第2整 チートなんてない努力が必要
パチパチパチと音を立てて燃えるたき火を見ながら濡れた身体を暖める
腕輪に表示されていた道具に毛布がしっかりあった事には本当に助かったと思った
でも先ほどは流し見で見た道具欄を見ると、やはり自分の部屋にあるはずの道具や家具やら食材まで書かれているのだから、これは一体どういう事だろう
道具欄から出したココアを目の前にいるシャウネ・ルーウェンスとなのった女性と共に飲みながら身体の芯まで暖めてようやく一息つけた
そうして空を見るとすっかり暗くなっており夜になっていた。
自分の住んでる池袋付近は、結構夜になっても明るいので星を見ることが出来ないが見上げた空にはとても綺麗な星が沢山輝いていた
先ほども確信したが、ここは異世界らしい
星を見終わりシャウネ・ルーウェンスを見直すと「はふぅ~」と吐息を出しながらココアを美味しそうに飲みながらまったりしていた。
シャウネはこちらの視線に気づいた様でキリッと顔を引き締めてコップを置く
そしてコホンと一度咳払いをして口を開いた
「さて!田中さん落ち着いたところでこの世界について説明しますね!」
「俺の名前は里中です。似てはいますが全く違う人になってしまいますよ」
と冷静に切り返して言うと、えっという顔をして一枚の紙を取り出す、取り出された紙を見ると間違いなく占い師に書かされた紙で間違いなかった
シャウネはその紙を見ながらあはははっと苦笑いをしながらこちらを見直し咳払いをする
「失礼、里中さんまぁ人間誰にでも間違いはあるので許してくださいね!という訳でまずはこの世界について説明しますね」
と元気よくサラッと名前を間違えたことを流し世界の説明をしようとしたので手を挙げて静止を促す。
説明しようとするのを止められたのが余程嫌だったのだろう、シャウネは、ん?となりめんどくさそうにこちらを見てきた
その目に若干戸惑いはあったものの疑問をぶつける
「ここが異世界なのはなんとなくわかってる、あんた俺にアンケート書かせた占い師で間違いないよな?確かに若干異世界に興味がないわけではなかったが、なんで俺を選んだ!?あんな現実的な能力しか書かなかった俺をよく選んだな!」
と指を差して少し強気に言い放つとシャウネはふぅ~~~と深いため息をついてめんどくさそうに
「それについても説明するんでとりあえず聞いてもらってもいいですか?」とギラッと睨みつけて来たのでうっとなり頷くとシャウネはニコッと今数秒前の表情と変わり笑顔で説明をしはじめた
この世界の名は「ライドロリューキュー」
人間、亜人、モンスター、ドラゴン、などいろんな種族が住んでいる異世界だそうだ。
大陸は全部で9つあるそうでそれぞれいろんな地域に分かれているそうだが詳しくはまたこんどということだ。
多種言語も昔は多数合ったそうだが、今ではほとんど日本語で話ができるそうだ
例外で、魔法だけはロストスペルという古代人が作った言語で形成されているそうだ。
スペル詠唱はしっかり覚えていれば簡単なものは数秒でやれるらしい。
魔法にも種類は沢山あるようで、主に五大元素 「地」「水」「火」「風」「空」で構成されているが、中には扱うのが難しいとされている「光」「闇」と「特」呼ばれるものもあるそうだ
五大元素ならこの世界の人間は生まれながらに小さい魔法なら使えるが、それ以上の魔法となるとそれなりの訓練が必要だそうだ
ちなみに、先ほど使った「八卦」は「光」と「風」を合わせた分類に入るそうだ。
二属性を同時に操る技はとても貴重だそうで、中々この世界では見ることができないそうだがどうやら異世界転移させられた俺はやり方によってはできるそうだ。
異世界転移と言ったらやっぱチート能力だが、自分の能力は「八卦」以外はそこまで強い技はないので困ったものだが話を聞くと、どうやらしっかり力をつけていけば新たな能力も増えていくそうだが、条件がそろわないと覚えないそうなので根気よくやるしかないそうだ。
つまり、チート能力なんてない
ある意味では、絶望的である
そして、シャウネ・ルーウェンス彼女はこのライドロリューキューにいると言われている神「セレンテ」という女神の使いで俺が住んでいた日本に来たのだという
その神様に「純粋に未来を見据えた異世界人の若者を連れてきなさい、さすればこの世界は救われるでしょう」と言われ占い師になりアンケートを取っていたそうだ
なので異世界に興味がありますか?と聞いてまじめに将来の事を考えた答えをあの紙に書くとどうやら異世界転移が決まってしまうそうだ
なのでシャウネ自身も誰が選ばれるかはわからなかったそうだ
なるほど、これについてはシャウネは悪くなかったと考えていい、あくまで真面目な答えを書いて「神」ならぬ「紙」に選ばれてしまった自分のせいでもあるのだと頭を抱えた。
シャウネも気を落とした俺をみながらよしよしと同情はしてくれた。
「とまぁこんな感じですね、その気を落とさないでくださいこの世界悪い事はあまりないんですから元気にやっていきましょうよ」
と元気を出させようと明るくふるまうが、今の言葉にひっかかる部分があり顔をあげシャウネを見て言う
「悪い事はあまりないってことは悪い事もあるってことだよな?それに・・まだこの世界になんで召喚されたのかしっかり聞けてない」とじ~っとシャウネを見るとシャウネもギクリとなったが観念したのか重い口を開けた
「えっと・・・実はあなたにはこの世界に現れたその・・魔王を倒してもらわなくてはいけないんですよ・・その能力と力で」
と言われ凍りついた
異世界転移の定番ではあるのだが、魔王討伐!?いやいや絶対無理だってと金の腕輪を押し自分の今のスキルデータを開く「観察眼」「マッサージ」「整体」「針灸」「幸運UP」「加速」「八卦」という異世界転移者に相応しくない文字が羅列している
口をパクパクさせながらシャウネに画面を見せるとシャウネは目をそらしあさっての方向を見た
シャウネもわかっているのだろうはっきり言って勝てない!!ということを
確かに努力によっては、これから多少能力が増えたりするが、明らかにモンスターや魔王なんて代物と戦える能力じゃない事なんて明白だ
唯一対抗できるとしたら「八卦」くらいだ
でも致命的なダメージを与えられるとは到底思えない
ますます絶望感に浸される
そうやって2人が絶望的だと落ち込んでいると急に周りの木々がざわめきだした
シャウネがあさっての方向から意識を取り戻し周りを見渡す
そして、ある気配に気づき俺の洋服を引っ張る
「なんだよ・・まだなにかあるのか?俺は今自分で選んだ能力に絶望していたいんだ・・・」
と力ない返答をするとシャウネが小さな慌てた声をだした
「おおおっ落ち込んでる場合じゃない!!前!!前見て!!!」
なんだよと思いながら前を向くとそこにはでっかいケモノがいた
茶色いふさふさの毛皮をつけ赤い目をギラッとさせ口からは綺麗に磨き抜かれたキバ、そして手には鋭く尖った爪そして全長約3メートルはあるケモノは日本にいるクマに近かった
嘘だろ!?と思いながら身体を動かさず声も出さずにゆっくり目だけを動かしてクマらしきケモノを見てると隣で小さな声でシャウネが囁いた
「あれはベアータイト・・獰猛でとても恐ろしいモンスターよ、でもなんでこんなところに・・まぁいいわこいつは確か音に反応するはずだからその場でじっとしていなさい」
シャウネそう言われコクンと頷いた
もしも声を出したり音を出したら即ち死を意味する
空から落ちそうになり死にかけ、今度はモンスターと遭遇し命の危険とは異世界転移早々ピンチの連続で身が持たない
そう思いながらベアータイトを見ているとシャウネの言う通り、パチパチなる火にしか興味を示していないどうやらこのベアータイトというモンスターは日本にいるクマと違って火を恐れるという事はないらしい
恐れてどっか行ってくれたのならラッキーだったのだが、そんな上手い事はないらしい
すると、隣でシャウネがヒイっと言う小さな声をもらす
やばいと思ってベアータイトを見るがその声よりたき火の音が大きかったようで気づいていないので、ほっとしてシャウネの方を見るとシャウネが涙目になりながら目の前を見ている
視線の先を見るとそこには小さな虫が木から糸を垂らして降りてきていて、シャウネの少し手前まで来ているのだ
どうやら女の子らしく虫が苦手というのは容易に判断出来たがこちらはどうすることもできないので見守っていると
ヒュ~という風の音と共に糸がブランブランと揺れてシャウネの目の前を行ったりきたりしている
シャウネも必死にその恐怖に耐えながらそれを見ていると
二回目の風で糸が大きく揺れシャウネの鼻にぴとっと虫が着いた
あっとなり嫌な予感を感じるとそれは現実になった
「いやあああああああああああ!!!虫!!!いやああああああ!!!!」
と大きな声で叫んだのでベアータイトがこちらに気づき鋭い爪を立て腕を振り下ろしてきたので、バッとシャウネを抱きかかえ横に避けた
寸でのところでベアータイトの攻撃を避けることができたが、シャウネは泣きながら声を出し続けているのでベアータイトはすぐに両足で立ちこちらに向いてきた
「走るぞ!!!」と声をだしてシャウネの身体を抱きかかえ走る
シャウネにもう虫はついてないのだが、冷静になれず大泣きしながら子供みたいになっている
先程俺をギラッと睨んだあの女性とは思えないなと思いながら走っているとベアータイトも木々をなぎ倒しながら追ってくる
このままではやばい
「シャウネ!!!正気にもどれ!!虫はもういないから頼む!!!正気に戻ってくれ!!」
と声をかけるがシャウネは泣きじゃくって声が届いていないらしい
あぁ!!!クソ!!と全力疾走をし右へ左へとベアータイトの攻撃を避けながら走り続け、息が切れそうな時にようやく森から抜け周りをしっかり見渡せる平地に出た
ベアータイトともかなり距離を取ることが出来ており、シャウネも若干だが冷静さを取り戻してきていたのでこのままあと少し逃げればいけると思った瞬間小石につまずいた
嘘だろ!?と思いながらシャウネを怪我させたらいけないと身体を切り替えし背中から倒れる
くっと痛みに耐える声をもらし前をもらし前をみるとベアータイトが自分達に追いつきグオオオオオという声を上げて鋭い爪を天高く上げ振りおろそうとしていた
俺の異世界転移はこんな簡単に終わってしまうのか・・・そう思い目を閉じた
すると
「火よ!!!!敵を穿て!!!!ファイヤーランス!!!」
と高らかな声とともにベアータイトが飛んできた炎の槍らしきものに突き刺され飛ばされた
飛んできた槍の方向を健太が見るとそこには赤い鎧をつけた騎士が立っていた