した。
まったくもって信じられないことだが、彼女の言い種を無条件に信じるのなら、僕より先にここから飛び降りたいらしい。
世界は広いし、自殺志願者が被ることもあるだろう。驚くべきはここが樹海や東尋坊などではなく、普通の中学校の屋上ということだ。
「嘘よ」
彼女は鼻を鳴らすと、僕のケツポケットに入れられていた遺書を見下すように見た。
「あんたは死ぬ気ね。人生の最後なのにこんな下らない終わりでいいの?」
「なんなんだよ、キミ」
彼女は僕の発言を無視して、僕のポケットから勝手に遺書を抜き取ると、止める間も無く、広げて、読み始めた。
まあ、別に構わない。B5のルーズリーフに綴られたそれは、放課後の机で綴られたものだが、内容的にはほとんどが糾弾書に他ならない。
僕を除け者にして、嘲笑の的にしているあいつらに対しての恨み言だ。
「ふーん」
全部読み終わったのか、彼女はペラリとそれを人差し指と親指でつまんで、
「つまんな」
と言葉と共に吐き捨てた。
秋風にさらわれて、この世への手紙が遠くに飛んでいく。
べつに今さらどうしようとも思わなかった。それほどまでに心が疲弊して、体が動かなかったのだ。
「こんなん書く暇があったらボクシングジムで体鍛えなさいよ。筋トレして、筋肉つけりゃ一発で解決でしょ。ぐちぐちぐちぐち、いじめられる方にも原因があるってのは間違いじゃなそうね」
随分と辛辣だ。通ったことないけど、スクールカウンセラーだってもっと親身になってくれるだろう。
「まったくもって下らないわ。ありがちな悩みで死ぬなんてアホの極みよ。いっぺん死んだほうがいいんじゃない?」
「さっきからなんなんだよ」
「ぷっ。今のギャグちょっと面白いわ。自殺志願者に対していっぺん死んだほうがいいって、ケッサクだわ」
「つまらないよ。それこそ死んだほうがいい」
この子はなんなんだろう。急に現れて僕の気分を阻害しにきたのだろうか。ネクタイの色から判断するに一個下の学年だ。
「キミだって死にに来たんだろ。ここに」
「ええ、そうよ。と言ってもアタシは下見だけどね」
自信満々に胸を張る。とてもじゃないが、希死念慮を抱くようなタイプには思えなかった。何に対しても自信満々といった風で、眩しくて直視できないようなタイプだ。
「ならキミはなんで死にたいんだよ。僕の動機を茶化すなら、それこそ崇高な理由があるんだろうな」
「ちょっと難しい言葉使わないで。なに言ってるのかわからないじゃない」
「わかった。バカだから死にたいんだ」
「シツレーなこと言わないでよ!」
見た目は聡明そうな女子だったが、頭の中は空っぽらしい。彼女は唇を尖らせて続けた。
「こう見えてもアタシ、恵まれてるわ」
胸に手を当てて、誇らしげに続ける。
「美少女だし、家はお金持ちだし、頭もいい。完璧でしょ?」
少なくとも頭は良くない。
短時間で看破できるほど、彼女の発言には教養が無かった。
「だけど形あるものはいつかは崩れる。しゅぎょうむようってやつよ」
諸行無常のことかな。
「だから、アタシは若くてきれいなうちにアーティスティックに死のうと思ったのよ」
言い放つと髪をかきあげ、悩みが無さそうな自信満々な瞳で僕を睨み付けた。
「どう? これほど素敵な死はないんじゃない? 残された人たちは私の死の理由を国語の授業みたいに考え続けるの。伝説よ。私はLEGENDになるの」
彼女は鼻息を荒くした。
「これがアタシの死にたい理由。あんたのイジメなんてダサいでしょ? わかったらさっさと駅前のジムに入会して、筋トレしなさい」
「キミの理由だってわりとありがちだよ」
「はあ? ふざけないでよ。アタシの理由のどこがありがちなのよ」
「人気絶頂期にバンドマンやアイドルが自殺するのはよくあることだよ」
発生頻度は高くないが、あり得ないことではなかった。
「影響力がある人が自殺して、ファンが後追い自殺することをウェルテル効果と言うくらいだし、キミのアーティスティックな死はもうすでにやりつくされてるんだ」
「ぐぬぬ……」
握りこぶしを作って彼女は僕を睨み付けた。
「わかったら家に帰ってお風呂入ってママのご飯でも食べて温かい布団で眠りな」
しっしっ、虫を追い払うように手をふったら、彼女は僕の襟足をつかみ、乱暴に地面に放り投げた。
「うわっ、ちょっと!」
「うるさい、ばーか!」
アスファルトに転んだ僕を見下しながら、彼女はダンと地団駄をふんだ。
「そんな風に理屈っぽいからみんなから嫌われるのよ! ばーか!」
「ほっといてくれよ。関係ないだろ」
「へへーん、アタシはみんなから好かれてるもーん。めっちゃモテだもーん」
少なくとも僕は嫌いだ。
ズボンの砂ぼこりをはたきながら起き上がると、彼女は相変わらず人を小バカにしたような間延びした言い方で、惜しげもなく言葉の暴力を披露していた。
「あんた、モテなさそうだもんね。かわいそー」
「いま容姿の話は関係ないだろ。早く帰ってくれ」
「関係あるんですけどー。あんたが自殺する理由は不細工だからでしょ? ちがうー?」
「さっき僕の遺書読んだよな?」
バタバタと風にはためきながら、奥のパイプに引っ掛かっているのが横目に見えた。
「読んだけど、ただグチグチ、こいつらにこーゆーことされた! としか書いてなかったじゃん。あんたがネクラなのはわかったけど、死ぬほどのことではないわ」
ある意味本質をついたような発言だったが、あくまでそれは世間一般的には、だ。
人によってはペットのハムスターの死すら自殺の理由になるだろう。
他人に個人の思いを推し量ることなんて、不可能なのだ。しかし、彼女は決まりきったことを言うように自信満々に続けた。
「あんたはモテなくて、カノジョが居なくて、童貞だから死ぬんでしょ」
「違うわ」
「はい嘘ー」
ニタニタと口角をあげながら彼女は僕を小突いた。
「とーけー的に見て、非童貞は自殺しませーん」
「そういうデータあるのかよ」
「ありまーす。カノジョもちが自殺するわけないもんねー」
「お前の感想だよな」
「カノジョがいて幸せな人が死ぬわけないじゃん。普通に考えなよー」
バカには何を言っても……。
「もうなんでもいいからほっといてくれよ。キミは別のどこかで完璧なアーティスティックな自殺をしてくれ。悪いけど、ここは僕に譲って」
「あっ、ちょっと待って」
「ん?」
フェンスを掴んだ僕の肩を掴んで彼女は舌打ちをした。
「アタシもいま付き合ってる人いないのよ」
「だからなんだよ」
「アタシが死ぬ理由は誰にも想像出来ないものじゃないとダメなの。わかる? 完璧な人間がアーティスティックに死ぬから残された人たちが色々と考えてくれるのよ」
「キミの思考回路を解読するのは難解そうだ」
どういうことかよくわからなかったが、彼女は僕の襟足を再び掴んで地面に転がすと、
「なにするんだ!」
という僕の反論を無視して、
「特別あんたと付き合ってあげる」
と上から目線で訳のわからないことを呟いた。二の句が告げず戸惑う僕を無視して彼女は「ただねぇ……」と眉間にシワを寄せて、
「アタシと付き合う人は完璧じゃないといけないの。あんたみたいなウジ虫じゃ、それが理由で自殺したと勘違いされちゃうわ」
「腹立つやつだな」
立ち上がり、睨み付ける。ポケットで屋上の鍵が鈴の音のようにチャリチャリ鳴った。もうこいつを殴って昏倒している間に事を遂げようかという衝動に刈られる。
「アタシに見合う男になりなさい。そんなナヨナヨじゃだめよ。筋トレして、マッチョになって」
さっきからそればっかだな。
「断る。そもそも付き合わない。なんなんだよ、さっきからほっといてくれ、頼むから」
「どうしても死にたいのね」
「ああ」
「んー。困ったわ。このままだと恋人が先に死んだからそれに引きずられたと思われちゃう」
「は?」
そもそもにして付き合ってませんけど。
「アタシの自殺は今までで一度も無かった世界的にアーティスティックなものじゃなきゃだめなの。わかったら死ぬのやめてちょうだい」
「わかったぞ。結局訳のわからないこと言って僕の自殺を止めるつもりだろ」
奇をてらった引き留め方だったので、のまれていたが、なんてことはない。
頭空っぽに見えて案外物事を冷静に判断できる女の子なのだろう。
「何言ってるのかわからないけど、自殺やめてくれるならアタシのパンティあげる」
「わけわかんねぇのはお前だよ……」
「アタシみたいな美少女のパンティ貰えたらラッキーでしょ? 今が月曜日でも生きてればラッキーな金曜日を迎えることができるのよ」
「今日は金曜日だ」
あとべつにパンティは欲しくない。
「もう、めんどくさいわね!」
それはこっちの台詞だった。
「だったらあんたはなんで死にたいのよ」
彼女の豊かな虹彩が夕陽を宿して真っ赤に燃えていた。
「さっきから、言ってるだろ……」
「違うわ、あんたがイジメられてるのはわかったけど、イコール死の理由にはならないもの。いじめられっ子が全員自殺したら、世界に人間は居なくなるもの」
あまりにも純粋な瞳に見つめられ、僕は言葉を失いそうになったが、数秒を無言で馴らし、やっとのことで、自分の思いを口にできた。
「辛いから……。あいつらに……」
「いじめられるのが?」
「違う。辛いのは、生きることが、だ」
「ふーん。その程度で死にたいもんなのね」
「この先、何十年、ずっとこんな思いを引きずるのが、堪らなく嫌なんだ。だから……」
「ありがちだわ」
理由なんて人それぞれだ。だけど、なりより、
「誰かに見下されるように、心配されるのが、嫌なんだ。それが、辛い」
「あっそ。なら心配してあげないから、とりあえず私の彼氏としてしっかり筋トレしてね」
人の話を聞かない女だ。
「さ、ひとまず帰るわよ。これから忙しくなるんだからね」
彼女は僕の腕を絡めとるようにしてつかむと、そのままずるずると出口に引きずろうとした。
「離せよっ!」
思いがけず強い口調で彼女の腕を振り払っていた。「きゃ」と短い悲鳴をあげ、彼女はその場に尻餅をついた。
「痛いわ。なにすんの?」
「ほっといてくれって言ってんだろ。いい加減にしろよ。僕に構わないでくれ。キミは何がしたいんだ」
「……仕方ないわね。特別に教えてあげる」
パンパンとスカートのホコリを払いながら立ち上がると、彼女は胸ポケットから一枚の紙を取り出した。
「……なにそれ」
「アタシがあなたに構う理由よ!」
ふふふ、と笑いながら紙をこれ見よがしにパタパタとさせる。
「いや読めないんだけど」
「読みたかったらアタシに従って」
「じゃあ、いいよ」
「ちょ、ちょっと、少しは興味持ちなさいよ!」
結局彼女はかまってほしいだけなのだろう。僕に向かって見えるように紙を突きつけた。
汚い字で読めなかった。
暗号を解くように首を捻る僕に彼女は「どう?」と訊いてきた。
内容が理解できないので、「なにが?」と返事をすると、唇を尖らせて、
「アタシの計画書よ」
と不機嫌そうに吐き捨てた。
「計画?」
「数学の時間暇だから考えたのー」
だから成績が落ちるんだ。
「どうすればアーティスティックに死ねるか」
「真面目に授業受けろよ」
「死ぬ前にそんなことは些細なことだわ。いい? 一つのプランが出来上がったけど、自殺じゃどうしても叶えられない」
落とし穴に誰かがはまるのを眺めているような、そんな不健全な瞳をしていた。
「アタシのアーティスティックな死には誰かの協力が必要なの。どうせ無理だと諦めてたけど、ここであなたに出会えたのはラッキーだったわ」
もしかしてこの女、僕に自分の自殺を手伝わせようとしているのだろうか。
「アタシを芸術的に殺す権利をあげる。世間はアタシの死、一色になるわ」
「そんな権利いらない」
「なんでよ。どうせあんたも死ぬつもりなんでしょ? だったらアタシを殺してから死んでよ。痛いのは嫌よ」
「自殺幇助なんてまっぴらごめんだ」
「難しい言葉使わないで、何言ってるのかわからないから」
そんなに難しい言葉使ったかな?
丁重にお断りの言葉を告げようとしたとき、ドヴォルザークの「家路」が町内に響き渡った。
夕焼けは夕闇に変わり、カラスが鳴き声をあげながら山へ帰っていく。
一番星が紫がかった雲の隙間で輝いていた。
「ま、今日はもう遅いから、明日からよろしくね」
彼女は右手をパッとあげると、僕の呼び掛けを無視して、スカートを翻し、走りだした。そのまま天狗のような身のこなしで屋上のパイプ郡をひょいひょいと乗り越え、出口のドアノブに手をかけた。
「ああ、そうだ」
少しだけ、ドアを開けた状態で振り返る。
「あなたの名前は何て言うの?」
「あのさ、悪いけど、キミの提案には乗れな……」
「ま、名前なんてどうでもいいか」
返事を聞く気なんて、はなから無いのだろう。「さよなら」と呟くと、ガチャンとドアが閉まり、謎の少女は僕のまえから姿を消した。
なんだったんだ、あいつは。
屋上に再び一人きりになる。
静かに吹き抜ける風。沈みきった太陽。
光源の届かない、屋上は暗闇に包まれていた。
「……」
こんな最後、いかにも間抜けだ。
夜虫が鳴き始めていた。秋は深まるばかりだ。
死ぬ気を阻害された、それは間違いない、だけど、
「構うもんか」
振り返り、網目のようなフェンスに手をかける。
がしゃんがしゃんと音をたてて、登り始める。
手足を動かす度、僕は天国に近づいていく。誰よりも、どこよりも高い位置についた。フェンスを股ぐようにして、夜空を見上げる。気持ちのよい風が吹いていた。
ほんの少しの時間そこでじっとして目を閉じた。知らず知らずのうちに涙が流れていた。いままで生きてきた後悔、これから旅立つことに対しての不安、そういう感情が頬を伝って、顎の先から地面に落下する。
「ふぅ」
気持ちを切り替えた。
浅くため息をついてから、今度は屋上の縁のほうに足を下ろしていく。
今生、さらば。
向こう側の世界にやって来て、随分と狭いな、と思いながら、足をつく。
「……」
吹き上げる風が強かった。
下を見ると、地面があまりにも遠くて目が眩みそうになった。広いはずの校庭が真っ暗なキャンパスみたいに口をぽっかりと広げている。
背筋が凍る。
全身を包み込む悪寒。
ここに来て僕は、はじめて『死ぬ』ことについて考えていた。
いままでのそれが全部ただの妄想だったと感じた。
そうだ、これが『死』だ。
その先になにがあるのかわからない不安感、それが眼前に確かな存在感として聳え立っている。
からだが震えた。はっきりと、わかる。僕は怖じ気づいているのだ。
「あ……っう」
口で強がっていただけだった。死ぬことはなによりも恐怖だ。
痛いのは嫌だ。死にたくないと、いまなら感じる。
「あ……」
喉が渇いた。
この局面において、僕の体はなおら貪欲に生きようとしていた。
「ああ……」
膝を折って項垂れる。
眼下に広がる校舎のエントランスのガラス扉が開き、能天気な顔した女生徒の頭頂部がちらりと見えた。
さっきしつこく僕に迫っていた支離滅裂な女生徒だ。
彼女は死にたがっていた。僕とは異なる理由で。人をバカにしたような理由で
それがいまじゃ、ご機嫌に帰宅しようとしている。
アイツはこの、死の恐怖を本当に理解しているのだろうか。
いや、絶対にしていないだろう。
一度でもこれを味わったら能天気に「アーティスティックに死にたい」なんて言えないはずだ。
なんだか、腹が立ってきた。
僕が本気で悩んでるのに、あの女はただなんとなく伝説になりたいとかいうアホみたいな理由で自殺しようとしていたのだ。
そんなアホと同列に語られるのは僕の悩みがあまりにもかわいそうだ。
いっそのことここから飛び降りて、彼女にダイブしたら、そんなバカな考えが浮かんだ。
そしたら二度とアホなことを言えなくなる。
そうしてやろうか。
憎しみに似た逆恨みをぶつけてやろうと、僕は身を乗り出したが、
「うう」
やっぱり怖くて無理だった。
そうこうしているうちに少女は校門を抜けて、遠くに行ってしまう。自分のウチに帰るのだろう。
僕にだって帰る家はある。学校に馴染めない僕を親は心配しているだろう。
だから、なんだ。これは僕の人生だ。
だれかに命令されて生きてるんじゃない。
立ち上がる。
死んでやる。
自分で電源を落とすくらい許された権利だろう。そうさ。
あの女の鼻を明かしてやるんだ。誰が殺してやるもんか。死ぬなら勝手に一人で死ねばいいんだ。
あの女の……。
「あ」
足は動かない。代わりに、僕は、
「あの子、なんて名前なんだろう」
と、どうでもいいことを呟いていた。
嘘か真か、自殺防止用の看板で効果的なメッセージは『自分の肘を舐めることはできない』といったようなどうでもいいメッセージだそうです。
そんなどうでもいい作品です。