始まりの物語
ざわざわと、ノイズが流れる音がする。音を聞く耳も、それを理解する頭もない筈なのに、なんとなくそんな気がした。それと同時に、何かが始まる予感もした。
そしてそこで、私は『生まれた』。
※ ※ ※
意識が、水面を割る様にゆっくりと浮上する。重い瞼をゆっくりと開くと、薄く滲んだ涙がぼんやりと視界を塞ぐ。目を擦り、涙を拭って、クリアになった世界の光景に思わず目を細める。
「……眩しいな」
往来の中心で、そう独り言ちた。見るもの全てが自分にとっては知らないものばかりで、輝いて見えた。
寄る辺などある筈もなく、周りの物珍しさを存分に堪能しながら道を歩く。竜が引く車、亜人、獣人、エトセトラエトセトラ――。
そうして歩いているうち、通りの端に行き着いた。ざっと歩いて、この都市は随分大きいのだなという印象を受けた。店も多く、人も物流も多い。
状況を整理し、徐に振り向くと、視界いっぱいに人間の顔のどアップが映り込んできた。
「……っ」
思わず息を詰めると、相手はしてやったりという笑みで深く頷き、一歩退いて口を開いた。
「君、ここは……王都は初めてですか?」
整った顔立ちの青年と少年の中間といった男だ。格好から察するに、行商人だろうか。
「ああ。振り向いて大きな顔が映り込んできたのも初めてだ」
少しだけ皮肉を交え、男に答える。彼は困ったように頭を掻くと、帽子を取って軽く一礼した。
「出会い頭に失礼を。僕はアレイ・デラクールと言います。君は?」
青髪に色白の肌の青年は、幸薄そうな顔を緩めこちらの瞳を覗き込む。
「私は……」
名前を、思い出そうとしただけだ。そのほんの一瞬の間に何があったかは、自分自身にも分からない。
ただ、記憶の奥底が疼いて、視界が暗くなって。
「……参ったな」
往来に倒れ込む少女を見下ろし、アレイは自分の旅路がどうなるものかと頭を抱える。
「……とりあえず、連れて行きましょうかねぇ」
こうして、少女と青年の平穏とは言えない日々が幕を開けた。