度量衡について
この世界の単位系、長さや重さの単位は国によってまちまちです。
ただ統一されていないだけならまだ良いのですが、十倍数ごとで管理されていないため化学や工学で活用しようとすると計算が煩雑になります。ヤードポンド法みたいな感じですね。
それが気に入らなかったアインは、結構長い時間をかけて独自の単位系を確立しています。
具体的に言うと一章、二章のころに。
基本的には前世の記憶の再現、SI、MKS単位系を基準にしています。
記憶以外の全てを刷新した今世で、前世と同じ物理法則が働いていることを証明するのは困難です。
長さも重さ時間も比較することが出来ない以上、実は高重力星で巨人として転生していても、すぐにはわかりません。
事実、魔術という未知の現象が存在しているわけですし。
そんな中で最初に確認したのはアボガドロ定数(6.02*10^23)でした。
高分子合成や化学分離を行う過程で、物質量をかなり細かく制御できることに気が付いたアインは、複数回にわけて分子を一定数集めて質量を測定するという作業を繰り返しました。その結果、分子を一個単位まで分割することができるようになったわけです。
次に自らが知っているアボガドロ定数の水分子を集め、その重さを18 gと定義しました。
実際に地球と同じ物理量である保証はありませんが、感覚的には誤差の無い数字が得られました。
同様にその水を1:1:18の直方体に変形させれば長さが計測できます。短辺を1 cmとしたわけですね。
厳密に言えば温度による差があるわけですが、当面問題ない程度の誤差としてアインは無視しています。
実はこのとき、彼にはアボガドロ定数に対して独自の『アイン定数』を定める選択肢もありました。例えば、(10^24)あたりの数字を定めておけばその後の計算がかなりシンプルになる算段です。結果的には前世の感覚を優先して採用していないわけですが。
メタ的に言うと、一人称での描写が面倒になるからという理由です。
同様に気体にして体積を測ってみたり、水銀を利用して大気圧を測定することで、pv=nRTを始めとした各法則が知識と一致していることを証明し、精度を上げています。
水銀柱の測定では長さの単位も概算で補足できますね。
そんな感じです。
以後、論文を書いたり、事業を始めるにあたってこの単位系をごり押ししていきます。
ロビンス商会では工具や冶具をこの体系に統一してしまったため、職人との軋轢が発生する一幕もありました。
しかし、彼らの年齢が若かったこと、計算が既存の単位系と比較して相対的に簡易だったことからなんとか受け入れられていきます。
高速馬車事業が広がっていくについれ、アインの単位系も同様に認知されていくようになります。
もしかしたら、大陸制覇に最も近いのはアインなのかもしれません。
一方で『アイン定数』を定めなかったことで後世の研究者、技術者に恨まれているかもしれませんが。
単位系の中でもう一つ重要な要素、時間については第四章で多少言及される予定ですのでまたそのときにでも。