第1話 1部
長距離用スナイパーガンのスコープには、1人の男が映っていた。
男は少し丸みのある体系で、黒いスーツを着ていた。その周りには、同じく黒いスーツにサングラスをかけたボディーガードの男達がいた。
少し早足で曇り空のせいか、薄暗い裏通りを男達は歩いてゆく。
そんな風景を静かにスコープから少年は覗いていた。建物の屋上に少年は気配を完全に消し、隠れていた。
スコープは自作の自動追尾機能により、ボディーガードに囲まれた男にロックオンしていた。少年は、狙いを定める。男の歩くスピードを銃に読み込ませる。歩くスピード、歩いたときの揺れ。男と銃がぴったりと、合わさる。
今だ。
引き金を引くと、銀色の銃弾が放たれる。銃弾は、まっすぐ、男の頭を打ち抜く。
男は、何も言葉を発することが出来ないまま、バタリと倒れる。それに気づき、ボディーガードだった、男達はハンドガンを構えた。
少年は、場所を気づかれる前に、すぐに、その男達に銃口を向ける。数度、引き金を続けて引く。銃から放たれる銃弾は、すべて男達の頭を貫いた。
たった、数秒のことだった。男達は、倒れ、辺りは、紅の血に染まっていた。
「ミッション完了。ターゲットは倒した。周りに数人ボディーガードもいたが、難無くクリア。以上」
少年は、トランシーバーを取り出して、言った。
「ご苦労様。じゃあ、アジトに戻ってきてね。」
場違いな、陽気な少年の声が機械から返ってきた。
銃を片付け、少年はその場を去った。着ていた、黒いコートが、風に吹かれる。
西暦3000年というすばらしき数字を人類は数えることまでなしえた。1000年ほど前までは、隕石の衝突や地球温暖化現象などが心配され、西暦3000年は人類には訪れないと言われていたが、人類は難無くそれを乗り越え、自由と平和の世界が出来ていた。
隕石の衝突は、訪れる気配はなく、結局何も起こらなかった。代わりに、世界中の科学者は多大な批判を受け、科学者と呼ばれていた人々は急激に減っていった。
温暖化現象は、世界の多くの国々が協力し合い、ついに日光を必要とせずに光合成を行う、人口光合成機を開発したのだった。
人口光合成機は、世界の主要となる都市にまず設けられたが、少しずつ置かれる町は増え、今では世界各地、何処でも置かれるようになった。
それに伴い、同時に行われていた科学研究グループにより、街の建物や、歩道、車、その他たくさんのものが急激に進化した。これにより、世界の全ての街は、電子技術によって進化したニュータウンへと生まれ変わった。
ニュータウンでは、特殊合成ガラスで360度覆われた、電動歩行路が張り巡らされており、地上は、建物と、車道だけだった。駐車場はすべて地下に設置され、上だけではなく、地下までも開発が終わっていた。
街はビルで埋まっていったが、中でも高層マンションは特に目立つものとなっていった。マンション自体はそれほどたくさんはないが、街のどのビルよりも背伸びしたかのように少し高く、どの街でも目だっていた。
そんな中のある高層マンションは、同じ広さの部屋がたくさん詰まっていた。部屋は他のマンションと比べて、とりわけ大きいわけでもなく、小さいわけでもない、豪華なわけでもなく質素でもなかった。誰でも容易に住むことができる、安い貸し部屋だった。赤い布とクリーム色の壁紙、オレンジ色の証明で少し豪華な用におもわせられるように設計された廊下には、木に似せた色の茶色のドアがきれいに整列してたくさん並んでいた。ドアには部屋番号が彫られていて、黒の墨でその溝を色付けされていた。
そのマンションの部屋の中は、キッチンのついた少し広めのリビングと、浴室、寝室の3部屋があった。ドアに『302』と書かれた部屋には6人ほどの少年少女が住んでいた。リビングには6人掛けのテーブルはおいてあったが、それでもまだ十分な広さがあった。
部屋の中では、壁につけられたテレビがついていた。ピリピリとした空気の中、テレビはにらまれていたが、ピンポンという気の抜けた音がドアのインターホンから流れた。