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僕の物語  作者: 志摩
3/3

三、




長男が生まれた時、私は死ぬほど怖く、そして幸せを噛みしめることになった。

陣痛で苦しむ妻を見ていることが辛く、そして何もできない自分が情けなかった。

妻の祖父母はまだ健在だったが、祖父は施設、祖母も足腰が弱っていて、病院にはこれそうもなくて。私が支えるほかなかったのだが、足手まといではないかと言うほど何もできない。

やっと生まれた時には安心して涙が出た。

そして笑っている妻と、抱かれているふにゃふにゃの長男を見た時に感じたいっぱいの幸せでまた泣いた。

自分がこれまで苦して、辛くて、それでも生きてきたことを誇りに思えた。自分はこの妻と出会って、子供が生まれてこれほどない幸せをもらった。これまでの人生で感じたことのない満ちた心地がしていたのを覚えている。

私たちは結婚して1年半、ようやく彼女の願いを叶えることができた。

最終的に私たち家族は子を三人の五人家族となったのだが、最後の子が生まれるまで、祖父母は健在だった。それが妻には嬉しく、そして私にもありがたかった。

しかしその後、妻と私の歯車は少しずつずれて崩れ行くことになるのだが、この時の私は紛れもなく幸せであったと記しておく。

妻がおかしくなったのか、私がおかしくなったのか、何が始まりだったのか、よくは分からない。しかし彼女は祖父母が亡くなった後、家族というものに依存し、独占欲の塊になり、私なしではいられないほどになってしまった。

上の子が大学に行くために家を出た時だっただろうか。

「みんなこうやって家を出てくのね」

それは子を育てあげた達成感と、少しの寂しさが混じった言葉だと私は解釈していた。

しかし少しずつ、妻は次男と長女に手を焼きすぎるようになる。

ここで一度くらい私の実家について触れておこう。

私は実家の両親とは疎遠で、私が結婚する時も挨拶に行ったきり結婚式まで会わずじまい。その後も子が生まれた連絡をしてもあまり会いに来ることもなく、手紙や贈り物が時々届く程度。うちは長男である兄が後を継ぎ、次男である私は婿に出してさよならという感じだった。昔から私は長男の保険でしかなく、目に入れても痛くない長男とは違い、おまけでしかなかった。

長男もその両親にそっくりで、弟は自分より下のもの精神が強く、自己主張の強く、我儘だった。

兄はなんでもできるつもりで、両親に根回しされてることも理解せず、常に自信家であった。自分での努力などしたことがあるのか分からないほどだった。両親の言われた通りに過ごせば間違いはない、そんなくらいだろう。私はこんな家族が嫌いで、高校から寮のある遠くの街へと引っ越すことにした。

両親は特になんとも言わなかった。それが結果的に兄よりも優秀な弟を作ることになり、両親の私嫌いは酷くなったのだと思う。私は兄よりも良い大学に入って、コネもなく就職し、先に彼女を挨拶に連れてきて結婚し、また先に子供も生まれた。

兄は私の結婚後にすぐ見合いして妻をもらったらしいが、うちの三人目が生まれた頃離婚した。子供はなく、嫁が耐えきれず家を出ていった挙句の手段だったようだ。

その頃から両親が頻繁に私に連絡を取ってくるようになるのだが、私はそれに構いはしなかった。諦めてくれるまで時間はかかったが、こんな両親の影響を子達に受けてほしくなかっただけである。






こうして見ると、真理子さんは確かに母親で、夫や子供のことをよく見ている人なのだろう。聞いた話はとても参考になったし、ついでに作ってきてくれるおかずも美味しいし、助かっていた。

ただ押し付けがましいところがたまに傷で、私にはちょっと重い。名前で呼ばないと怒るところやお節介なところは、ステレオタイプな母親像で、私には少々厄介だった。

加藤の結婚についても、私なは同意を求めてくるだけで、勝手に話が進んでいた。多分、来週あたりにはプロポーズさせられているではないだろうか。

加藤もまんざらではなく、話を進めているところを見ると、誰かに後押しされたかったに違いない。すぐに私のところに結婚式の招待状が来るだろう。

その頃までにこれを書き終えるのが私の役目で、仕事で、最後だろうが。色々と上手くいくといい、結婚式にはちょっと行きたいとは思えないが、後日談くらいは聞いてからいきたいものだ。






今日も堀田の家に向かっていることころだが

、今までと違うのは道中で真理子さんが一緒な事と、話が僕の結婚である事。この人は仕事も早いし頼りになるのだが、何事も手が早くて、プライベートまで絡まれるのがここまで厄介だとは最近知った。

後二週間後には真理子さんが予約のとってしまった美味しくて有名なフレンチレストランでプロポーズしなくてはならなかった。

この半年ほどで、僕は彼女にそれとなく結婚の話や子供の話、将来の話をして。同時進行で家をどうするかとか、実家がどうとか考えなきゃいけなくて。仕事もしなくちゃならなくて、やることが多すぎててんてこ舞いだった。

ゆっくりと堀田と酒が飲みたい、本の話をしながらダラダラと酒が飲みたい。そう感じる日が多くなった。堀田さんはいわゆる仕事相手だったと思うっていたのだか、それ以上に友達であると気がついたきっかけになった。

なんともありがた迷惑な先輩には少しだけ感謝して、こうでもされないと何も進めなかった自分の愚かさを呪った。

「プロポーズの言葉は決めたの?」

「それは彼女に最初に言いたいので教えません。内緒です」

真理子さんはくつくつと笑って、少し満足したような顔をした。

「少しは頭使ってれんあいするようになつたのね」

上から目線だが、正論なので返す言葉はない。最近は彼女にまで、こんなロマンチックな人だったなんて今まで知らなかったと言われてしまった。多分彼女も何かを察知しているし、きっとこんな事をするのは今だけだという事も分かりきっている。

「これが癖になると、子供ができた時にサプライやら何やらでわいわいやれるんだけどね」

僕の顔から何かを読み取ったらしい一言に、僕のもやもやが加熱した。こんな悩みがこれからもずっと続くらしい。

「大変なんですね、親って」

溜息交じりの小さな声は、とうな風にかわからないが聞こえてしまったようだ。

「親は苦労も多いけど、その分の幸せをもらえる。後悔してしまうのはどんな事をしてても多少はあるし、苦労もあるのは当たり前。でも幸せもその分増えるからさ」

微笑む真理子さんは母の顔だった、と思う。きっと彼女も沢山の苦労をして、こうやって人にまで手を焼いて、経験を積み重ねているからの言葉だったのだろう。日々の生活から幸せを感じている、人生を謳歌しているのだと思う。

僕や引きこもっている堀田との会話だけでは得られない沢山のものが詰まっている人なのだ。彼女と堀田さんを合わせた事はまずかったと思っていたのだ。しかし作品を見ると仕上がりがだいぶ変わってきているので、良い方の変化があったと思いたい。

きっとこれからもこうやっていろんな話を書くためには良い経験なはずだから。


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