プロローグ
一度世界が滅び、再構成されてからの暦でいう2011年、日本列島のなかで日本国の一部として残った数少ない都市である「学都市」。読者諸君の住む世界の日本でいう関東地方全域までを規模とするこの都市に、とある危機が訪れようとしていた。
4月某日、学都市市長のもとに、“学都防衛士団”の団員からこのような伝令が届いた。
『我らが市の北部に位置する“京バルタ市国”の手勢が市境を襲撃し、学都市へと侵入。当時の市境の見張りの任に就いていた部隊員の9割が死亡、残り1割は意識不明。侵入者は未だ見つからず、その身元および身体的特徴、京バルタ市国軍との関連性の有無も不明。』
この報告により、学都市市議会は大混乱に陥った。京バルタ市国は十数年前に建国されて以降、自国民に対する劣悪な人権無視と、過酷な環境で訓練された特殊能力保持者によって構成される強大な軍隊、なにより列島全域を侵略せんとする軍事行動で知られた国家であり、その侵入は学都市およびその市民の安全を脅かすことを意味するからだ。
追い詰められた市は、「能力者には能力者を」という発想をもとに、学都の地に何代も続くとある能力者の一族の末裔の力を借りることを決断する。入り込んだのが市国軍の能力者である可能性がある以上、残された選択肢はこれしかなかった。
これは、学都市の命運を担うこととなった少年少女の、青春の物語である。