手違いで死んでしまったことから始まる第2の生
お金持ちって憧れるなぁ…
あっ、 と誰かの声が聞こえた気がした。
あっ、 と自分が声を出した瞬間でもあった。
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目を覚ますと俺は知らないところにいた。
えっ…俺は死んでしまったのか??夜、近所の電灯の下で自販機で買った缶コーヒーを飲んでいたはずなんだが…。
ここは何もないところで、見渡す限り白い世界が広がるばかりだった。
記憶を辿ってみるもコーヒーを飲むまでの記憶はきちんとあるし、コーヒーを飲んでいる時からいきなり記憶が途切れている。そういえば意識を失う瞬間に誰かの声が聞こえた気がする。その声の主と俺が今ここにいることは関係しているのでは無いだろうか。
そう思い周囲を見渡すが何も、誰もいない。
立って歩き廻ってみるが何も見つけられない。
とりあえず落ち着こうと手を組み腕を伸ばしてふと上をみた瞬間、 それ はそこにいた。
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「あ、あははは〜どうも〜」
と気まずそうに声を発したのはどうも少年、らしい。
らしいというのは姿がはっきりと見えないからだ。なんだか全体的にぼんやりとしている。
目を凝らしてみると……驚いたことに天使の輪っかと羽があるではないか。
「俺は…死んだのか……?」
「えっ…あっ、そういうことになりますねぇ…」
あまりにも軽くて簡潔なその返答に思わず顔をしかめ、その少年を睨みつける。
するとその少年は気まずそうに、しかし自分にも言い分があるのだという顔でぽつぽつと語り始めた。
「僕が悪いんだよ?でもだね、本当に似てたんだ。」
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少年の話によると俺は確かに死んでしまったらしい。
少年の仕事はある特定の人の魂を回収してくることで、俺の魂はどうやら彼の不手際で間違ってここに連れてこられてしまったらしい。
帳簿(閻魔帳というやつか!?)に書かれた魂なら持っていく所が決まっているのだが俺は間違って連れてこられた存在のため持っていく所が決まっておらず一時的にここに置かれているということだそうだ。
「なぁ…不手際で間違って回収されてしまった…ということなら元に戻してくれないか?俺、今魂だけの存在なんだろ?元の世界、元の体に戻りたいんだ。」
そういうと少年はこれまた気まずそうに目をそらしつつ言った。
「そうもいかなくて……魂というのは一方通行なんだ……」
それじゃあ俺はこのまま死ぬのか……と絶望しかけた手前、少年があまりやりたくはないんだけど…と口を開いた。
「あまりやりたくはないんだけど、これは僕の不手際だからね。
世界にはいくつもの種類がある。そのうちの一つに君を生まれ変わらせてあげよう。
せっかくだからね、選ぶといい。どんな世界、どんな自分がいい?」
少年の形が揺らいだ気がした。
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「どんな世界、どんな自分…か」
そんなこと考えたことも無かったな、。
どんな世界でも…って魔法がある世界とかも存在するのだろうか。
しかし魔法が存在する世界がどんなものか分からない。変な化け物だっているかもしれない。
俺の描いていた人生の理想像は、とりあえずお金を稼げるようになって、美人のお嫁さんをもらって、そんでもってピンピンコロリ…平和に生きたかった。
とりあえず俺のいた世界ならお金持ちになりたかった。
「オカネモチ…?」
「あっ、」
考えていたことが口から漏れてしまっていたか??少年が聞いたこともない…というふうに口を開いた。
しばらく目を閉じ考えるそぶりを見せた後少年は、
「あるよ。オカネモチになれる世界。」
と言った。
お金、という概念が存在しているということはそこまで未開の場所ではないのだろう。
その世界のことが気になり、少年にさらに尋ねてみる。
「その世界……犯罪もあんまり無い。とても平和みたいだ。人間にとってはすごく過ごしやすい世界みたいだ。」
なるほど。悪くないんじゃないか。
そう心の中で思った瞬間、少年はにっこりと微笑み「決まりだね!」と言った。
「えっ、あっちょっと待って?まだ決めてる途中なんだけどもう少し考えさせて、、、??」
こいつ、人の心の中でも読んでるのか?
俺の言葉をガン無視して手元の書類をいじり始めると俺の体はなんだか透け始めた。
「超オカネモチに設定しといてあげるよー!
事故に遭って記憶を失ってしまった、ってことにしてあるから大丈夫!
僕優しい!超イージーだよ!!!!」
かすれゆく意識の中少年の声が遠くに聞こえる。
どうせなら魔法とかが使える世界に…とかも思ったがなんだかんだで平和なことが一番だろう。これでよかったのだ、きっと。
そう思って目を閉じた俺はソレの最後の言葉が聞こえなかった。
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「君が行くのは “お金が全て”の世界 だ。」